耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

文字の大きさ
48 / 88
第七話【リメイク♡ロコモコ弁当】いつも何処でも想うのは

[1]ー3

しおりを挟む

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「帰りはおそらく七時くらいになると思います。出掛ける時は戸締りを忘れずに。あと、今日も暑いですので熱中症にはくれぐれも気を付けて。あと、迷子にならないように。」

「分かってるもん。そんなにしょっちゅう迷子にも行き倒れにもならないんだから」

頬を膨らませ、じろりと上目使いで恨めし気にこちらを見上げるミネに、怜は眉を下げる。

(そんなふうに睨んでも可愛いだけだな……)

怜の口に出さない心の声が、ついラフなものになる。
普段は丁寧語を使う相手に対しては、心の声も自然と丁寧語になるのだが、近頃美寧に対しては、それがうっかり崩れてしまう。きっと彼女の前で自分はずいぶん“素”なのだろう。

高熱で倒れていた美寧を家に連れて帰った当初は、彼女に警戒されない為に“准教授スイッチ”を入れて接していた。

怜にとって“ですます口調”は、一定の距離を保つ為になくてはならない処世術。女学生や女性職員に、無用な好意を寄せられず円滑に研究を進めるための術だ。
美寧にもそのつもりだった。

(熱が下がったら彼女は自分の家に帰るだろうし、異常に警戒されたり逆に興味を持たれても困る)

通りすがりの人助けのつもりだったあの時の怜は、そう考えたのだった。

子猫のように丸い瞳で怜を見上げている美寧を、無言で見つめ返す。怜の半歩分離れたところ彼女の膨らんだ頬は、うっすらと赤く色づいていた。
小さな唇は熟れた果実のように怜を甘く誘う。吸い寄せられるように顔を近付けた。

途端、美寧はピクリと明らかに肩を跳ね上げた後、体を一歩後退させた。

「ミネ?」

「あっ……えっと…、うん、分かってるよ。大丈夫。出る時は帽子も日傘も水筒も持って出るし、戸締りもします。暑いし迷子になるほど遠くにも行かないから」

何かを誤魔化すように早口に説明し出した美寧に、「もう出ないと遅れちゃうよ?」と追い立てられるように怜は家を出たのだった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

(警戒、されている……?)

初めてキスをした翌日の、遠巻きに怜を見ながら警戒心丸出しの子猫のような姿を思い出す。

(あれは今思い出しても可愛すぎるな)

ふっと笑いが漏れそうになるのはなんとか堪えるが、口元が緩むのは抑えきれない。
竹下に気付かれないうちに、怜はその口元と逸れそうになった思考を元に戻した。

(俺に何か言いたい事や聞きたい事でもあるような、そんな感じもするのだけど……)

もしかしたら、少し強引に進め過ぎたのかもしれない。
そんな考えが怜の頭に浮かぶ。

美寧が“恋人練習”だと言い出したことを良いことに、自分都合でそれに乗じているという自覚が怜にはあった。

美寧は何も知らない。年の割に純真無垢だ。
男女の間で行われることを、彼女の耳に入れるような輩がいない場所できっと育ったのだろう。
それでも年頃の同級生などの集まる学校生活などでは、その手の話を避けて通る方が難しい。

(奥手な友人しかいないかったのか…もしくは、よほどの箱入りか……)

彼女の安寧を守るために、敢えて訊かないようにしていることは数多くある。

一か月半も生活を共にしながら、それより前の彼女のことを、怜は未だよく知らない。
知っているのは彼女の名前が“杵島美寧きじまみね”ということ。年齢。そして亡くなった祖父をとても慕っているということ。それだけだ。

(お互い様―――だな)

過去を語っていないのは自分も同じだというのに。
それなのに、過去も含めた美寧のすべてを自分のものにしたいと思ってしまう。近くに寄れば触れたくなるし、触れればもっと欲しくなる。

“恋人”という肩書を得て、美寧に触れられるようになってからというもの、怜は自分の中にこんな風に衝動的な熱情があったことに気付かされた。
そのせいで数日前も美寧に痛い思いをさせてしまったことは、今も反省中だ。

(悲しませたり苦しませたりしたいわけじゃない……)

大事にしたい。笑顔を見たい。
けれどそれと同じくらい、自分の腕の中で彼女を啼かせたい。

そんな青臭い二律背反に、この歳になって揺らぐとは思っても見なかった。

今まで怜が付き合ってきた女性たちは、得てして皆自分と同類だった。

程よい距離感。相手を尊重した上で、束縛しすぎず干渉しすぎない自由な付き合い。
それはまさに“大人の付き合い”だった。

怜も自分なりにその時の相手を大事にしてきたつもりではあったが、こんな風に自分のテリトリーの中に完全に入れ込んでしまうのは、美寧が初めてのこと。

その証拠に、怜は自分の自宅で手料理を恋人に振る舞ったことも無ければ、自宅に呼んだことすら無かった。

父母が建てたあの家は自分にとっての聖域で、本当に気の置けない相手にしか入って欲しくない場所なのだ。

そんな怜の懐に、気付いたら美寧がいた。
美寧と暮らし始めてしばらく経ったある日、唐突にそのことに気付いた怜は、軽く戸惑った。

なんの違和感も無く、まるでそれまで一緒に暮らしていたかのように馴染んでしまった美寧。

当時は美寧の体調が思わしくなかったこともあり、何くれとなく彼女の世話を焼いているうちに、二人暮らしが当たり前のようになっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

俺様系和服社長の家庭教師になりました。

蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。  ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。  冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。  「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」  それから気づくと色の家庭教師になることに!?  期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、  俺様社長に翻弄される日々がスタートした。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...