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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第2-1節:出し惜しみしている場合じゃない!
しおりを挟むそれにしても、眼下で横たわる暗殺者は目を背けたくなるくらいにその傷口が無惨で痛々しい。おそらく全身に激しい痛みを感じると同時に絶命したんだろうな。破壊力を想像するだけでも恐ろしくなる。
でもリカルド自身も制御が難しい技だっていうし、手加減が出来なかったとしても仕方がない。殺るか殺られるか、そういう状況だったわけだし。
そんな感じで悲しげに暗殺者の骸を見下ろしていると、リカルドはゆっくりと立ち上がって深く息をつく。
「ま、コイツはあとでスティール家の者に頼んで丁重に埋葬してもらうさ。悪人であろうと、死者となった以上は無下に放っておくわけにもいくまい」
「ナイルさんに冥福を祈ってもらってもいいしね」
「そうだな。しっかり魂を昇天させてやれば、アンデッドとして誰かに利用されることもないだろうからな。いずれにしても、今回はきちんとキミを守ることが出来て僕は嬉しい」
「うんっ! ありがとう、リカルド」
私が微笑みかけると、リカルドもようやく表情を緩めた。そして私を引き寄せ、愛おしげに頭を軽く撫でてくる。
胸一杯に広がる幸せな気持ちと安息。それは些細な行為かもしれないけど、生きている喜びを確かに感じる。
――でもそんな和やかな時間も長続きはしなかった。
直後にどこからか迫ってくる複数の黒い気配を私たちは感じ取って、リカルドは即座に身構える。
私もすかさずベッドの影に置いてあったカバンのところへ駆け寄り、その中に入れてあった体力の回復薬を彼に渡す。この薬だとあまり回復効果は高くないだろうけど、それでも飲まないよりは全然マシなはずだ。
「くそ……一難去ってまた一難か……。もう新しいお客さんたちがおいでとはな……。シャロン、魔法は使える状態に戻ったか?」
「まだ対抗魔法の効果が続いてる。もうしばらくは時間がいると思う」
「そうか、それならそれまで僕はなるべく時間を稼ぐ。魔法が使えるようになったら今度こそ照明を頼む。そのあとは補助魔法でサポートをしてくれ。部屋を破壊しない程度の弱い攻撃魔法で敵を攻撃してくれてもいい」
「うんっ、リカルドの背中は私が守るよ」
「頼もしいな。ただし、無理はするなよ?」
「リカルドこそ無理はしないでね」
「分かっている。さぁ、シャロン。こっちへ――」
彼はあらためて部屋の隅へと私を誘導し、庇うような位置取りで立って剣を構え直した。そして再びドアの方へと意識を向ける。
……ただ、さっきは一対一だったからなんとかなったけど、この暗闇で複数の敵を相手に戦い続けるのは厳しいかもしれない。対抗魔法の効果が切れて、私が魔法を使えるようになるまでどれくらいかかるかも分からないし。
…………。
うん、やっぱりその時まで待ってなんかいられない。
万が一にもリカルドの身に何かがあってからじゃ遅いもんね。お義姉様やノエルくん、ほかのみんなにも顔向けが出来ない。
――ゴメンね、私はあなたを守るために精霊の力を使うよ!
私はナイフを握り締めたまま、大きく深呼吸をした。そして心を落ち着けると、その場でつま先だけを動かし、かすかな足音でメロディを奏で始める。
いつもならオカリナを使って曲を演奏をするんだけど、さすがにこの状況でそれをするのは敵に不審がられてしまうし、リカルドにだって私が何をしているのかバレバレだから。でもこれならその心配は少ない。
ちなみに精霊の力を行使するためには、必ずしも楽器の演奏をしなければならないというわけじゃない。
必要になるのは魔法力や生命力などの対価を精霊に届けるための媒体。意識の集中や成功率を考えれば、自分の得意とする楽器を奏でる方が都合いいというだけなのだ。
結果、足音ではオカリナと比べて力の発動までに少し時間がかかるし、失敗するリスクも高まる。でもなんとしてでもやり遂げるしかない。
(つづく……)
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