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Chapter16*虹の橋の彼方でーOver the Rainbow Bridge-***
虹の橋の彼方で[2]ー①***
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ぐったりと弛緩した躰を、腰に回された逞しい腕に預ける。お互いの胸が、荒い呼吸で上下するのを感じながら、目を閉じて快感の余韻に浸る。躰は気だるいけれど、堪らなく心地好い。
いつになく性急に求められて驚いたけれど、嫌ではなかった。それよりも、すれ違いから離れ離れになったあとで、自分のことをそんなふうに求めてくれることに彼の愛と執着を感じて嬉しかった。
けれど、お互いの体を抱きしめ合っているうちに呼吸が整ってきて、頭の中が少しずつクリアになってくると、(こんなところでこんなふうにあんなことを…!)と羞恥に頭が煮えそうになる。
居た堪れなくなりながら、そっと腕を解いて離れようとした。
――のだけれど。
腰を支えていた腕に力が入ったと思ったら、ひょいと軽く抱え上げられる。アキは「ぅわっ」と声を上げたわたしに構うことなく長い脚をスタスタと動かし、そのまま部屋の真ん中の大きなベッドに勢いよくわたしを押し倒した。
衝撃に備えてギュッと目をつぶったけれど、背中に感じたのは滑らかなシーツの感触とぼわんと跳ねるマットレスだけ。
閉じていたまぶたをゆっくりと持ち上げると、アキが至近距離から見下ろしていた。
くっきりとした二重まぶた。それを縁取る長いまつ毛。
それらに囲まれた榛色の虹彩は、濡れたように光っている。
情欲を隠そうともしないその瞳に、思わず息を呑んだ。
「あれで終わろうなんて、甘いよ?」
「っ、」
「僕を煽った責任は、きちんと取ってもらうから」
「え、」
うそ――と続けようとした言葉は、またしても彼の咥内に吸い込まれた。
ぬるりと入ってきた舌が、口腔をかき回わす。
歯列をなぞられ舌を吸われただけで、沈静化したばかりの熱が、みるみるよみがえってくる。
ちょ、ちょ、ちょっと…!
背中をドンドンと叩くのに、アキはそんなことは意にも介さず、我が物顔にわたしの咥内を蹂躙している。
「んっ、んん~っ、」
せめてシャワーを……!
朝早くから新幹線に乗って本社でプレゼンをして、さらにそのあとはCMO室でのあれこれもあったし、CEOにもお会いした。
ここにたどり着くまでにあまりに色々なことがありすぎて、新幹線の中で森からの差し入れを見て爆笑したことが遠い昔のことのよう。それに加えてさっきまでの激しいアレ、だ。
とにかく今は、汗ばんだベタベタの肌をスッキリしたい。しているのかどうか分からないような化粧だとしても、よれて崩れた化粧顔なんて、とても見せられるもんじゃない。
久々の逢瀬なのに、それってあんまりじゃない!?
さっきはいきなりのことでそんなことに気を配る余裕すらなかったけれど、クールダウンしたおかげで頭が正常に働きだした。圧し掛かっている大きな背中をバシバシと叩きながら脚をジタバタさせて、抗議の意を示す。
けれど、敵もさるもの。
わたしの弱い場所をちゃんと心得ていて、巧みな舌遣いで戦意喪失を図ってくる。
くっ~、このドラネコ御曹司めっ!ドラトラになりやがってーー!
彼の背中を叩いていた手は、気付いたらスーツを握りしめていた。
極上のキスに成す術もなく翻弄される。
結構な時間わたしの唇を貪った彼は、やっとわたしの唇を解放した。
ぼってりと腫れたわたしの唇を親指で拭いながら、垂れた瞳を弓なりに細めて満足げな笑みを浮かべる。
「やっぱり吉野が一番甘くて美味い。あなたの味を今度こそたっぷり確かめないと」
「たっ、……確かめなくても、いい……」
「そんなとろんとした顔で言っても説得力ないけど?」
「うっ……」
だってそれは、アキがあんなキスするから。
「大丈夫。キスよりもっと気持ちよくしてあげる」
もっ、もう十分です! それよりも今はシャワー! シャワーを浴びさせて…!
「シャワーは、これが済んだら一緒に浴びよう。ひと休憩がてらね」
えっ!『ひと休憩』って……ことは……更にまだする気!?
嫌な予感に身を震わせたわたしとは対照的に、優雅な微笑みを浮かべたアキは、わたしの体に残されていた衣服をポイポイと手早く取り去っていく。
「やっ!」
あっという間に露わになった肌を彼の目から少しでも隠そうと、両手を体の前に持っていく。
が、一瞬でその手はシーツに縫い留められた。
「っ、」
「隠さないで――きれいだ」
満足げに微笑みながら、わたしを見下ろす瞳が怪しく光る。
アキは片手で器用にネクタイをゆるめると、シュルリと引き抜きベッドの上に落とした。
くつろげられた襟の合間からのぞく、隆起した喉元。
陶器のように滑らかな肌の上で男性らしさを主張するそれに、胸がどきんと高く跳ね上がった。
い、色気ダダ漏れですよーーっ! エコ! エコを心がけてっ!
