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第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?
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「―――ma minette」
耳のすぐ横で囁くような声がした。
「嬉しいな……」
「え?」
「嬉しい」
はっきりとそう言われ、美寧は思わず顔を上げる。
すると、すぐ目の前の甘やかな瞳とぶつかった。
「ヤキモチを妬いてくれる程度には、俺のことを好きになってくれているってことだろう?」
「っ、」
「ミネ……もし嫌だったら言って」
「嫌って何が?」―――そう訊ねようとした瞬間、美寧の唇に怜のそれが押し当てられた。
しっとりと重ね合わさった唇から、怜の温もりが伝わってくる。
「んっ」
静かだけど長すぎる口づけに、段々と息苦しくなって、美寧は怜のシャツをキュッと掴んだ。するとそんな美寧に気付いたのか、怜がようやく離れる。
「嫌でしたか、ミネ?」
至近距離で綺麗な瞳が見つめている。そのまなざしはとても真剣で、深い夜のような紺色に吸い込まれそうになる。
「この前も痛い思いをさせてしまって、とても反省しました。ミネの気持ちも構わず強引過ぎたかも、と」
怜は整った眉を少し下げ、切れ長の瞳を伏せた。長い睫毛に隠された瞳の奥がかすかに揺れている。その切なげな表情に、美寧の胸がキュッと痛んだ。
気が付くと咄嗟に声に出していた。
「いやじゃない」
今度はハッキリと怜を見て言う。
「いやなんかじゃない」
「ミネ……本当に?」
「うん。……れいちゃんにされて嫌だったことなんて、これまで一つもないよ?」
しっかりと目を合わせて言う。
(私がはっきり言わないと、きっとれいちゃんは自分を悪者にしちゃうんだ……)
とても優しい人だから。
「私、れいちゃんと暮らし始めて初めて『何も我慢しなくていいんだ』って気が付いたの。毎日楽しくて幸せで……。それも全部れいちゃんのおかげ。れいちゃんが優しいから。恋人同士のことは良く分からないけど、でも、れいちゃんにされて嫌だったことなんてなんにもないよ?……たぶん、これからも」
「ミネ……本当に?」
「うん、ほんとう」
「俺とのキスも?嫌だったり無理したりしていませんか?」
「……うん」
ストレートな質問に、美寧は赤くなりながらもしっかりと頷いた。
「―――嬉しいな」
一言、そう口にすると、怜はもう一度腕に力を込め、小さいけれど柔らかな体を包み込んだ。
「キスしてもいい?」
耳の縁に吐息が掛かほど近くで囁かれ、美寧は頬が赤く染まるのを感じながら、小さく頷いた。
「ありがとう」
耳の入口に唇がかすかに触れ、耳の奥に直接吹き込まれるように囁かれた。そしてそれは、耳の端にちゅっと音を立ててから離れていった。
背中が甘く痺れて、腰から力が抜けそうになる。思わず目の前のシャツをキュッと握ると、「くくっ」と笑う声がする。
怜にしては珍しく楽しげな笑い声に思わず顔を上げると、美寧の額に柔らかな感触が降ってきた。
怜の唇は額や頬に何度か音を立てながら口づけを降らせた後、そっと優しく美寧の唇をさらった。
重ねられた唇から怜の熱が伝わってくる。
背中に回された腕は優しく美寧を包み込み、ただただ美寧を怖がらせないようにそっと添えられているだけ。
美寧はじわっと体の芯が熱くなっていくのを感じていた。
怜の腕に身を預け、その温もりを感じる。それだけで美寧の心が温められていく。ゆるゆると力が抜けていき、何も考えられなくなる。
もう何の抵抗も感じなかった。
どれくらいの間口づけを交わしていただろう。
怜の唇がやっと離れていった後、美寧は荒い息をつきながら怜の胸に寄りかかっていた。
美寧の様子を探るような優しい口づけは、舌を絡め合う深いものになっても変わらなかった。『嫌がることはしませんよ』という怜の想いが唇から絶えず伝わってきた。
けれど段々とそれがもどかしくなって、最後の方は美寧も夢中で応えていた気がする。
まだ息の整わない美寧の頭のてっぺんに口づけを落としながら、怜がポツリと言った。
「もう他の人には料理を作りません」
酸欠気味の脳では怜の言葉の意味がちゃんと理解できなくて、美寧は瞳をしばたかせた。
「俺の料理を食べられるのはこれからずっとミネだけです」
「えっ、これからずっと!?」
「はい」
まさかそんな“専属料理人契約”のような誓いの言葉が出てくるとは思わず、美寧は大きな瞳をクルリと丸くした。
「……いいの?れいちゃんは困らない?」
「困りません。俺が『美味しい』と言って欲しいのはミネだけですから」
ストレートな言葉に、美寧の頬がじわっと熱くなる。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちで「えへへ」と笑うと、怜は真剣な瞳でじっと美寧を見つめ、次の言葉を口にした。
「その代り、ミネも俺だけにしてください」
「……?」
“何を”なのか分からなくて、小首を傾げる。すると、もう一度美寧の唇に柔らかな感触が押し当てられた。それは、「ちゅっちゅっ」と美寧の唇を数回啄ばんで、すぐに離れた。
「こうやってキスするのは、俺とだけ。これからずっと」
色香に溢れた瞳に射抜かれ、美寧はヒュッと息を吸った。
濡れたように光る瞳を細めた怜に、「―――いいね?」と念を押され、美寧は息を止めたままコクコクと何回も頭を縦に振った。
