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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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四十分後。美寧はダイニングテーブルに並んだ料理に目を輝かせた。
「すごいっ!」
短時間で次々と料理を仕上げていく怜を、美寧はすぐ隣で見ていた。
美寧が大失敗した肉じゃがは、怜の手によってあっという間にまったく別のものへと変貌を遂げた。
「な…なにこれっ!」
一口食べた後、美寧は目を丸くして驚きの声を上げる。
鼻に抜けるスパイスの香りは深みがあるけど爽やかで、舌がピリリとする刺激に驚くが、程よい辛さが、かえってクセになりそうだ。
美寧の失敗で着いてしまった焦げた匂いと味すら、見事にスパイスの一部のようになっていた。
スパイスが効いているからと言って味がしないわけではない。
スープには野菜の甘みがあるし、夏野菜は大きくカットされているから食べごたえもある。
一口目以降スプーンを持ったまた止まっている美寧の顔を、怜は覗き込んだ。
「お口に合いませんでしたか?」
「ううんっ!すっごく美味しい!!」
「良かった」
「どうして!?なんで!?あんなに焦げ焦げだった肉じゃがとは思えない!」
興奮して捲し立てる美寧に、怜は微笑む。
「ミネが作ってくれた肉じゃがに、ちょっと手を加えただけですよ?」
なんでもないように言っているが、“ちょっと”だなんてことはない。
怜は、美寧が派手に焦がした鍋の中から、使えそうな具材を取り出すと、丁寧に焦げを切り落としていった。
何種類ものスパイスと一緒にウィンナーと玉ねぎを炒め、さっきの肉じゃがの具材と他の具材を入れて出汁で煮る。そこに醤油、みりんなどの調味料を加えて煮込んでいった。
じゃがいもに火が通ったところで、グリルで焼いた夏野菜とカレールーを入れて更に数分間煮込む。
こうして肉じゃがになる予定だったものは、スープカレーへと生まれ変わった。
美寧はそれをずっと隣で見ていたはずなのに、あの物体がこんなに美味しいものに変化したことがやっぱり不思議で仕方ないのだ。
ちなみに美寧が割ってしまったお皿は、すぐに怜が片付けてくれた。美寧も手伝おうとしたが、「怪我をするといけませんから」とやんわりとだが近寄らせてくれなかった。
色素の薄い茶色い瞳の奥をキラキラと輝かせて、再びスープカレーを頬張った美寧は笑顔になる。
「やっぱりおいしい!」
「ありがとうございます」
「ううん。こちらこそありがとう、れいちゃん。私の失敗作を捨てずにこんなに美味しいものにしてくれて」
「俺の為を想ってミネが作ってくれたものを捨てるなんて有り得ません。それにミネが手伝ってくれたので、いつもより早く出来ました。ありがとうございます」
「お礼なんて…私は横で見ていただけだもん。しかもご飯を炊くのを忘れてたし……」
夕飯が肉じゃがの予定だったのに、美寧はお米を炊くことをすっかり失念していた。
そのことに気付いた美寧が半泣きになりそうになると、怜が「カレーなのでせっかくだから」と手作りでナンを作ってくれた。
「簡易バージョンですみませんが…」と言いながら小麦粉と数種類の材料を捏ねてフライパンで焼き上げたそれは、どこからどう見ても“ナン”だ。
一口大にちぎったナンをスープカレーに浸してから口に入れる。簡易バージョンだと怜は言ったが、十分すぎるほど美味しい。
「ナンも美味しいよ。れいちゃんの作るご飯はやっぱり全部美味しい」
そう言ってから美寧は、スプーンに乗ったじゃがいもをパクリと食べた。
夕飯の後、使った食器片付ける。美寧は洗い物を買って出た。
慎重な手つきで食器を洗っている美寧の隣で、怜が何やら件の鍋を取り出してきた。
「お鍋、ごめんね……」
鍋の中の焦げて貼り付いた具材はざっと落とされているが、底は見事に真っ黒だ。雪平鍋というアルミ製のもので、焦げに弱いのだ。それを使ったのが失敗の一因でもある。
美寧が俯いてしょんぼりと肩を落とすと、怜が長い腕をこちらに伸ばしてきた。
ポンポンと軽く頭を撫でられる。
「もうそんなに気にしないでください。失敗は誰にでもあることですよ?」
「……れいちゃんにも?」
斜めに仰ぐように怜の顔を覗き込む美寧に、怜は微苦笑を浮かべ、「もちろんです」と口にする。
「そうなんだ……」
「はい。大事なのはチャレンジすること。そして失敗は次に活かすこと。ですよ、ミネ」
「うん、そうだね。ありがとう、れいちゃん」
元気を取り戻した美寧に安心したのが、怜はキッチン下から取り出したものを鍋に入れている。
「ところでれいちゃんは何をしてるの?」
「ああ、これですか?これは、実験です」
「実験?」
「ええ」
キョトンと小首を傾けた美寧の前で、怜はその鍋に水を入れ火に掛ける。しばらくするとぐつぐつと湧き上がった鍋の火を止めると、怜はそれ以上鍋に触らなかった。
