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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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[3]
片付けが終わった後、美寧は紅茶を淹れた。怜の為にしてあげられることはこれくらいしか思い浮かばなかった。
長い脚を組んでソファーに座っている怜は、ティカップを持ち上げて、まずその香りを堪能してから一口飲んだ。
「良い香りですね―――美味しいです」
「ホント?良かった。ダージリンのセカンドフラッシュ、昨日マスターに頂いたの。頂き物のお裾分けだって」
怜に美味しいと言って貰えると、美寧は嬉しくなる。
「今夜もお部屋でお仕事?あとでコーヒー淹れて持って行こうか?」
このところ食後は部屋で仕事をしている怜に、美寧は何か少しでも出来ることがないかと探す。
「今日はもう仕事はしません。来週も休めそうにないので、今夜くらい少しゆっくりしようかと」
「そうなんだ……」
怜の忙しさが来週も続くと知って、美寧は内心肩を落とした。
美寧もアルバイトがあるからずっと家に一人きりというわけではないが、それでもやっぱり怜が家にあまりいないのは寂しい。
明らかに肩を落とした美寧の顔を、怜が隣から覗き込んでくる。
「ミネにも負担をかけてしまって申し訳ありません」
「負担……」
「俺は家にはあまり居ませんが、ミネが無理をすることはありません。これまで通り、」
「無理なんてしてないよ!」
美寧は思わず声を張り上げていた。
「私には負担もかかってないし、無理なんてしてない」
怜の目を見て言葉を続ける。
「れいちゃんが忙しいのに、これまでみたいに何でもやって貰ってばかりなんて、私がいやなの!私だって少しはれいちゃんの役に立ちたいの」
「ミネ……」
「でも私に出来ることなんてほんの少しだけだし、料理だってまだ全然出来ないし……今日だって、結局れいちゃんのお世話になってしまって……もしかしたられいちゃんにとっては、私がいない方が一番楽なんじゃないかって…」
「そんなことありません」
怜が低い声ではっきりと言い切った。
「ミネがいない方が楽、なんてそんなことは絶対ありません」
「でも……」
怜は断言したが、美寧は不甲斐ない自分が怜の足枷になっていることは、否めない事実だと思っている。
怜はとても優しいから、きっと『足枷』すら受け入れてしまうのだ。
そう思うと何だか悲しくて、美寧は怜の視線から逃げるように顔を伏せた。
「ミネ……」
隣から少し困ったように怜が呼ぶが、美寧は顔を上げられない。
(れいちゃんをまた困らせてる……)
分かってはいるが今は素直に返事をすることが出来ない。こんな自分は初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からない。
膝の上に置いた手で、ルームウェアのショートパンツをグッと握りしめる。
(どうしよう……私…ここに居られなくなったら……)
そんな考えが頭を過ぎった瞬間、美寧の手の上に怜の大きな手が重ねられた。
「『自分がいない方がいい』なんて言わないで。ミネ」
重ねられた手に力が込められる。
「俺はミネがいる方がいい」
柔らかな声が美寧の心を撫でる。
「ミネが待っていると思うと、大学での仕事を終わらせて早く帰りたいと思うし、疲れて帰って来た時、ミネの顔を見るだけで癒される。ミネが俺の作ったものを何でも美味しいと食べてくれるから、料理がもっと好きになった」
怜は美寧の手を両手で包み込むように持ち上げる。そしてそっと小さな手の甲に口づけを落とすと、ゆっくりと視線を上げ長い睫毛の向こうから美寧を見つめた。
「だから美寧―――ここに居て欲しい」
胸の奥が熱くなって、美寧の大きな瞳からポロポロと雫がこぼれ出した。
「……っ」
言葉を返したいのに、小刻みに震える唇からは息を吸う音しか出ない。
そんな美寧を怜はそっと抱き寄せた。
「焦らなくて大丈夫。ミネは今でもちゃんと出来ています。これからもっと出来ることは増えます。ミネは頑張り屋ですから」
柔らかな声でそう諭される。背中に当てられた大きな手がトントントンと美寧をあやすように優しく叩く。
自分よりも少し高い体温に包まれて、美寧は涙に濡れた頬を怜の胸に着けると彼の鼓動が耳に届いた。
体の力を抜く。
