耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

文字の大きさ
58 / 88
第八話【スパイシー☆スープカレー】失敗は成功のもと!?

[3]ー4

しおりを挟む
「―――ma minette」

耳のすぐ横で囁くような声がした。

「嬉しいな……」

「え?」

「嬉しい」

はっきりとそう言われ、美寧は思わず顔を上げる。
すると、すぐ目の前の甘やかな瞳とぶつかった。

「ヤキモチを妬いてくれる程度には、俺のことを好きになってくれているってことだろう?」

「っ、」

「ミネ……もし嫌だったら言って」

「嫌って何が?」―――そう訊ねようとした瞬間、美寧の唇に怜のそれが押し当てられた。


しっとりと重ね合わさった唇から、怜の温もりが伝わってくる。

「んっ」

静かだけど長すぎる口づけに、段々と息苦しくなって、美寧は怜のシャツをキュッと掴んだ。するとそんな美寧に気付いたのか、怜がようやく離れる。

「嫌でしたか、ミネ?」

至近距離で綺麗な瞳が見つめている。そのまなざしはとても真剣で、深い夜のような紺色に吸い込まれそうになる。

「この前も痛い思いをさせてしまって、とても反省しました。ミネの気持ちも構わず強引過ぎたかも、と」

怜は整った眉を少し下げ、切れ長の瞳を伏せた。長い睫毛に隠された瞳の奥がかすかに揺れている。その切なげな表情に、美寧の胸がキュッと痛んだ。
気が付くと咄嗟に声に出していた。

「いやじゃない」

今度はハッキリと怜を見て言う。

「いやなんかじゃない」

「ミネ……本当に?」

「うん。……れいちゃんにされて嫌だったことなんて、これまで一つもないよ?」

しっかりと目を合わせて言う。

(私がはっきり言わないと、きっとれいちゃんは自分を悪者にしちゃうんだ……)

とても優しい人だから。

「私、れいちゃんと暮らし始めて初めて『何も我慢しなくていいんだ』って気が付いたの。毎日楽しくて幸せで……。それも全部れいちゃんのおかげ。れいちゃんが優しいから。恋人同士のことは良く分からないけど、でも、れいちゃんにされて嫌だったことなんてなんにもないよ?……たぶん、これからも」

「ミネ……本当に?」

「うん、ほんとう」

「俺とのキスも?嫌だったり無理したりしていませんか?」

「……うん」

ストレートな質問に、美寧は赤くなりながらもしっかりと頷いた。

「―――嬉しいな」

一言、そう口にすると、怜はもう一度腕に力を込め、小さいけれど柔らかな体を包み込んだ。

「キスしてもいい?」

耳の縁に吐息が掛かほど近くで囁かれ、美寧は頬が赤く染まるのを感じながら、小さく頷いた。

「ありがとう」

耳の入口に唇がかすかに触れ、耳の奥に直接吹き込まれるように囁かれた。そしてそれは、耳の端にちゅっと音を立ててから離れていった。

背中が甘く痺れて、腰から力が抜けそうになる。思わず目の前のシャツをキュッと握ると、「くくっ」と笑う声がする。
怜にしては珍しく楽しげな笑い声に思わず顔を上げると、美寧の額に柔らかな感触が降ってきた。

怜の唇は額や頬に何度か音を立てながら口づけを降らせた後、そっと優しく美寧の唇をさらった。

重ねられた唇から怜の熱が伝わってくる。

背中に回された腕は優しく美寧を包み込み、ただただ美寧を怖がらせないようにそっと添えられているだけ。
美寧はじわっと体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

怜の腕に身を預け、その温もりを感じる。それだけで美寧の心が温められていく。ゆるゆると力が抜けていき、何も考えられなくなる。

もう何の抵抗も感じなかった。


どれくらいの間口づけを交わしていただろう。

怜の唇がやっと離れていった後、美寧は荒い息をつきながら怜の胸に寄りかかっていた。

美寧の様子を探るような優しい口づけは、舌を絡め合う深いものになっても変わらなかった。『嫌がることはしませんよ』という怜の想いが唇から絶えず伝わってきた。
けれど段々とそれがもどかしくなって、最後の方は美寧も夢中で応えていた気がする。

まだ息の整わない美寧の頭のてっぺんに口づけを落としながら、怜がポツリと言った。

「もう他の人には料理を作りません」

酸欠気味の脳では怜の言葉の意味がちゃんと理解できなくて、美寧は瞳をしばたかせた。

「俺の料理を食べられるのはこれからずっとミネだけです」

「えっ、これからずっと!?」

「はい」

まさかそんな“専属料理人契約”のような誓いの言葉が出てくるとは思わず、美寧は大きな瞳をクルリと丸くした。

「……いいの?れいちゃんは困らない?」

「困りません。俺が『美味しい』と言って欲しいのはミネだけですから」

ストレートな言葉に、美寧の頬がじわっと熱くなる。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちで「えへへ」と笑うと、怜は真剣な瞳でじっと美寧を見つめ、次の言葉を口にした。

「その代り、ミネも俺だけにしてください」

「……?」

“何を”なのか分からなくて、小首を傾げる。すると、もう一度美寧の唇に柔らかな感触が押し当てられた。それは、「ちゅっちゅっ」と美寧の唇を数回啄ばんで、すぐに離れた。

「こうやってキスするのは、俺とだけ。これからずっと」

色香に溢れた瞳に射抜かれ、美寧はヒュッと息を吸った。
濡れたように光る瞳を細めた怜に、「―――いいね?」と念を押され、美寧は息を止めたままコクコクと何回も頭を縦に振った。

美寧の同意に口元を緩ませた怜は、「約束、ですよ」と言って、もう一度美寧の唇を深く奪ったのだった。





【第八話 了】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

俺様系和服社長の家庭教師になりました。

蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。  ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。  冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。  「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」  それから気づくと色の家庭教師になることに!?  期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、  俺様社長に翻弄される日々がスタートした。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

処理中です...