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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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「肉じゃが―――でしょうか?」
焦げ付いた鍋の中身を確認した怜が口にしたメニューに、美寧は小さく頷く。
「どうして、分かったの…?」
作った本人が言うのもあれだけど、鍋の中身は到底肉じゃがには思えない。まったく別の物体に成り下がっている。
「じゃがいもと白滝が見えたのでなんとなく」
ピーラーで皮を剝いただけで切らずに投入したじゃがいもは、焦げ付いてはいるがその原型は残っている。もっとも切らなかったせいでなかなか火が通らず、煮込みまくった結果、こうして焦がしてしまったのだから、当てて貰っても全然嬉しくない。白滝も同じく溶けて消えなかっただけ。折角の肉も鍋の底で真っ黒焦げだ。
「ごめんなさい………」
「なぜ謝るのですか?」
「だって………」
怜が買っておいた食材を無駄にした挙句、鍋までダメにしてしまって、申し訳ないなんて言葉だけじゃ済まされない。
こうなったいきさつをきちんと怜に説明しなければならないと、美寧は今にもこぼれ落ちそうな涙を堪え、口を開く。
「れいちゃんが帰ってくる前に…ごはんを作ろうと思ったの……最近のれいちゃん…すごく忙しそう…だから…」
震える声を絞り出すように美寧は続ける。
「でも…結局失敗しちゃって……お鍋も材料もダメにしちゃって……れいちゃんにめいわく、」
『迷惑かけてごめんなさい』と、最後まで言い切る前に、美寧の体がふわりと温かなものに包まれた。
「ありがとう」
怜の腕の中で美寧は目を見開いた。
叱られこそすれ、礼を言われるなんて思ってもみなかった。
「俺の為に頑張ってくれて、ありがとう、ミネ」
包み込むように背中に回された怜の腕に、少しだけ力が込められるのを感じる。
その瞬間、美寧の双眸から大粒の涙がポロポロとこぼれ出した。
「う″っ…で、でも……ダメだったっ…れいちゃんに、迷惑ばっかりかけてっ…」
腕の中でしゃくり上げながら泣く美寧の背中を、怜はそっと撫でる。
「迷惑なんて何もありませんよ、ミネ」
落ち着いた低すぎない声が、美寧の耳に優しく届く。
「ミネが俺の為にしてくれたことに、迷惑なんてあるはずない」
はっきりと言いきった力強い声色に、目に涙を湛えたままの美寧が顔を上げると、真剣な瞳とぶつかった。
怜は涼しげな目元を柔らかく緩める。
もう一度しゃくり上げた瞬間、瞼のふちに溜まっていた雫がポロリとこぼれ落ちる。
怜は愛おしそうに目を細めると、その跡にそっと口づけを落とした。
頬に触れる温かく柔らかな感触に、美寧は自然と瞼を下ろす。
たった数日間触れ合わなかっただけなのに、ずいぶん長い間離れていたような気がする。
頬に触れる唇は、優しく左右の涙の跡を拭ってから、そっと離れた。
怜の唇が離れていくのがなぜか寂しくて、美寧は怜の胸にぎゅっと抱きついた。
抱き付いた瞬間、一瞬だけ怜が動きを止めたような気がしたが、今の美寧にそれに構えるほどの余裕はない。
背中に回した腕でギュッと怜の上衣を掴み、その胸に顔を押し付ける。服越しに伝わってくる彼の体温が心地良い。
瞳を閉じて規則正しい鼓動に耳をすますと、吹き荒れる嵐のようだった心が自然と凪いでいった。
美寧は強張っていた力を抜いて、怜に自分の体を預けた。
どれくらいの間そうしていただろう。
瞳を閉じたまま怜の温もりにうっとりとしていた美寧の頭の上から「はぁ~」と小さなため息が降ってきた。
「……れいちゃん?」
怜の胸から顔を上げると、なぜか彼は眉間に皺を寄せて天井を仰いでいる。
なにやら困っている様子の彼を、美寧は小首を傾げてじっと見上げた。
「……困った子猫だ」
怜が口の中だけで言った呟きを聞き取ることが出来ず、美寧はまた首を傾げる。そんな彼女に怜は微苦笑を浮かべた。
「れいちゃん?」
呼びかける美寧の額に羽のような口づけを落とすと、怜はゆっくりと立ち上がった。
