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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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「んっ、おいし!」
ロコモコ丼のハンバーグを口に入れる。作り置きを電子レンジで温めただけだとは思えないほど柔らかく、しっかり飴色になるまで炒めた玉ねぎの甘みとお肉の旨みが口の中いっぱいに広がった。
今日のようにアルバイトが休みの時、家に一人の美寧が昼食をとるのに困らないようにと、怜はお昼ご飯を準備して行ってくれている。
最初の頃『残り物で大丈夫』と言う美寧に、『どうせ自分の弁当を作るから』と言ってくれた怜に、今でも甘えたままだ。
「目玉焼きくらい、自分で出来るのに……」
怜とマスターのおかげで、最近は少しだけ料理らしいことも出来るようになってきた。
ロコモコ丼とは別皿に用意された目玉焼きは、ちゃんと半熟で、『レンジで温めた丼の上に乗せてください』とご丁寧な解説のメモまでつけられていた。
ご飯とレタスとハンバーグを、器用に箸の先に乗せると美寧はそれを大きな口で頬張る。
「ほいひいっ!」
誰も見ていないことを良いことに、美寧は頬を膨らませたリスのような顔で、感激の声を上げた。
昼食を済ませた美寧は、満たされたお腹を休ませるべく大きなビーズクッションに体を預け、ゆったりと寛いでいた。
(れいちゃんも、もうお昼食べたかなぁ。)
壁に掛けてある時計の針は、一時を示している。
ここのところ怜は毎日遅くまで仕事をしている。帰宅も遅いが、帰って来てからも自室で仕事をしているようだ。
(私には『早く寝た方がいい』っていうのに、自分は遅くまで起きているんだよね…)
その上朝は美寧よりも早く起きていて、美寧が起きてくる頃には朝食も昼食兼弁当の準備まで終わっているから、怜はいったいいつ寝ているのだろうと思う。
美寧も前よりは家事の手伝いが出来るようになったので、積極的に皿洗いや洗濯などを引き受けるようにはしている。それでもやっぱり家の中の殆どを、怜がやっているのは変わりなかった。
(色々と甘えてばかりなのは良くないよね……)
はぁ、と大きなため息をつく。
どうしてこんなにモヤモヤした気持ちになるのか分からない。けれど、なんとなく今の自分じゃダメなような気がするのだ。
もっと、なんでも出来る大人になりたい。
年齢だけなら成人している自分は大人の部類に入るだろう。けれど自分に出来ることがものすごく少ないことを知ってしまった今、美寧の中にこれまでなかった“焦り”が生まれていた。
(私がもし、ユズキ先生みたいな大人の女性だったら違ったのかなぁ……)
“大人の女性”の代表格のような、ユズキの姿が思い浮かぶ。
医師という仕事を持った彼女は、自信から生まれる美しさがある。同性の自分から見てもユズキはとても魅力的で、怜と並ぶのに遜色なくお似合いだ。
(れいちゃんも、ユズキ先生には気楽な感じだもんね……)
怜がユズキに砕けた口調で話すのを初めて聞いた時、美寧はなぜか軽いショックを受けた。丁寧口調が彼のスタンダードではない、ということ驚いたのだ。
(もしかしたら、れいちゃんとユズキ先生は恋人同士だったのかなぁ……)
自分のことを『好きだ』と言ってくれた怜が、他の女性と今現在付き合っているとは思えない。怜はそんないい加減な人間ではない。
けれどこれまでにお付き合いのあった女性の一人や二人いることは、流石の美寧にも分かる。
(れいちゃんは素敵な大人の男性だもん……)
だから『黙ってても女の子達が寄ってくる』のは当たり前なのだ。
そう考えた途端、お腹の底から何かが湧き出しそうになって、「むぅ」と唸ってから膝に乗せているクッションに顔を埋めた。
詰めていた息をゆっくりと吐きだすと、思い切りよく顔をあげる。
「だめだめだめっ!そんなこと考えても何も出来るようにならないんだからっ!!」
美寧の高い声がリビングに響く。
「私は私に出来ることを一つでも増やさなきゃ!」
声に出すことで雑念を振り切ると、途端に美寧の頭にあることが閃いた。
