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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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「ありがとう、れいちゃん」
まだ赤く潤む瞳で怜を見上げる。
「さっきは変なこと言ってごめんなさい。でも私、やっぱりお料理が作れるようになりたい。そしたら少しはれいちゃんの役に立てるのに……」
「ミネ……」
怜が何かを言おうと口を開いた、と同時に、美寧は瞳を大きく輝かせた。
「そうだっ!マスターにお料理を教えて貰えるか聞いてみる!」
名案を思い付いたと、美寧は笑顔になる。
けれど、それは怜の低い声によってすぐに打ち消された。
「ダメです」
「え……?」
「ラプワールのマスターに教わるのはダメです、ミネ」
「ど、どうして……?」
アルバイト中にマスターの手が空いている時、賄い作りでも教わろうと思ったのだ。マスターはコーヒーだけでなく料理もとても上手なのだ。それは怜だって知っているはずなのに―――。
怜の真意を知りたくて、じっと彼を見つめる。すると、怜はその視線から逃げるように顔を逸らした。それから少し視線を彷徨わせた後、そのまま口を開いた。
「俺が教える」
「え?」
「料理は俺が教えます」
怜が横を向いたまま、チラリとこちらを見る。流し目から漂う色香に、美寧の心臓がドキンと跳ねた。
「で、でも……」
ただでさえ忙しい今の怜に、美寧に料理を教えている時間があるとは思えない。
忙しい怜を少しでも楽にしたくて、夕飯を作ってあげたいと思ったのだけど―――。
「朝、今より少しだけ早く起きられますか?」
「朝?」
「確かに今は忙しい時期で大学も休めませんが、授業はないので朝は少しゆっくり出る分には問題ありません。まずは一緒に弁当を作るところから始めませんか?」
「お弁当を?」
「はい。もちろんミネのアルバイトが無い日だけで構いません」
「起きられるかなぁ……」
「眠たい時は無理しなくて大丈夫ですよ?」
「………やってみる」
「本当ですか?」
「うん!」
美寧の返事に、怜は目元を和らげる。そして美寧に回していた腕をゆるりと解いた。
背中から温もりが離れた瞬間、背中がすぅっとして、美寧は反射的に怜の袖を掴んでいた。
「ミネ?」
「あっ、え、…っと、その……」
掴んだ袖と怜の顔を美寧の視線が往復する。
「なんでもない」と手を離そうと思った瞬間、美寧の口からまったく別の言葉が出ていた。
「れいちゃんは他の女の人にもご飯作ったりしたの?」
「えっ?」
思いも寄らぬことを訊かれた怜は、目を見張った。
「えっと…ユズキ先生が大学の時にれいちゃんの手料理食べたって言ってたの。それに……」
「それに?」
「れいちゃんには『女の子が寄ってくる』って……」
「ユズキがそう言ってた?」
おずおずと頷く。
すると怜は少しだけ時間を置いた後、「ふぅ~っ」と息を吐きだした。
「まったくユズキは……」
小さくぼやく怜の眉間にしわが寄っている。
「―――確かに、ユズキには大学の時に何度か、家で料理を振る舞ったことがあります」
「そうなんだ……」
「けれどユズキと二人っきりと言うわけではありません。もう一人の友人も一緒でしたから」
「もしかして“ナギさん”?」
「……それもユズキから?」
「うん……」
怜は再び眉間に皺を寄せた後、(お喋りな友人には困りものだな…)と声に出さずに一人ごちた。
「俺たち三人は専門も性格も皆バラバラですが、なぜか気が合って良く一緒にいましたから。家で飲むときは俺がツマミを用意することが多かっただけですよ」
「そうだったんだ……。じゃあ、他の女の人には?」
掴んだままの怜の袖をギュッと握りしめる。美寧はそのまま怜を見上げた。
「寄ってきた女性達には……ご飯、作ってあげた?」
丸いビー玉のような瞳が、怜をじぃっと見上げてくる。透き通った瞳は無垢な子猫のようだ。
「作っていません」
「本当?」
「ええ、本当です」
怜がはっきりと言い切ると、美寧はそれまで瞬きすら忘れて見開いていた大きな瞳を、ゆっくりと緩めた。
「そっかぁ」