「実験結果はまた今度」
なんだか楽しげな怜の様子に、美寧は良く分からないまま首を縦に振った。
四十分後。美寧はダイニングテーブルに並んだ料理に目を輝かせた。
「すごいっ!」
短時間で次々と料理を仕上げていく怜を、美寧はすぐ隣で見ていた。
美寧が大失敗した肉じゃがは、怜の手によってあっという間にまったく別のものへと変貌を遂げた。
「な…なにこれっ!」
一口食べた後、美寧は目を丸くして驚きの声を上げる。
鼻に抜けるスパイスの香りは深みがあるけど爽やかで、舌がピリリとする刺激に驚くが、程よい辛さが、かえってクセになりそうだ。
美寧の失敗で着いてしまった焦げた匂いと味すら、見事にスパイスの一部のようになっていた。
スパイスが効いているからと言って味がしないわけではない。
スープには野菜の甘みがあるし、夏野菜は大きくカットされているから食べごたえもある。
一口目以降スプーンを持ったまた止まっている美寧の顔を、怜は覗き込んだ。
「お口に合いませんでしたか?」
「ううんっ!すっごく美味しい!!」
「良かった」
「どうして!?なんで!?あんなに焦げ焦げだった肉じゃがとは思えない!」
興奮して捲し立てる美寧に、怜は微笑む。
「ミネが作ってくれた肉じゃがに、ちょっと手を加えただけですよ?」
なんでもないように言っているが、“ちょっと”だなんてことはない。
怜は、美寧が派手に焦がした鍋の中から、使えそうな具材を取り出すと、丁寧に焦げを切り落としていった。
何種類ものスパイスと一緒にウィンナーと玉ねぎを炒め、さっきの肉じゃがの具材と他の具材を入れて出汁で煮る。そこに醤油、みりんなどの調味料を加えて煮込んでいった。
じゃがいもに火が通ったところで、グリルで焼いた夏野菜とカレールーを入れて更に数分間煮込む。
こうして肉じゃがになる予定だったものは、スープカレーへと生まれ変わった。
美寧はそれをずっと隣で見ていたはずなのに、あの物体がこんなに美味しいものに変化したことがやっぱり不思議で仕方ないのだ。
ちなみに美寧が割ってしまったお皿は、すぐに怜が片付けてくれた。美寧も手伝おうとしたが、「怪我をするといけませんから」とやんわりとだが近寄らせてくれなかった。
色素の薄い茶色い瞳の奥をキラキラと輝かせて、再びスープカレーを頬張った美寧は笑顔になる。
「やっぱりおいしい!」
「ありがとうございます」
「ううん。こちらこそありがとう、れいちゃん。私の失敗作を捨てずにこんなに美味しいものにしてくれて」
「俺の為を想ってミネが作ってくれたものを捨てるなんて有り得ません。それにミネが手伝ってくれたので、いつもより早く出来ました。ありがとうございます」
「お礼なんて…私は横で見ていただけだもん。しかもご飯を炊くのを忘れてたし……」
夕飯が肉じゃがの予定だったのに、美寧はお米を炊くことをすっかり失念していた。
そのことに気付いた美寧が半泣きになりそうになると、怜が「カレーなのでせっかくだから」と手作りでナンを作ってくれた。
「簡易バージョンですみませんが…」と言いながら小麦粉と数種類の材料を捏ねてフライパンで焼き上げたそれは、どこからどう見ても“ナン”だ。
一口大にちぎったナンをスープカレーに浸してから口に入れる。簡易バージョンだと怜は言ったが、十分すぎるほど美味しい。
「ナンも美味しいよ。れいちゃんの作るご飯はやっぱり全部美味しい」
そう言ってから美寧は、スプーンに乗ったじゃがいもをパクリと食べた。
夕飯の後、使った食器片付ける。美寧は洗い物を買って出た。
慎重な手つきで食器を洗っている美寧の隣で、怜が何やら件の鍋を取り出してきた。
「お鍋、ごめんね……」
鍋の中の焦げて貼り付いた具材はざっと落とされているが、底は見事に真っ黒だ。雪平鍋というアルミ製のもので、焦げに弱いのだ。それを使ったのが失敗の一因でもある。
美寧が俯いてしょんぼりと肩を落とすと、怜が長い腕をこちらに伸ばしてきた。
ポンポンと軽く頭を撫でられる。
「もうそんなに気にしないでください。失敗は誰にでもあることですよ?」
「……れいちゃんにも?」
斜めに仰ぐように怜の顔を覗き込む美寧に、怜は微苦笑を浮かべ、「もちろんです」と口にする。
「そうなんだ……」
「はい。大事なのはチャレンジすること。そして失敗は次に活かすこと。ですよ、ミネ」
「うん、そうだね。ありがとう、れいちゃん」
元気を取り戻した美寧に安心したのが、怜はキッチン下から取り出したものを鍋に入れている。
「ところでれいちゃんは何をしてるの?」
「ああ、これですか?これは、実験です」
「実験?」
「ええ」
キョトンと小首を傾けた美寧の前で、怜はその鍋に水を入れ火に掛ける。しばらくするとぐつぐつと湧き上がった鍋の火を止めると、怜はそれ以上鍋に触らなかった。
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