【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第三章

51. 言葉の意味

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「どうかした?」
呆然とした私の様子にレイが心配した表情で私の顔を覗き込んだ。

「あ、いや、何でもない。ちょっとびっくりしただけ。」

ニコラウスさんに触れられた耳に手をやりながら心配させまいと笑顔を作った。何も分からない状態でレイに話しても混乱させるだけだ。頭を整理する時間が必要だった。

「ふぅん、それならいいけど。」
レイは不審な目をしながらも一応納得してくれたようだ。

「それより、幽玄の木を手に入れた報告を先生にしないと。」
私はリトルマインをリュックから取り出し、切り株の上に置く。

「先生~、先生~、聞こえますかー?」
「聞こえていますよ。」
「先生、幽玄の木を手に入れました!!」
「まぁ、こんなに早く手に入れられるとは思いませんでしたよ。よく頑張りましたね。」

「運の力が大きかったですけど、何とか手に入れられて良かったです。バッグに入れておいたので受け取ってください。」

「ありがとう。では次の薬材ですね。」
「はい、次はどんな薬材ですか?」

私が先生に尋ねるとレイが真剣な表情でリトルマインを見つめた。

「次の薬材はもう決まっておりますわ。フランシールのパウパオ島にいると言われるチェルシー鳥の涙です。チェルシー鳥の涙は宝石のような塊になって落ちると言われています。そしてその効力はヒーリング効果9。この世にある最高水準のヒーリング効果を持っていると言われています。薬によって損傷した臓器を回復させるためにはそのくらいの効力が欲しいのです。なるべくたくさんいただいてきてくださいね。」

「わかりました!そういえば先生、グショウ隊長たちはどうしていますか?フランシールとの交渉は・・・。」
「あぁ、グショウたちは。」

先生が言いかけた後、少し離れた所で声がした。

「ライファ、客人が参りましたのでその件に関しましては夜にでも連絡しますわ。」
「わかりました。」




「レイ、パウパオ島だって。どこにあるか知ってる?」
「ちょっと待って、今、地図を出すよ。」
「フランシールにあるって先生が言っていたからフランシール付近にあるはずだけど・・・。」
「あ、あった!ライファ、ここだ。」

レイが指さしたのはフランシールの本土から50km程離れた西の海上にある小さな島だった。地図を見る限りフランシール王都からは飛獣石で4時間といった距離だ。

「ここからだと飛獣石で二日もあれば行けそうだな。今日は少し頑張ってフランシールの王都まで行ってみるか。その方がいい情報が手に入るかもしれない。」

レイが地図をリュックにしまいながら言った言葉に頷いた。
フランシールはファッションの都と言われている。ファッションの流行はフランシール王都から発信されると言っても過言ではない。ファッションに興味があるわけではないが、ファッション最先端のお洒落な街並みを見てみたいと思っていたのだ。

「フランシールの王都か。ちょっと楽しみだな。」
「ライファ、飛獣石に乗って。」
「うん!」

レイの声に反応したベルが慌てて私の側に寄ってきた。そのベルを服の中に誘導する。
飛獣石はぐんぐん上昇しながら西へ向かった。冬の始まりを告げる冬歌鳥が飛獣石の横を通り過ぎてゆく。レイがリュックの中から布を取り出すと慣れた手つきで二人の体を包んだ。