いつのまにか力が入っていた肩が、ストンと落ちる。
もう一度確かめるように小さく「そっかぁ」と口にした後、照れ隠しのように「えへへ」と笑った。
まだ赤く潤む瞳で怜を見上げる。
「さっきは変なこと言ってごめんなさい。でも私、やっぱりお料理が作れるようになりたい。そしたら少しはれいちゃんの役に立てるのに……」
「ミネ……」
怜が何かを言おうと口を開いた、と同時に、美寧は瞳を大きく輝かせた。
「そうだっ!マスターにお料理を教えて貰えるか聞いてみる!」
名案を思い付いたと、美寧は笑顔になる。
けれど、それは怜の低い声によってすぐに打ち消された。
「ダメです」
「え……?」
「ラプワールのマスターに教わるのはダメです、ミネ」
「ど、どうして……?」
アルバイト中にマスターの手が空いている時、賄い作りでも教わろうと思ったのだ。マスターはコーヒーだけでなく料理もとても上手なのだ。それは怜だって知っているはずなのに―――。
怜の真意を知りたくて、じっと彼を見つめる。すると、怜はその視線から逃げるように顔を逸らした。それから少し視線を彷徨わせた後、そのまま口を開いた。
「俺が教える」
「え?」
「料理は俺が教えます」
怜が横を向いたまま、チラリとこちらを見る。流し目から漂う色香に、美寧の心臓がドキンと跳ねた。
「で、でも……」
ただでさえ忙しい今の怜に、美寧に料理を教えている時間があるとは思えない。
忙しい怜を少しでも楽にしたくて、夕飯を作ってあげたいと思ったのだけど―――。
「朝、今より少しだけ早く起きられますか?」
「朝?」
「確かに今は忙しい時期で大学も休めませんが、授業はないので朝は少しゆっくり出る分には問題ありません。まずは一緒に弁当を作るところから始めませんか?」
「お弁当を?」
「はい。もちろんミネのアルバイトが無い日だけで構いません」
「起きられるかなぁ……」
「眠たい時は無理しなくて大丈夫ですよ?」
「………やってみる」
「本当ですか?」
「うん!」
美寧の返事に、怜は目元を和らげる。そして美寧に回していた腕をゆるりと解いた。
背中から温もりが離れた瞬間、背中がすぅっとして、美寧は反射的に怜の袖を掴んでいた。
「ミネ?」
「あっ、え、…っと、その……」
掴んだ袖と怜の顔を美寧の視線が往復する。
「なんでもない」と手を離そうと思った瞬間、美寧の口からまったく別の言葉が出ていた。
「れいちゃんは他の女の人にもご飯作ったりしたの?」
「えっ?」
思いも寄らぬことを訊かれた怜は、目を見張った。
「えっと…ユズキ先生が大学の時にれいちゃんの手料理食べたって言ってたの。それに……」
「それに?」
「れいちゃんには『女の子が寄ってくる』って……」
「ユズキがそう言ってた?」
おずおずと頷く。
すると怜は少しだけ時間を置いた後、「ふぅ~っ」と息を吐きだした。
「まったくユズキは……」
小さくぼやく怜の眉間にしわが寄っている。
「―――確かに、ユズキには大学の時に何度か、家で料理を振る舞ったことがあります」
「そうなんだ……」
「けれどユズキと二人っきりと言うわけではありません。もう一人の友人も一緒でしたから」
「もしかして“ナギさん”?」
「……それもユズキから?」
「うん……」
怜は再び眉間に皺を寄せた後、(お喋りな友人には困りものだな…)と声に出さずに一人ごちた。
「俺たち三人は専門も性格も皆バラバラですが、なぜか気が合って良く一緒にいましたから。家で飲むときは俺がツマミを用意することが多かっただけですよ」
「そうだったんだ……。じゃあ、他の女の人には?」
掴んだままの怜の袖をギュッと握りしめる。美寧はそのまま怜を見上げた。
「寄ってきた女性達には……ご飯、作ってあげた?」
丸いビー玉のような瞳が、怜をじぃっと見上げてくる。透き通った瞳は無垢な子猫のようだ。
「作っていません」
「本当?」
「ええ、本当です」
怜がはっきりと言い切ると、美寧はそれまで瞬きすら忘れて見開いていた大きな瞳を、ゆっくりと緩めた。
「そっかぁ」
いつのまにか力が入っていた肩が、ストンと落ちる。
もう一度確かめるように小さく「そっかぁ」と口にした後、照れ隠しのように「えへへ」と笑った。
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