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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第4-5節:蒼き石の精霊
しおりを挟む「……っ……」
気付けば私は誰に言われるまでもなく、オカリナを手にして演奏を始めていた。
曲目は『復活の序曲』で、多くの教会においては賛美歌としても使われている。クリアな曲調と壮大な旋律が特徴の曲だけど、楽器がオカリナだとパイプオルガンなどと比べればどうしても寂しく素朴に感じてしまう。
ただ、オカリナだからこその味わいというか、心を震わせるものがある気がする。
周囲にいるリカルド以外のみんなは突然の私の不可解な行動に最初は当惑していたけど、やがて柔らかな表情になって静かに耳を傾けている。もしかしたら、ポプラを無事に天国へと導くための『鎮魂曲』のように捉えているのかも。
この場で唯一、私が何らかの理由で精霊の力を行使しようとしていると理解しているリカルドだけは、眉を曇らせて不安げにこちらを見守っている。
ただ、私が彼に視線を向けて『大丈夫だよ、心配しないで』と気持ちを込めながら念じると、それが伝わったのかその硬い表情がわずかに緩んだ。
やがて私の想いを載せた音と魔法力が、賢者の石へと流れ込んでいくのを感じるようになった。その瞬間にやはりこの石には精霊が宿っているのだと確信する。
そしてしばらくすると、石の上に白い髪とフサフサとしたヒゲを生やした老紳士の姿が半透明でぼんやりと浮かび上がってくる。
普段よく見る精霊はデフォルメされた可愛らしい外見であることが多いんだけど、この石の精霊は妙に写実的な気がする。しかもほかの精霊たちと比べると空気が厳かで、存在感や放つ力も桁違いに大きいのがハッキリと分かる。
精霊と対峙した時に思わず身震いをしてしまったのは、初めての経験だ。
『――精霊使いの娘よ、我の声が聞こえているな?』
私の脳内に威風堂々とした声が直接響いてきた。
気高き雰囲気と落ち着いた口調。おのずと私の緊張感は最高潮に達して心臓は大きく脈動している。でも演奏を続けつつ、プレッシャーに押しつぶされないよう負けん気と勇気を出して精霊に意思を念じる。
意識は周囲から完全に切り離され、私は精霊との意思疎通にだけ集中する。
『はい……。シャロンと申します。あなたはこの蒼い石に宿る精霊さんですね?』
『いかにも。誰かとこうして会話をするのはいつ以来だろうか。かつては我らと意思疎通の出来る者がたくさんいたのだがな……」
『あなたは……賢者の石……なのですか?』
『確かに人間たちは我らがひとつであった時代にそう呼んでいた。その後、細かく砕けて無数の欠片に分かれることとなったがな。我はそのひとつに宿る精霊として、新たに自我が宿ったというわけだ』
なるほど、やはりこの石の正体は『賢者の石』の欠片だったか……。
つまり私やリーザさんたちの立てた仮説はおおむね当たっていたということだ。空想の産物だろうと思っていた賢者の石が実在し、それをこうして目の当たりにしていることに興奮を感じざるを得ない。
でも不思議と実感が湧かなくて、驚くほど私の心は冷静なままでいる。
『賢者の石の精霊さん、あなたから非常に大きな力を感じます。私にその力を貸していただくことは出来ますか?』
『シャロンよ、お前は命が尽きたそこの娘――膝の上で永遠の眠りについたポプラの蘇生を望むのか?』
『っ!? なぜそのことをっ?』
真に私が訊きたかったことを先読みされ、私は心臓が止まりそうなくらいに驚いた。しかもポプラの名前まで知っているなんて……。
もしかしたら賢者の石の精霊は万物の書庫――つまり世界に関するあらゆる情報が記されているとされるモノにすらアクセスできる力を有しているのかもしれない。
賢者の石であればそれくらい強大な能力があったとしてもおかしくないし……。
そんなことを考えていると、賢者の石の精霊が呆れたように言い放つ。
『確かに我は万物の書庫にアクセスすることが可能だが、そこから情報を引き出すまでもない。我に干渉してきた時点で、お前の心も記憶も全て見通せている』
『な……っ!? あ、あはは……そ、そうでしたか……。つまり隠しごとをしたり嘘をついたりすることは出来ないということですね?』
『我がその問いに答えずとも、お前はもう理解していよう』
賢者の石の精霊にまたしても呆れられてしまった。しかも今回はさっきよりも落胆している具合が増しているような気がする。
……そっか、そりゃそうだよね。私の心を見通せているなら訊くまでもないことだった。それこそ愚問だ。
私は反省しつつ、気を取り直して真摯に賢者の石の精霊に想いを伝える。
『では、あらためてお願いします。私にあなたの力を借してください。どうかポプラを蘇生させてください』
その力が賢者の石にあるのかどうかは分からない。でもダメで元々だし、今の私にはこの運命の巡り合わせと奇跡の力に頼るしかないんだ。事ここに至っては、これが最後の希望なんだ。
強い想いを抱きつつ、私は固唾を呑んで精霊の返答を待つ。
(つづく……)
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