「一緒に夕飯を作ってくれませんか?ミネ」
差し出された手に、美寧は大きな瞳をパチリと一度瞬かせ、大きな笑顔を浮かべた。
「うん!」
大きな手のひらの上に自分の手を重ねると、ぎゅっと力強く握りしめられた。
「肉じゃが―――でしょうか?」
焦げ付いた鍋の中身を確認した怜が口にしたメニューに、美寧は小さく頷く。
「どうして、分かったの…?」
作った本人が言うのもあれだけど、鍋の中身は到底肉じゃがには思えない。まったく別の物体に成り下がっている。
「じゃがいもと白滝が見えたのでなんとなく」
ピーラーで皮を剝いただけで切らずに投入したじゃがいもは、焦げ付いてはいるがその原型は残っている。もっとも切らなかったせいでなかなか火が通らず、煮込みまくった結果、こうして焦がしてしまったのだから、当てて貰っても全然嬉しくない。白滝も同じく溶けて消えなかっただけ。折角の肉も鍋の底で真っ黒焦げだ。
「ごめんなさい………」
「なぜ謝るのですか?」
「だって………」
怜が買っておいた食材を無駄にした挙句、鍋までダメにしてしまって、申し訳ないなんて言葉だけじゃ済まされない。
こうなったいきさつをきちんと怜に説明しなければならないと、美寧は今にもこぼれ落ちそうな涙を堪え、口を開く。
「れいちゃんが帰ってくる前に…ごはんを作ろうと思ったの……最近のれいちゃん…すごく忙しそう…だから…」
震える声を絞り出すように美寧は続ける。
「でも…結局失敗しちゃって……お鍋も材料もダメにしちゃって……れいちゃんにめいわく、」
『迷惑かけてごめんなさい』と、最後まで言い切る前に、美寧の体がふわりと温かなものに包まれた。
「ありがとう」
怜の腕の中で美寧は目を見開いた。
叱られこそすれ、礼を言われるなんて思ってもみなかった。
「俺の為に頑張ってくれて、ありがとう、ミネ」
包み込むように背中に回された怜の腕に、少しだけ力が込められるのを感じる。
その瞬間、美寧の双眸から大粒の涙がポロポロとこぼれ出した。
「う″っ…で、でも……ダメだったっ…れいちゃんに、迷惑ばっかりかけてっ…」
腕の中でしゃくり上げながら泣く美寧の背中を、怜はそっと撫でる。
「迷惑なんて何もありませんよ、ミネ」
落ち着いた低すぎない声が、美寧の耳に優しく届く。
「ミネが俺の為にしてくれたことに、迷惑なんてあるはずない」
はっきりと言いきった力強い声色に、目に涙を湛えたままの美寧が顔を上げると、真剣な瞳とぶつかった。
怜は涼しげな目元を柔らかく緩める。
もう一度しゃくり上げた瞬間、瞼のふちに溜まっていた雫がポロリとこぼれ落ちる。
怜は愛おしそうに目を細めると、その跡にそっと口づけを落とした。
頬に触れる温かく柔らかな感触に、美寧は自然と瞼を下ろす。
たった数日間触れ合わなかっただけなのに、ずいぶん長い間離れていたような気がする。
頬に触れる唇は、優しく左右の涙の跡を拭ってから、そっと離れた。
怜の唇が離れていくのがなぜか寂しくて、美寧は怜の胸にぎゅっと抱きついた。
抱き付いた瞬間、一瞬だけ怜が動きを止めたような気がしたが、今の美寧にそれに構えるほどの余裕はない。
背中に回した腕でギュッと怜の上衣を掴み、その胸に顔を押し付ける。服越しに伝わってくる彼の体温が心地良い。
瞳を閉じて規則正しい鼓動に耳をすますと、吹き荒れる嵐のようだった心が自然と凪いでいった。
美寧は強張っていた力を抜いて、怜に自分の体を預けた。
どれくらいの間そうしていただろう。
瞳を閉じたまま怜の温もりにうっとりとしていた美寧の頭の上から「はぁ~」と小さなため息が降ってきた。
「……れいちゃん?」
怜の胸から顔を上げると、なぜか彼は眉間に皺を寄せて天井を仰いでいる。
なにやら困っている様子の彼を、美寧は小首を傾げてじっと見上げた。
「……困った子猫だ」
怜が口の中だけで言った呟きを聞き取ることが出来ず、美寧はまた首を傾げる。そんな彼女に怜は微苦笑を浮かべた。
「れいちゃん?」
呼びかける美寧の額に羽のような口づけを落とすと、怜はゆっくりと立ち上がった。
「一緒に夕飯を作ってくれませんか?ミネ」
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