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第四章
7. 罠
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私がいずれジェンダーソン家を出たいと宣言してから数日、代わり映えの無い日常が続いていた。母上も父上も私がジェンダーソン侯爵家を出たいと言ったことなど聞いていなかったかのようにいつもと変わらない態度だ。ライファに連絡すればライファは忙しそうで、ルカも毎日グショウ隊長たちに鍛えられて大変なんだよとライファが教えてくれた。
自分が日々行っている騎士団の仕事は大事なものだ。ユーリスアの秩序と平和を守っている、そう理解していてもローザを止めようと動いているライファたちを見ていると自分がここにいることにもどかしさを感じてしまう。
こんなことじゃだめだな。
今、自分に出来ることをしようとライファとも約束をしたのに。
「おや、レイ様、もうお帰りの時間かい?」
「タニアおばさん、もうってほら今は15時ですよ。むしろいつもより遅いくらいですよ。」
私が街の中央にある時計台を指差すとタニアおばさんは、まぁ!と甲高い声を出した。
「もうこんな時間かいっ!大変だ、買い物に行かなくちゃ。」
「お気をつけて。」
タニアおばさんに軽く頭を下げ路地裏に入った時に小さな女の子とぶつかった。女の子が私に飛び込んできたような形だ。私にぶつかった衝撃で女の子が転ぶ。
「ごめん、大丈夫?」
5歳くらいだろうか。女の子は一瞬顔を歪ませたが私を見るなり私にしがみついた。
「お兄さん!!男の子を助けて!!」
「どうしたの?」
「道路に大きな穴が開いて男の子が中に落ちていったの!!こっち、早くっ、こっち!!」
女の子に引っ張られるまま路地裏を曲がり更に奥へ進むと、道路が盛り上がって割れたようになっており、その中心を女の子が指さした。
「これは大きな亀裂だな・・・。」
「きっとあの真ん中の辺りにいると思う!!」
「わかった。君は他の騎士団を呼んできてくれるかぃ?」
「わかった!!」
女の子が走り去る足音を聞きながら自身の足に魔力を宿して亀裂を飛び越えながら道路の中心部まで移動した。
「おーい、誰かいる?助けに来たよ!聞こえたら返事をして!」
返事はない。もしかしたら気を失っているのだろうか。
亀裂の中を覗き込んだ時だった。
バキッ!
後頭部に衝撃を感じそのまま亀裂の中に落ちた。
敵か!?
咄嗟に相手の姿を見ようと身を翻した瞬間、顔を捕まれ視界を塞がれた。
「へぇ、咄嗟に身を翻すとはなかなかやるわね。」
その言葉を最後に私は意識を手放した。
「レイ!レイ!大丈夫か!?」
「ん・・・。」
ぼんやりとした光、眩しさに目を細めながらも目を開けると、泣きじゃくる女の子の顔が目に入った。
「ごめんなしゃい、私のせいで。ごめんなしゃい。」
「大丈夫だよ。ほらお兄さんも目を覚ましたし。レイ、どこも痛くないか?」
「ん、頭が少し痛い。」
「うわぁあああん、お兄さん、ごめんなしゃい。私の勘違いで、ごめんなしゃい!」
状況がよく分からず、私は大丈夫だからそんなに泣かないで、と女の子を慰めていると、ラミが説明してくれた。
「道路に大きな穴が開いて男の子が落ちたと彼女が助けを求めてきたんだ。騎士団のお兄さんが男の子を助けているけど、人を呼んできてくれって言われたと。」
「やっぱり他に人はいないみたいだな。レイ、大丈夫か?」
亀裂を覗いていたもう一人の騎士団の仲間が私の元へとやってきた。
「あぁ、頭にコブが出来たくらいだと思う。」
後頭部をさすりながら女の子に向き合った。
「仲間を呼んできてくれてありがとう。勘違いでも、この道路は直さなきゃいけないから私を呼んだことは間違いじゃないよ。ちょっと私がドジだっただけ。それに、怪我人がいないのならそれに越したことはないんだ。」
ふふっと微笑むとようやく女の子は泣き止み、少しの笑顔を見せてくれた。