ふたつの目を見開いて、声を出さず叫ぶわたしに、アキは小首を傾げながらにっこりと微笑んだ。
「最初に謝っておくよ。ごめんね……?」
そんな可愛い笑顔で、いったい何を謝ろうと……。
いつになく性急に求められて驚いたけれど、嫌ではなかった。それよりも、すれ違いから離れ離れになったあとで、自分のことをそんなふうに求めてくれることに彼の愛と執着を感じて嬉しかった。
けれど、お互いの体を抱きしめ合っているうちに呼吸が整ってきて、頭の中が少しずつクリアになってくると、(こんなところでこんなふうにあんなことを…!)と羞恥に頭が煮えそうになる。
居た堪れなくなりながら、そっと腕を解いて離れようとした。
――のだけれど。
腰を支えていた腕に力が入ったと思ったら、ひょいと軽く抱え上げられる。アキは「ぅわっ」と声を上げたわたしに構うことなく長い脚をスタスタと動かし、そのまま部屋の真ん中の大きなベッドに勢いよくわたしを押し倒した。
衝撃に備えてギュッと目をつぶったけれど、背中に感じたのは滑らかなシーツの感触とぼわんと跳ねるマットレスだけ。
閉じていたまぶたをゆっくりと持ち上げると、アキが至近距離から見下ろしていた。
くっきりとした二重まぶた。それを縁取る長いまつ毛。
それらに囲まれた榛色の虹彩は、濡れたように光っている。
情欲を隠そうともしないその瞳に、思わず息を呑んだ。
「あれで終わろうなんて、甘いよ?」
「っ、」
「僕を煽った責任は、きちんと取ってもらうから」
「え、」
うそ――と続けようとした言葉は、またしても彼の咥内に吸い込まれた。
ぬるりと入ってきた舌が、口腔をかき回わす。
歯列をなぞられ舌を吸われただけで、沈静化したばかりの熱が、みるみるよみがえってくる。
ちょ、ちょ、ちょっと…!
背中をドンドンと叩くのに、アキはそんなことは意にも介さず、我が物顔にわたしの咥内を蹂躙している。
「んっ、んん~っ、」
せめてシャワーを……!
朝早くから新幹線に乗って本社でプレゼンをして、さらにそのあとはCMO室でのあれこれもあったし、CEOにもお会いした。
ここにたどり着くまでにあまりに色々なことがありすぎて、新幹線の中で森からの差し入れを見て爆笑したことが遠い昔のことのよう。それに加えてさっきまでの激しいアレ、だ。
とにかく今は、汗ばんだベタベタの肌をスッキリしたい。しているのかどうか分からないような化粧だとしても、よれて崩れた化粧顔なんて、とても見せられるもんじゃない。
久々の逢瀬なのに、それってあんまりじゃない!?
さっきはいきなりのことでそんなことに気を配る余裕すらなかったけれど、クールダウンしたおかげで頭が正常に働きだした。圧し掛かっている大きな背中をバシバシと叩きながら脚をジタバタさせて、抗議の意を示す。
けれど、敵もさるもの。
わたしの弱い場所をちゃんと心得ていて、巧みな舌遣いで戦意喪失を図ってくる。
くっ~、このドラネコ御曹司めっ!ドラトラになりやがってーー!
彼の背中を叩いていた手は、気付いたらスーツを握りしめていた。
極上のキスに成す術もなく翻弄される。
結構な時間わたしの唇を貪った彼は、やっとわたしの唇を解放した。
ぼってりと腫れたわたしの唇を親指で拭いながら、垂れた瞳を弓なりに細めて満足げな笑みを浮かべる。
「やっぱり吉野が一番甘くて美味い。あなたの味を今度こそたっぷり確かめないと」
「たっ、……確かめなくても、いい……」
「そんなとろんとした顔で言っても説得力ないけど?」
「うっ……」
だってそれは、アキがあんなキスするから。
「大丈夫。キスよりもっと気持ちよくしてあげる」
もっ、もう十分です! それよりも今はシャワー! シャワーを浴びさせて…!
「シャワーは、これが済んだら一緒に浴びよう。ひと休憩がてらね」
えっ!『ひと休憩』って……ことは……更にまだする気!?
嫌な予感に身を震わせたわたしとは対照的に、優雅な微笑みを浮かべたアキは、わたしの体に残されていた衣服をポイポイと手早く取り去っていく。
「やっ!」
あっという間に露わになった肌を彼の目から少しでも隠そうと、両手を体の前に持っていく。
が、一瞬でその手はシーツに縫い留められた。
「っ、」
「隠さないで――きれいだ」
満足げに微笑みながら、わたしを見下ろす瞳が怪しく光る。
アキは片手で器用にネクタイをゆるめると、シュルリと引き抜きベッドの上に落とした。
くつろげられた襟の合間からのぞく、隆起した喉元。
陶器のように滑らかな肌の上で男性らしさを主張するそれに、胸がどきんと高く跳ね上がった。
い、色気ダダ漏れですよーーっ! エコ! エコを心がけてっ!
ふたつの目を見開いて、声を出さず叫ぶわたしに、アキは小首を傾げながらにっこりと微笑んだ。
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そんな可愛い笑顔で、いったい何を謝ろうと……。
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