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第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第2-1節:辺境のフィルザード
しおりを挟む故郷を出発した私はベインさんたちに警護されつつ、フィルザードへの長い道のりを進んだ。
幸いなことに山賊やモンスターなどに襲われることもなく、順調に来られている。途中の町や村では比較的良い宿にも泊めてもらえているし、上質な服も着せてもらった。そうした点では快適に旅が出来ていると言ってもいいかもしれない。
それと旅をするうちにベインさんとも少しは打ち解けた。話をしてみると意外にいい人で、色々と気遣ってくれている。おそらく私の家でのことは、彼としても本意ではなかったのだと今は感じる。
彼にも立場があって、そういうことも多々しなければならないというだけなんだ。
一方、この旅で私が最も悩ませられているのは、馬車の乗り心地だった。車輪から伝わってくる振動や衝撃でお尻が痛い。それが長時間続くのだから、たまったものではない。
道が整備されているといってもその大部分は獣道に毛が生えたくらいのもので、荷車に物資を積んで運べればいいというような状態。これなら馬やロバなど動物にまたがっている方がまだ乗り心地がいいかもしれない。
……まぁ、私は王様にとって『荷物』や『道具』みたいなものだから、そういう扱いで構わないんだろうけど。それに歩いている兵士に比べればこれでも楽だろうし、贅沢を言ってはいけないとも思う。
なお、その後は森林地帯やゴツゴツとした岩肌が露出している山を越え、故郷を出てから1週間くらいしてようやくフィルザードの領内へ入ったのだった。
◆
そこは想像していた以上に荒れ果てた土地で、低木や雑草でさえもわずかに生えている程度。周囲には高い山々が連なっていて、その間にあるわずかな平地もそのほとんどが赤茶けた岩や土が剥き出しのまま広がっている。
見通しが良いことと大量の軍勢が一度に侵攻しにくいという点を考えれば、この地形は守る側の軍事上において都合がいいのかもしれないけど。
また、標高が高いせいか気温はやや涼しくて乾燥している。本による知識では温暖だと承知していたけど、実際にはそれほどでもないらしい。あるいは季節や年の平均で計ると温暖の範疇ということなのか……。
もっとも、太陽の光が強いのは確かで、空気はちょっと息苦しい感じがする。また、土埃臭い。そんな中を進んでいくと、やがて粗末な家がところどころに見えるようになってくる。
「……っ! あれはもしかしてお城っ?」
程なく遙か前方に石造りの砦と城壁が姿を現した。
これだけ離れていても大きく見えるのだから、その規模は主要な城塞都市のものに匹敵するだろう。ただ、その砦や城壁はあちこちが崩れ落ちていて、もはや軍事的な役割を果たしていないように感じる。
そして地面が裂けたかのような巨大な空堀を橋で越え、崩れた城壁を過ぎるとそこには狭い範囲ながらも綺麗に整備された畑が広がっていた。
久しぶりに目に入った植物の緑が眩しくて、心がなんとなくホッとする。荒れ果てた土地であっても、人の手が入れば少しは作物が育てられるらしい。今も何人かの男性がその畑で農作業をしている。
ちなみに城壁内に畑というのは不釣り合いな景色のようにも思えるけど、籠城戦に備えて一角を農地化している城塞都市もあると聞く。その規模を大きくしたようなものだろう。
そうした畑の間を進んでいくと砦の隣に古びたお屋敷が建っているのが見えてきて、私たち一行はその玄関の前で止まった。そこではメイド服を着たふたりの女性から出迎えを受ける。
王族の血筋で、しかもご領主様に嫁入りする人物が相手だというのに、それでは寂しすぎるような気もするけど……。
メイドのひとりは60代半ばくらいの女性で、眼鏡の奥には鋭い眼光。見るからに厳格なタイプのような感じがする。その人は馬車から降りた私を見るなり、冷たい表情をして睨み付けてくる。
もうひとりは私と同い年くらいの女の子。緊張した面持ちのままオドオドしている。そばかすが特徴的で、ショートのサラサラな金髪が美しい。彼女は私と目が合うとハッと息を呑んで、頬を赤くしながら俯いてしまった。
「――では、スピーナ殿。確かにシャロン様を送り届けました。我々は持参した物資を降ろしたら失礼します。リカルド様にもよろしくお伝えください」
「お疲れ様でした、ベイン様。シャロン様のことは私どもにお任せください」
ベインさんはスピーナと呼ばれたベテランのメイドさんと言葉を交わすと、私に向かって軽く会釈をしてから荷物を降ろす作業の手伝いに回った。その時の目は、なんだか名残惜しそうだったような気がする。
私も寂しい気持ちを感じる。出会った経緯は別として、短い間だったけどお世話になったのは間違いないから。だから私は『ありがとうございました』と、心の中でベインさんに感謝の気持ちを述べる。
(つづく……)
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