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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第4-2節:命の灯火は儚く消えて……
しおりを挟むその語られた事実は彼にとって全くの想定外だったのだろう。動揺と深刻さが入り混じったような複雑な表情が、それを物語っている。
でもそれはナイルさんも同じで、いつになくその顔色は冴えない。
「はい、リカルド様。黒幕の一味に魔族が関わっているのは確実かと」
「うーむ……。魔族とは人間以上の魔法力と力、知識などを持つ邪悪な種族。基本的には僕たちに敵対的で危険な存在……だったか……。これは想像以上に厄介だぞ……」
「今は魔族のことなんてどうでもいいよっ! ナイルさんっ、なんでもいいからポプラを助けてっ!」
私の必死の呼びかけに、ナイルさんはハッとしてから真顔で大きく頷く。
「……承知しました。やってみましょう」
彼はポプラの体に手をかざすと、先ほどとは別の呪文を唱え始めた。
おそらくそれが対抗魔法を無効化するための魔法か儀式か何かなのだろう。それが無事に発動し、その効果が現われるまでどれくらいの時間がかかるかは分からない。
さらにそのあとには解除魔法や暗示を解く魔法を使う必要がある。
ポプラの様子を考えると状況としては絶望的だ。このままだと間に合わないかもしれない。もちろんそのことを頭では理解しつつも、私は奇跡が起きることに一縷の望みをかけて神様に祈る。
でもそんな想いとは裏腹に、ポプラの反応は徐々に弱まっていく。
「ポプラっ! ポプラっ! 死んじゃダメだよぉおおおおぉッ!」
私の悲痛な叫びが部屋中にこだました。
彼女の上半身をさらに強く抱き締めつつ、その頭に私の頬を強く押しつける。温かさと微かな反応、髪の良い匂いが伝わってくる。
気付けば目の前には蒼い魔法石のついた髪留め。これはいつしかエンシル地区の露店で私が彼女にプレゼントしてあげたものだ。以来、お気に入りとしてずっと使い続けてくれている。
……そうだ、確か初めて商人ギルドへ行ってクレストさんと交渉をした時の帰り道だった。買ってあげた時、ポプラはすごく感激して喜んでくれたっけ。
そうやってまだまだふたりでたくさんの思い出を積み上げていこうよ。だからこんなところで力尽きちゃダメだよ!
「…………」
「……ポ……プラ……?」
「…………」
ただ、そんな私の願いは脆くも崩れ去り、やがてポプラの全身から力が抜けて動かなくなった。心臓の鼓動は完全に沈黙し、何の反応も示さなくなった。失禁をしてしまったのか、メイド服は濡れて湿っている。
事態を認識したナイルさんは苦悶の表情を浮かべながら、手をかざすことも呪文を唱えることも止めた。私が涙を堪え、震える唇をなんとか押し留めようとしている中、不意に目が合った彼は静かに首を何度か横に振る。
その瞬間、信じたくはなかったけどポプラの死を否が応にも確信した。心が激しく揺れる。涙が滝のように流れ落ちる。鼻水も勝手に垂れる。もうワケが分からない。
「う……そ……こんなの……嫌だよ……。ポプラぁあああああああぁーっ!」
喉が裂けてしまうのではないかというくらいに私は叫んでいた。涙が彼女の髪の上に滴り落ち、頭の中は真っ白になっていく。耳には何の音も聞こえなくなってきて、だんだん意識が遠くなっていく。
あぁ、私もこのまま死んじゃえば、ポプラとあの世で再会できるかな……。
――ただ、その直後のことだった。
目の前が蒼い光に満ち、私の失いかけた意識はその眩しさによって現実へと引き戻されていく。
何が起きたのかと当惑するばかりだったけど、なんとポプラの髪留めに付いている蒼い魔法石が太陽の如く輝いていることにようやく私は気付く。
「これ……は……!?」
私の知る限り、この石が光を放つなんて今までに一度もなかった。
何が起きているのだろう? なぜこんなことになっているのだろう? 何もかもが分からない。
(つづく……)
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