美寧の同意に口元を緩ませた怜は、「約束、ですよ」と言って、もう一度美寧の唇を深く奪ったのだった。
【第八話 了】
耳のすぐ横で囁くような声がした。
「嬉しいな……」
「え?」
「嬉しい」
はっきりとそう言われ、美寧は思わず顔を上げる。
すると、すぐ目の前の甘やかな瞳とぶつかった。
「ヤキモチを妬いてくれる程度には、俺のことを好きになってくれているってことだろう?」
「っ、」
「ミネ……もし嫌だったら言って」
「嫌って何が?」―――そう訊ねようとした瞬間、美寧の唇に怜のそれが押し当てられた。
しっとりと重ね合わさった唇から、怜の温もりが伝わってくる。
「んっ」
静かだけど長すぎる口づけに、段々と息苦しくなって、美寧は怜のシャツをキュッと掴んだ。するとそんな美寧に気付いたのか、怜がようやく離れる。
「嫌でしたか、ミネ?」
至近距離で綺麗な瞳が見つめている。そのまなざしはとても真剣で、深い夜のような紺色に吸い込まれそうになる。
「この前も痛い思いをさせてしまって、とても反省しました。ミネの気持ちも構わず強引過ぎたかも、と」
怜は整った眉を少し下げ、切れ長の瞳を伏せた。長い睫毛に隠された瞳の奥がかすかに揺れている。その切なげな表情に、美寧の胸がキュッと痛んだ。
気が付くと咄嗟に声に出していた。
「いやじゃない」
今度はハッキリと怜を見て言う。
「いやなんかじゃない」
「ミネ……本当に?」
「うん。……れいちゃんにされて嫌だったことなんて、これまで一つもないよ?」
しっかりと目を合わせて言う。
(私がはっきり言わないと、きっとれいちゃんは自分を悪者にしちゃうんだ……)
とても優しい人だから。
「私、れいちゃんと暮らし始めて初めて『何も我慢しなくていいんだ』って気が付いたの。毎日楽しくて幸せで……。それも全部れいちゃんのおかげ。れいちゃんが優しいから。恋人同士のことは良く分からないけど、でも、れいちゃんにされて嫌だったことなんてなんにもないよ?……たぶん、これからも」
「ミネ……本当に?」
「うん、ほんとう」
「俺とのキスも?嫌だったり無理したりしていませんか?」
「……うん」
ストレートな質問に、美寧は赤くなりながらもしっかりと頷いた。
「―――嬉しいな」
一言、そう口にすると、怜はもう一度腕に力を込め、小さいけれど柔らかな体を包み込んだ。
「キスしてもいい?」
耳の縁に吐息が掛かほど近くで囁かれ、美寧は頬が赤く染まるのを感じながら、小さく頷いた。
「ありがとう」
耳の入口に唇がかすかに触れ、耳の奥に直接吹き込まれるように囁かれた。そしてそれは、耳の端にちゅっと音を立ててから離れていった。
背中が甘く痺れて、腰から力が抜けそうになる。思わず目の前のシャツをキュッと握ると、「くくっ」と笑う声がする。
怜にしては珍しく楽しげな笑い声に思わず顔を上げると、美寧の額に柔らかな感触が降ってきた。
怜の唇は額や頬に何度か音を立てながら口づけを降らせた後、そっと優しく美寧の唇をさらった。
重ねられた唇から怜の熱が伝わってくる。
背中に回された腕は優しく美寧を包み込み、ただただ美寧を怖がらせないようにそっと添えられているだけ。
美寧はじわっと体の芯が熱くなっていくのを感じていた。
怜の腕に身を預け、その温もりを感じる。それだけで美寧の心が温められていく。ゆるゆると力が抜けていき、何も考えられなくなる。
もう何の抵抗も感じなかった。
どれくらいの間口づけを交わしていただろう。
怜の唇がやっと離れていった後、美寧は荒い息をつきながら怜の胸に寄りかかっていた。
美寧の様子を探るような優しい口づけは、舌を絡め合う深いものになっても変わらなかった。『嫌がることはしませんよ』という怜の想いが唇から絶えず伝わってきた。
けれど段々とそれがもどかしくなって、最後の方は美寧も夢中で応えていた気がする。
まだ息の整わない美寧の頭のてっぺんに口づけを落としながら、怜がポツリと言った。
「もう他の人には料理を作りません」
酸欠気味の脳では怜の言葉の意味がちゃんと理解できなくて、美寧は瞳をしばたかせた。
「俺の料理を食べられるのはこれからずっとミネだけです」
「えっ、これからずっと!?」
「はい」
まさかそんな“専属料理人契約”のような誓いの言葉が出てくるとは思わず、美寧は大きな瞳をクルリと丸くした。
「……いいの?れいちゃんは困らない?」
「困りません。俺が『美味しい』と言って欲しいのはミネだけですから」
ストレートな言葉に、美寧の頬がじわっと熱くなる。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちで「えへへ」と笑うと、怜は真剣な瞳でじっと美寧を見つめ、次の言葉を口にした。
「その代り、ミネも俺だけにしてください」
「……?」
“何を”なのか分からなくて、小首を傾げる。すると、もう一度美寧の唇に柔らかな感触が押し当てられた。それは、「ちゅっちゅっ」と美寧の唇を数回啄ばんで、すぐに離れた。
「こうやってキスするのは、俺とだけ。これからずっと」
色香に溢れた瞳に射抜かれ、美寧はヒュッと息を吸った。
濡れたように光る瞳を細めた怜に、「―――いいね?」と念を押され、美寧は息を止めたままコクコクと何回も頭を縦に振った。
美寧の同意に口元を緩ませた怜は、「約束、ですよ」と言って、もう一度美寧の唇を深く奪ったのだった。
【第八話 了】
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