「お兄さん、もう痛くない?」
「うん、もう、大丈夫。」
「さぁ、お嬢さん。僕が送っていこう。お家の人が心配しているといけないからね。レイは騎士団に戻って医務室で怪我を見て貰え。ラミ、レイを送ってこい。」
イギ―はそう言うと現場に人が入れないように結界を張り女の子を連れて行った。
「うーん、外的怪我は頭のコブだけだね。」
医務局長が私の全身を魔力でスキャンした後で言った。
「で、どうしてこんなことになったの?」
「それは。」
「ラミは黙っていて。これもちゃんとした問診だからね。レイ、答えて。」
「なんで・・・?あれ?」
ラミに起こされたところから記憶を遡ろうとするが欠片さえも思い出せない。
「なんでだっけ・・・?」
「思い出せない?じゃあ、今朝のご飯は?」
今朝のご飯・・・、ご飯は・・・。
「・・・・・わからない。」
「ラミのことは覚えてる?」
「はい、ラミのことは分かります。私と同期ですし。」
「全然記憶がないわけではないな。怪我をする前の一番新しい記憶は何?」
「えーと・・・演習で森に大きな穴を開けたことですかね。兄さんに呆れられた記憶があります。」
「あぁ、あれか。あれは・・・春になったばっかりの頃だったかな。森にあけた穴はあの後どうなったか覚えてる?」
「どうだったかな・・・。兄さんが直してくれたんだっけ?いや、兄さんはやらないか。私が直した?」
「なるほど。つまり約10か月の記憶がないってことか。亀裂に落ちた時に頭を打ったのだろう。記憶が抜け落ちても不思議はない。思い出すかもしれないし、思い出さないかもれない。日常生活に支障はないだろうから焦らずにね。」
「わかりました。」
10か月ほどの記憶がない。それは不思議な感覚だった。
「団長には私からも話をしておこう。体に異常はないからもう帰ってもいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
医務室を出てラミと並んで歩く。
「10か月分の記憶がないってどんな感じ?」
「そうだな、正直、あんまり変わらないんじゃないかなと思っているけど。10か月の間に私に何か重要な出来事ってあった?」
「さぁなー。でも、特別任務で旅に出ていただろ?その期間のこと覚えてない?」
「特別任務!?」
「そうか、特別任務に出ていたことも覚えてないのか・・・。ん~、まぁ、でもなんとかなるよ。」
ラミは慰めるように私の肩を叩いた。
自宅に帰るとエリックが馬車の手入れを終えたところで、こちらを見てお帰りなさいと言ってくれる。10か月記憶を失くしたからと言ってジェンダーソン家に仕える使用人のことも全員知っているし、当たり前だけど自身の部屋の場所も分かる。
「これは見たことないな・・・。」
部屋にあったリトルマインを手に取って首を傾げた。あとで兄さんにでも聞いてみよう。洋服をチェックすると如何にも貴族といったヒラヒラの服が何着か増えていた。げんなりしながら、きっと姉さんと母さんの趣味で買ったものだろうと思う。
「ざっと部屋を見渡したけど、本が数冊増えているとかそんな程度か。」
鏡を見るといつもの自分の顔がある。
「10か月経っても自身の顔はあまり変わらないな。変わったことはこの髪紐か。なんでこんなのを髪につけているんだろう。邪魔になる髪の毛ってわけでもないのに。」
手でつかんで外そうとしたが触れたところで手を止めた。
「私がこんなことをするくらいだから、大事なことなのかも。」
自分の性格上、何の理由もなくこのような髪紐をつけるとは思えなかったのだ。
「さて兄さんのところに行くか。」
自身の部屋を確認したのは、10か月記憶がないことくらい大したことは無いのだと自身に言い聞かせる為だ。流石に特別任務の内容を忘れているのは不味いと思うが、日常生活は本当に問題がないのだと確認したかった。
