嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)

第4-6節:大きすぎる代償

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 しばらく沈黙が流れたあと、彼は何か思うところがあるような様子でゆっくりと話し始める。

『我にはその力がある。ただし、その願いを聞き届けたなら、お前は精霊使いの力を失うことになるだろう。それでも良いか?』

『えっ? 精霊使いの力を失うッ!?』

『ポプラが目を覚ました時、お前にはもはや我の声が聞こえなくなっていることだろう。以後はほかの精霊たちとの意思疎通も力の行使も出来なくなる。それでも――』

『構いません! ポプラが助かるのなら!』

 私は精霊の問いかけをさえぎる勢いで即答した。

 黄泉よみの世界にちてから時間が経てば経つほどこちらの世界へ引き戻すのが難しくなると何かの古文書で読んだことがあるし、一刻も早くポプラを漆黒の闇の中から救い出してあげたいから。

『一時の衝動で決めて後悔を――』

『後悔なんかしません! 私の想いに嘘偽りや迷いがありますかっ? 私の心が伝わっているあなたになら分かるでしょう! 私にとってポプラは家族も同然の親友――いえ、家族なんです! その命が助かるなら精霊使いの力なんて安いもんですよ!』

『シャロンの心に偽りがないことは分かっている。ただ、我はもっと冷静に俯瞰的ふかんてきに物事を考えよとさとしているのだ』

『……どういうことですか?』

『お前のかたわらにいる少年――リカルドとふたりで目指している夢の実現のためには、これからも精霊使いの力が必要になるのではないか?』

『っ!?』

 私の心臓が大きく跳ねた。鋭い指摘だと瞬時に感じた。

 確かに彼の言う通りかもしれない。フィルザードへ嫁いでからというもの、要所要所で私は精霊の力を借りてトラブルを乗り越えてきた。今後も水路が完成して農作物を無事に収穫するまで、まだまだ色々なことが起きるに違いない。

 天候、土、動植物、領内外の事情、関係する人たち――不確定要素を上げればキリがない。

 その時、精霊使いの力を失った私が今まで通りお役に立てるだろうか? リカルドの足を引っ張るだけにならないだろうか? ポプラを助けたいという想いと焦りばかりが募っていて、ほかの物事が頭の中からすっかり抜けていた。

『ひとつの選択が別の選択肢を閉ざしてしまうこともある。あるいはその選択の結果、全ての可能性を失うこともある。ゆえに迷うことは悪いことではない。よく考えて判断せよ』



 二兎にと追う者は一兎いっとをも得ず……か……。

 ……でも私は欲張りだから二兎にととも得たい。二兎にとを得られるような選択をしたい。

 そのためなら何だってしてみせる! 乗り越えてみせるッ! 負けるもんかっ!!

 私はほぞに力を入れ、精霊に向かって強い決意をぶつける。

『確かに精霊使いの力を失ったら、今まで以上に夢の実現に苦労するかもしれない。でもその覚悟くらい出来てる! みんなで力を合わせればきっとなんだって出来る! 実現してみせる! だからポプラの命を助けて! 今の私にとって、それはあなたの力を借りるしか方法がないのっ!』

『我の力を行使するとなれば、お前自身の体が動かなくなるかもしれぬぞ? 我が力は強大だが、それだけ反動も大きいからな』

『私の体が……動かなくなる……ッ?』

『精霊使いの力を酷使すれば、使い手の心や体にも影響が出る。お前の義姉あねであるシーファもそれゆえに体が弱った。そのことを忘れたわけではあるまい』

『構いません! ポプラを生き返らせてください!』




『……承知した』

 一拍の間が空いてから、賢者の石の精霊は静かに返事をした。

 直後、私は世界がブレるような大きな目まいがしたかと思うと、視界が激しく歪みつつ全身から一気に力が抜けていくような感覚に襲われた。まるで魂も魔法力も生命力も、何もかもが肉体から吸い出されていくかのような感じだ。

 気を抜いたら意識を失って倒れてしまうかもしれない。いや、そのまま私まで命を失ってしまったとしてもおかしくない。それくらい心と体への負担は大きかった。ほかの精霊から力を借りた時と比べて圧倒的に上だった。

 徐々に体の感覚が麻痺まひしていく。目の前は真っ白になっていって、指先にも力が入らなくなる。

 寒い……呼吸も……苦しい……。


(つづく……)
 
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