「そうだ!たまには私がご飯を作って、れいちゃんの帰りを待とう!!」
我ながら名案だ。そう思った。
―――その時は。
「んっ、おいし!」
ロコモコ丼のハンバーグを口に入れる。作り置きを電子レンジで温めただけだとは思えないほど柔らかく、しっかり飴色になるまで炒めた玉ねぎの甘みとお肉の旨みが口の中いっぱいに広がった。
今日のようにアルバイトが休みの時、家に一人の美寧が昼食をとるのに困らないようにと、怜はお昼ご飯を準備して行ってくれている。
最初の頃『残り物で大丈夫』と言う美寧に、『どうせ自分の弁当を作るから』と言ってくれた怜に、今でも甘えたままだ。
「目玉焼きくらい、自分で出来るのに……」
怜とマスターのおかげで、最近は少しだけ料理らしいことも出来るようになってきた。
ロコモコ丼とは別皿に用意された目玉焼きは、ちゃんと半熟で、『レンジで温めた丼の上に乗せてください』とご丁寧な解説のメモまでつけられていた。
ご飯とレタスとハンバーグを、器用に箸の先に乗せると美寧はそれを大きな口で頬張る。
「ほいひいっ!」
誰も見ていないことを良いことに、美寧は頬を膨らませたリスのような顔で、感激の声を上げた。
昼食を済ませた美寧は、満たされたお腹を休ませるべく大きなビーズクッションに体を預け、ゆったりと寛いでいた。
(れいちゃんも、もうお昼食べたかなぁ。)
壁に掛けてある時計の針は、一時を示している。
ここのところ怜は毎日遅くまで仕事をしている。帰宅も遅いが、帰って来てからも自室で仕事をしているようだ。
(私には『早く寝た方がいい』っていうのに、自分は遅くまで起きているんだよね…)
その上朝は美寧よりも早く起きていて、美寧が起きてくる頃には朝食も昼食兼弁当の準備まで終わっているから、怜はいったいいつ寝ているのだろうと思う。
美寧も前よりは家事の手伝いが出来るようになったので、積極的に皿洗いや洗濯などを引き受けるようにはしている。それでもやっぱり家の中の殆どを、怜がやっているのは変わりなかった。
(色々と甘えてばかりなのは良くないよね……)
はぁ、と大きなため息をつく。
どうしてこんなにモヤモヤした気持ちになるのか分からない。けれど、なんとなく今の自分じゃダメなような気がするのだ。
もっと、なんでも出来る大人になりたい。
年齢だけなら成人している自分は大人の部類に入るだろう。けれど自分に出来ることがものすごく少ないことを知ってしまった今、美寧の中にこれまでなかった“焦り”が生まれていた。
(私がもし、ユズキ先生みたいな大人の女性だったら違ったのかなぁ……)
“大人の女性”の代表格のような、ユズキの姿が思い浮かぶ。
医師という仕事を持った彼女は、自信から生まれる美しさがある。同性の自分から見てもユズキはとても魅力的で、怜と並ぶのに遜色なくお似合いだ。
(れいちゃんも、ユズキ先生には気楽な感じだもんね……)
怜がユズキに砕けた口調で話すのを初めて聞いた時、美寧はなぜか軽いショックを受けた。丁寧口調が彼のスタンダードではない、ということ驚いたのだ。
(もしかしたら、れいちゃんとユズキ先生は恋人同士だったのかなぁ……)
自分のことを『好きだ』と言ってくれた怜が、他の女性と今現在付き合っているとは思えない。怜はそんないい加減な人間ではない。
けれどこれまでにお付き合いのあった女性の一人や二人いることは、流石の美寧にも分かる。
(れいちゃんは素敵な大人の男性だもん……)
だから『黙ってても女の子達が寄ってくる』のは当たり前なのだ。
そう考えた途端、お腹の底から何かが湧き出しそうになって、「むぅ」と唸ってから膝に乗せているクッションに顔を埋めた。
詰めていた息をゆっくりと吐きだすと、思い切りよく顔をあげる。
「だめだめだめっ!そんなこと考えても何も出来るようにならないんだからっ!!」
美寧の高い声がリビングに響く。
「私は私に出来ることを一つでも増やさなきゃ!」
声に出すことで雑念を振り切ると、途端に美寧の頭にあることが閃いた。
「そうだ!たまには私がご飯を作って、れいちゃんの帰りを待とう!!」
我ながら名案だ。そう思った。
―――その時は。
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