リトルマインと髪紐、この二つだけが10か月前の自分からしてみれば異質で、なんとなく落ち着かない気持ちを抱えながら兄さんの部屋のドアをノックした。
自分が日々行っている騎士団の仕事は大事なものだ。ユーリスアの秩序と平和を守っている、そう理解していてもローザを止めようと動いているライファたちを見ていると自分がここにいることにもどかしさを感じてしまう。
こんなことじゃだめだな。
今、自分に出来ることをしようとライファとも約束をしたのに。
「おや、レイ様、もうお帰りの時間かい?」
「タニアおばさん、もうってほら今は15時ですよ。むしろいつもより遅いくらいですよ。」
私が街の中央にある時計台を指差すとタニアおばさんは、まぁ!と甲高い声を出した。
「もうこんな時間かいっ!大変だ、買い物に行かなくちゃ。」
「お気をつけて。」
タニアおばさんに軽く頭を下げ路地裏に入った時に小さな女の子とぶつかった。女の子が私に飛び込んできたような形だ。私にぶつかった衝撃で女の子が転ぶ。
「ごめん、大丈夫?」
5歳くらいだろうか。女の子は一瞬顔を歪ませたが私を見るなり私にしがみついた。
「お兄さん!!男の子を助けて!!」
「どうしたの?」
「道路に大きな穴が開いて男の子が中に落ちていったの!!こっち、早くっ、こっち!!」
女の子に引っ張られるまま路地裏を曲がり更に奥へ進むと、道路が盛り上がって割れたようになっており、その中心を女の子が指さした。
「これは大きな亀裂だな・・・。」
「きっとあの真ん中の辺りにいると思う!!」
「わかった。君は他の騎士団を呼んできてくれるかぃ?」
「わかった!!」
女の子が走り去る足音を聞きながら自身の足に魔力を宿して亀裂を飛び越えながら道路の中心部まで移動した。
「おーい、誰かいる?助けに来たよ!聞こえたら返事をして!」
返事はない。もしかしたら気を失っているのだろうか。
亀裂の中を覗き込んだ時だった。
バキッ!
後頭部に衝撃を感じそのまま亀裂の中に落ちた。
敵か!?
咄嗟に相手の姿を見ようと身を翻した瞬間、顔を捕まれ視界を塞がれた。
「へぇ、咄嗟に身を翻すとはなかなかやるわね。」
その言葉を最後に私は意識を手放した。
「レイ!レイ!大丈夫か!?」
「ん・・・。」
ぼんやりとした光、眩しさに目を細めながらも目を開けると、泣きじゃくる女の子の顔が目に入った。
「ごめんなしゃい、私のせいで。ごめんなしゃい。」
「大丈夫だよ。ほらお兄さんも目を覚ましたし。レイ、どこも痛くないか?」
「ん、頭が少し痛い。」
「うわぁあああん、お兄さん、ごめんなしゃい。私の勘違いで、ごめんなしゃい!」
状況がよく分からず、私は大丈夫だからそんなに泣かないで、と女の子を慰めていると、ラミが説明してくれた。
「道路に大きな穴が開いて男の子が落ちたと彼女が助けを求めてきたんだ。騎士団のお兄さんが男の子を助けているけど、人を呼んできてくれって言われたと。」
「やっぱり他に人はいないみたいだな。レイ、大丈夫か?」
亀裂を覗いていたもう一人の騎士団の仲間が私の元へとやってきた。
「あぁ、頭にコブが出来たくらいだと思う。」
後頭部をさすりながら女の子に向き合った。
「仲間を呼んできてくれてありがとう。勘違いでも、この道路は直さなきゃいけないから私を呼んだことは間違いじゃないよ。ちょっと私がドジだっただけ。それに、怪我人がいないのならそれに越したことはないんだ。」
ふふっと微笑むとようやく女の子は泣き止み、少しの笑顔を見せてくれた。
「お兄さん、もう痛くない?」
「うん、もう、大丈夫。」
「さぁ、お嬢さん。僕が送っていこう。お家の人が心配しているといけないからね。レイは騎士団に戻って医務室で怪我を見て貰え。ラミ、レイを送ってこい。」
イギ―はそう言うと現場に人が入れないように結界を張り女の子を連れて行った。
「うーん、外的怪我は頭のコブだけだね。」
医務局長が私の全身を魔力でスキャンした後で言った。
「で、どうしてこんなことになったの?」
「それは。」