「あったかい。ありがとう。」
「だいぶ寒くなってきたよね。」

レイがそう言って私の腰に回す手に力を入れた。その手に自身の手を重ねる。

「・・・心配した?」

夕食の食材を手に入れてくると行ったきり忽然と姿を消したのだ。逆の立場だったらと思うと想像するのも耐え難い。しかも3日間もだ。

「心配した。何度つかまえてもライファはいつもいなくなる・・・。」
最後の方は消え入りそうな声だった。

「ごめん。」

もう会えないかもしれない、その不安さがわかるから素直に謝る。首元に伝わる振動でレイが首を振っているのが分かった。

「ライファがわざとやっているわけじゃないって分かっているし。でも、ニコラウスさんとすごく仲が良くなっていたのにはちょっと妬いた。」

妬いた!?
「えぇっ!?」

驚いて振り返ると少し赤い顔で私から視線を逸らしたレイの姿があった。

「子供っぽいだろ?こういう自分、嫌になる。」

王族にも物怖じせずに話し、魔獣と対峙すれば大きな魔力でねじ伏せる。いつも堂々としているレイが妬いたと言って私から顔を逸らし、頬をほんのりと染めているのだ。

「レイ、かわいい・・・。」
この言葉以外にどんな言葉が出てこようか。

「ぐっ・・・。」
ダメージを受けた時のような声を出して押し黙ったレイを見て少し笑った。



―レイさんを守りたければ私を止めることですね。

ニコラウスさんの言葉が脳内をめぐる。あれはどういう意味なのだろう。ニコラウスさんを止める・・・か。異空間での魔獣との戦い方やシューピンに乗った時の運動音痴具合を見ると体や魔力を使った戦闘でニコラウスを脅威に感じることは無いように思う。ニコラウスさんを脅威に感じるとしたらやはりあの調合の腕だろう。

でもなぜレイなんだ?どこかでニコラウスさんの恨みを買ったのだろうか。いや、森の中でレイとニコラウスさんが共に過ごした時間は僅かだし、そこには私もいた。私が見る限り、二人の態度には何の問題もなかった。そしてレイとニコラウスさん、二人の反応からレイがニコラウスさんと以前に会っていたことは無いと思われる。

ニコラウスさんの個人的な恨みではない。とすると思いつくのはレベッカ様だ。

『好きなんて生易しいものじゃないと思うよ。』

レベッカ様はレイのことをそんなに好きなのかとニコラウスさんに尋ねた時、ニコラウスさんは確かにそう答えた。好きなんて生易しいものではない、その感情はどういったものなのだろうか。
好きな人には振り向いてもらいたいと思う。両想いになってずっと一緒に居たい。それが叶わないとしたら、諦められないとしたら・・・。レベッカ様なら・・・。
ハッとした瞬間、冷たい手でゆっくりと首筋をなぞられた様なゾクッとした恐怖に襲われた。

惚れ薬的なものだろうか。
レベッカ様からの依頼でニコラウスさんがそういう類の薬を調合する。私を止めろとはそういうことなのではないか。ピースが音を立ててはまっていく。あのニコラウスさんが調合するとしたら単純な惚れ薬のはずがない。

一般的に惚れ薬というものはある。だがその効果は曖昧で、一日以上効果が現れる薬など聞いたこともなければ必ずしも効果があるわけではない。飲む側の気持ちが大きく作用するからだ。自分を嫌っている相手に飲ませても、薬に抵抗する心の力が大きく働き、効果が発揮されないのが常だ。効果が現れる場合の殆どが飲んだ側も相手に好意を抱いている場合なのだ。そのような理由から惚れ薬として期待して飲ませるのではなく、相手に嫌われていないか等、相手の気持ちを知りたい時に使われる。


このような薬を調合したとしてもレベッカ様は満足しないだろう。きっとレベッカ様ならレイが自分を好きになりずっと側にいてくれるような薬を欲しがるはずだ。

私を止めることですね、とニコラウスさんは言った。それはつまりまだ薬が完成していないということではないだろうか。ニコラウスさんを止めなければ。でも、どうやって?

「どうしたの?急に黙って。」
「・・・ねぇ、レイ。レベッカ様には気をつけてね。何か渡されたりしても口に入れたりしないで。」
「どうしたの、急に。何か言われた?」

「いや、ニコラウスさんの調合の腕は確かだから、レベッカ様に何か薬を依頼されていたら怖いなと思ったんだ。」

一緒に過ごした期間のニコラウスさんの印象が忘れられずに、ニコラウスさんに言われた言葉は言わないでいた。

「大丈夫だよ。私の食べ方にはライファだって気が付いているでしょう?毒や薬の類にはある程度馴らしてあるし、レベッカに会う事はもう無いと思うよ。」

会うことは無い・・・か。

「それならいいけど、本当に注意してね。」
「わかった。」

レイは私を安心させるようにふんわりと微笑んだ。


その日の夕方、まだフランシールの王都を目指し飛獣石に乗っている時にリトルマインが鳴った。

「はい、ライファです。」
「マリアです。」
「先生!」

「昼間聞かれたことですし、グショウたちの近況についてお知らせしようと思いまして。今話しても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」

私はリトルマインをしっかり持ってレイにも聞こえるようにと自身の顔の高さまで上げた。


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