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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第2-2節:牽制と駆け引き
しおりを挟む今回、演奏するのは『騎士たちの行進』。騎兵の軍団が戦地へ赴く際の勇猛果敢な姿を称賛する曲だ。その中でも打楽器によるパートを演奏する。
『眠りを司る精霊さん、どうか私に力を貸して……。この建物やその周囲で深い眠りに落ちているみんなを目覚めさせて……』
私は想いを念じながら演奏を続ける。すると次第に魔法力がメロディに乗って伝播し始め、それに伴って精霊の気配もどんどん強くなっていく。
そしてそれから程なく室内の天井付近に眠りを司る精霊が姿を現す。
外見は薄桃色のパジャマを着たホビットのような感じで、ほかの精霊と同様に彼も半透明に見えている。
ちなみに精霊を認識する際、周囲の明るさは関係がない。なぜなら精霊使いがその能力によって相手の存在感そのものを感じ取り、結果的に視覚の一部として出力されているに過ぎないから。
私がチラリと視線を向けると、彼はにこやかに微笑んで大きく頷く。直後、彼の体からモヤのような虹色の光を放ち始める。私の願いに応じ、効果が発動し始めた証拠だ。
もちろん、その光もあくまでも概念的なものであって、精霊使い以外には認識することが出来ない。
こうして無事に力の行使が始まった一方、それとほぼ同じタイミングで部屋には三人の暗殺者たちが次々に到着してしまった。
彼らは一様に黒装束で、目元以外を布で隠している格好。その手に持つダガーは月の淡い光に照らされてキラリと輝いている。わずかな体格の違い以外は、最初に襲撃してきた暗殺者と変わらない。
彼らは変わり果てた姿で床に転がっている仲間の骸を目にして一瞬だけ息を呑んだけど、すぐにそのうちのひとりが無味無臭な声を漏らす。
「ほぅ、最初の襲撃は退けたか。まぁ、それくらいはしてもらわなければ、呆気なさ過ぎて我らとしてもつまらんがな」
「仲間がやられたというのに、随分と冷たいな?」
リカルドは軽く鼻で笑いながら、静かに暗殺者たちに問いかけた。
そうやって会話をすることで時間稼ぎをしようというのだろう。実に冷静な判断だと思う。だってこれ以上は敵の人数が増えそうにないし、増えたとしてもこの狭い空間ではその優位性をあまり活かせない。
そんなリカルドの思惑など知る由もなく、彼らのリーダー格らしき人物が冷たい瞳と声で返事をする。
「暗殺者の任務に危険は付きものだ。その中で命を落とすことなど珍しくはない。それにそもそも我らはとっくの昔に悲しみなどというつまらん感情を捨てている」
「だろうな……。そうでなければ汚れ役は務まらんものな?」
「分かっていて訊くとは、性格が悪いな」
「ふふっ、それは失礼した。まぁ、捻くれているのは僕自身も分かっているさ」
「だが、その性格なら貴様も死ねば地獄に堕ちることだろう。今すぐに送ってやる。そしてその床に転がっている男とあの世で再会した際には、よろしく伝えておいてくれ」
「御免こうむる。そもそも僕はまだ死ぬ気などないからな」
リカルドと暗殺者たちは身構え、お互いに視線と空気で牽制しながら対峙していた。何かちょっとしたきっかけがあれば、どちらかが攻撃に打って出てもおかしくない状態だ。
ただ、不用意に仕掛けるのはリスクを伴うのも事実。だからこそどちらもじっくり構えて相手の隙を窺い、結果として金縛りにあったかのように動けないままでいる。
その間、私は誰にも気付かれないようにかすかな足音でメロディを奏で、精霊の力を行使し続ける。
(つづく……)
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