規則正しいリズムに身を預けているうちに、だんだんと美寧は落ち着きを取り戻してきた。
片付けが終わった後、美寧は紅茶を淹れた。怜の為にしてあげられることはこれくらいしか思い浮かばなかった。
長い脚を組んでソファーに座っている怜は、ティカップを持ち上げて、まずその香りを堪能してから一口飲んだ。
「良い香りですね―――美味しいです」
「ホント?良かった。ダージリンのセカンドフラッシュ、昨日マスターに頂いたの。頂き物のお裾分けだって」
怜に美味しいと言って貰えると、美寧は嬉しくなる。
「今夜もお部屋でお仕事?あとでコーヒー淹れて持って行こうか?」
このところ食後は部屋で仕事をしている怜に、美寧は何か少しでも出来ることがないかと探す。
「今日はもう仕事はしません。来週も休めそうにないので、今夜くらい少しゆっくりしようかと」
「そうなんだ……」
怜の忙しさが来週も続くと知って、美寧は内心肩を落とした。
美寧もアルバイトがあるからずっと家に一人きりというわけではないが、それでもやっぱり怜が家にあまりいないのは寂しい。
明らかに肩を落とした美寧の顔を、怜が隣から覗き込んでくる。
「ミネにも負担をかけてしまって申し訳ありません」
「負担……」
「俺は家にはあまり居ませんが、ミネが無理をすることはありません。これまで通り、」
「無理なんてしてないよ!」
美寧は思わず声を張り上げていた。
「私には負担もかかってないし、無理なんてしてない」
怜の目を見て言葉を続ける。
「れいちゃんが忙しいのに、これまでみたいに何でもやって貰ってばかりなんて、私がいやなの!私だって少しはれいちゃんの役に立ちたいの」
「ミネ……」
「でも私に出来ることなんてほんの少しだけだし、料理だってまだ全然出来ないし……今日だって、結局れいちゃんのお世話になってしまって……もしかしたられいちゃんにとっては、私がいない方が一番楽なんじゃないかって…」
「そんなことありません」
怜が低い声ではっきりと言い切った。
「ミネがいない方が楽、なんてそんなことは絶対ありません」
「でも……」
怜は断言したが、美寧は不甲斐ない自分が怜の足枷になっていることは、否めない事実だと思っている。
怜はとても優しいから、きっと『足枷』すら受け入れてしまうのだ。
そう思うと何だか悲しくて、美寧は怜の視線から逃げるように顔を伏せた。
「ミネ……」
隣から少し困ったように怜が呼ぶが、美寧は顔を上げられない。
(れいちゃんをまた困らせてる……)
分かってはいるが今は素直に返事をすることが出来ない。こんな自分は初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からない。
膝の上に置いた手で、ルームウェアのショートパンツをグッと握りしめる。
(どうしよう……私…ここに居られなくなったら……)
そんな考えが頭を過ぎった瞬間、美寧の手の上に怜の大きな手が重ねられた。
「『自分がいない方がいい』なんて言わないで。ミネ」
重ねられた手に力が込められる。
「俺はミネがいる方がいい」
柔らかな声が美寧の心を撫でる。
「ミネが待っていると思うと、大学での仕事を終わらせて早く帰りたいと思うし、疲れて帰って来た時、ミネの顔を見るだけで癒される。ミネが俺の作ったものを何でも美味しいと食べてくれるから、料理がもっと好きになった」
怜は美寧の手を両手で包み込むように持ち上げる。そしてそっと小さな手の甲に口づけを落とすと、ゆっくりと視線を上げ長い睫毛の向こうから美寧を見つめた。
「だから美寧―――ここに居て欲しい」
胸の奥が熱くなって、美寧の大きな瞳からポロポロと雫がこぼれ出した。
「……っ」
言葉を返したいのに、小刻みに震える唇からは息を吸う音しか出ない。
そんな美寧を怜はそっと抱き寄せた。
「焦らなくて大丈夫。ミネは今でもちゃんと出来ています。これからもっと出来ることは増えます。ミネは頑張り屋ですから」
柔らかな声でそう諭される。背中に当てられた大きな手がトントントンと美寧をあやすように優しく叩く。
自分よりも少し高い体温に包まれて、美寧は涙に濡れた頬を怜の胸に着けると彼の鼓動が耳に届いた。
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規則正しいリズムに身を預けているうちに、だんだんと美寧は落ち着きを取り戻してきた。
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