「ラミは黙っていて。これもちゃんとした問診だからね。レイ、答えて。」
「なんで・・・?あれ?」
ラミに起こされたところから記憶を遡ろうとするが欠片さえも思い出せない。
「なんでだっけ・・・?」
「思い出せない?じゃあ、今朝のご飯は?」
今朝のご飯・・・、ご飯は・・・。
「・・・・・わからない。」
「ラミのことは覚えてる?」
「はい、ラミのことは分かります。私と同期ですし。」
「全然記憶がないわけではないな。怪我をする前の一番新しい記憶は何?」
「えーと・・・演習で森に大きな穴を開けたことですかね。兄さんに呆れられた記憶があります。」
「あぁ、あれか。あれは・・・春になったばっかりの頃だったかな。森にあけた穴はあの後どうなったか覚えてる?」
「どうだったかな・・・。兄さんが直してくれたんだっけ?いや、兄さんはやらないか。私が直した?」
「なるほど。つまり約10か月の記憶がないってことか。亀裂に落ちた時に頭を打ったのだろう。記憶が抜け落ちても不思議はない。思い出すかもしれないし、思い出さないかもれない。日常生活に支障はないだろうから焦らずにね。」
「わかりました。」
10か月ほどの記憶がない。それは不思議な感覚だった。
「団長には私からも話をしておこう。体に異常はないからもう帰ってもいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
医務室を出てラミと並んで歩く。
「10か月分の記憶がないってどんな感じ?」
「そうだな、正直、あんまり変わらないんじゃないかなと思っているけど。10か月の間に私に何か重要な出来事ってあった?」
「さぁなー。でも、特別任務で旅に出ていただろ?その期間のこと覚えてない?」
「特別任務!?」
「そうか、特別任務に出ていたことも覚えてないのか・・・。ん~、まぁ、でもなんとかなるよ。」
ラミは慰めるように私の肩を叩いた。
自宅に帰るとエリックが馬車の手入れを終えたところで、こちらを見てお帰りなさいと言ってくれる。10か月記憶を失くしたからと言ってジェンダーソン家に仕える使用人のことも全員知っているし、当たり前だけど自身の部屋の場所も分かる。
「これは見たことないな・・・。」
部屋にあったリトルマインを手に取って首を傾げた。あとで兄さんにでも聞いてみよう。洋服をチェックすると如何にも貴族といったヒラヒラの服が何着か増えていた。げんなりしながら、きっと姉さんと母さんの趣味で買ったものだろうと思う。
「ざっと部屋を見渡したけど、本が数冊増えているとかそんな程度か。」
鏡を見るといつもの自分の顔がある。
「10か月経っても自身の顔はあまり変わらないな。変わったことはこの髪紐か。なんでこんなのを髪につけているんだろう。邪魔になる髪の毛ってわけでもないのに。」
手でつかんで外そうとしたが触れたところで手を止めた。
「私がこんなことをするくらいだから、大事なことなのかも。」
自分の性格上、何の理由もなくこのような髪紐をつけるとは思えなかったのだ。
「さて兄さんのところに行くか。」
自身の部屋を確認したのは、10か月記憶がないことくらい大したことは無いのだと自身に言い聞かせる為だ。流石に特別任務の内容を忘れているのは不味いと思うが、日常生活は本当に問題がないのだと確認したかった。
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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
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※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
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