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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第1-3節:激しい怒りと光速の剣技
しおりを挟む今のリカルドにはいつもの優しい雰囲気も慈悲の心も感じられない。憎悪と敵意だけに満ちている。
私ですら声をかけられないほどの迫力と怖さがそこにある。
「……許さんッ! 僕の愛するシャロンに対して不埒な想像をしたこと、それだけで万死に値する! もしシャロンに髪の毛一本でも手を出してみろ、殺すぞ?」
「ほざいてろ、無力なお子ちゃまが。だが、そこまで逆上するとは面白い。お前を瀕死の状態にまで痛めつけ、たっぷりとその娘の無残な姿を見せつけてやってから殺すこととしよう」
「…………。貴様は僕を本気で怒らせた。もはや情けを掛ける価値もない。では、さらばだ」
今までとは対照的に、驚くほど冷たく言い放たれたリカルドの言葉。
まるで死神が黄泉の国の冷気を引き出し、周囲を極寒の地へと変えていくかのような寒ささえ漂っている。
直後、リカルドは剣を構えたまま、目にも留まらない速さで暗殺者に向かって突進していった。
その刃は不意に黄金色の光を帯び、暗闇の中に一筋の軌跡を描く。
間髪を容れず、光を纏った刃は暗殺者のダガーもろとも腕の骨まで砕き、そのまま肉体までをも切り裂く。
周囲に轟く衝撃音と断末魔の叫び――。
それは凄まじい破壊力だった。あまりの事態に、私は呆然と立ちつくしてしまっている。
おそらく初見ではあの技を受け止めることも回避することも難しいだろう。特にこの暗闇の中では、いくら夜目が利いたとしてもどうしても初動が遅れる。
そしてその一瞬が命取り。暗殺者からすると自分に有利だったはずの暗さが、この一撃においてはむしろ仇になったということだ。
気付けば暗殺者はうつ伏せで床に倒れ込んでいて、ピクリとも動かない。
リカルドはその傍らで片膝を付き、肩で大きく息をしている。額に浮かんだ大粒の汗は頬やアゴを伝って滴り落ち、顔色は真っ青になっている。
それを見て私はようく我に返り、慌てて彼に駆け寄る。
「リカルドっ!」
「はぁっ……はぁ……だ、大丈夫だ……。力を……っ……使いすぎただけだ……」
「今の技はっ!?」
「様々な力の波動を剣身に載せ、万物を切り裂く技だ。天使や魔族、ドラゴン、ゴーストのような実体のないモンスターであろうと、切れない相手はない。僕と同等以上の力を持たなければ、受け止めることも出来ない。しかもその破壊力と速さにより、勝負は一瞬で決まる」
「つまり実力が格下の相手なら、確実に致命傷を与えられるわけだね?」
私の問いかけに、リカルドは呼吸を整えながら頷く。
「ただし、その威力ゆえに僕自身も制御が難しい。体力と魔法力、精神力を激しく消耗するし、技を繰り出した直後にはこうして大きな隙が出来てしまう。だからなるべくなら使いたくはない奥の手なんだ」
「そうだったんだ……」
「本来なら気絶程度に留めて、色々と聞き出したかったんだがな。ヤツはシャロンを怖がらせ、侮辱するようなことを口走った。それでどうにも怒りが抑えきれなくて、我を忘れてしまった」
「うん……」
私はリカルドの熱い想いに嬉しさを噛み締めつつ、静かに彼の腕をギュッと握った。本当は抱き締めたかったけど、まだ完全に気を抜くわけにはいかない状況だから……。
(つづく……)
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