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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第1-4節:ジョセフの反発
しおりを挟むでもそんな和やかな空気を切り裂くように、今まで沈黙して様子を眺めていたジョセフさんが鬼の形相でリカルド様に迫った。いつになくピリピリとしていて、思わず身震いしてしまうような威圧感と恐ろしさを放っている。
それに対して微動だにしないリカルド様も相当な胆力の持ち主だと思うけど……。
「リカルド様、本当にそれでよろしいのですかっ? 必要に応じてシーファ様とシャロン様が面会や会話をするのは理解できますが、日常的な接触を許してしまうのはいかがかと存じます!」
「だが、これは姉上自身が決めたことだからな……。もちろん、今は僕もそれを認めているが」
「シーファ様のお体を考えれば、なんとしてでも説得して思い留まらせなければならないのではありませんかっ?」
「ははは、それは御免蒙る。僕はもう姉上の逆鱗に触れたくないのでな。それにシャロンは信頼できるし、節度も理解しているはず。心配には及ばないさ」
「……くっ!」
不意にジョセフさんはこちらを向き、私を強く睨み付けてくる。
そこには敵意しか感じず、まるで呪い殺そうとでもしているかのような雰囲気。普段の紳士的な立ち振る舞いからは想像もつかない豹変振りで、悪魔にでも取り憑かれてしまったのではないかとさえ思えてくる。
あまりの恐怖に思わず私は身がすくみ、ガクガクと奥歯が震える。
――でもその時、すかさず身を乗り出し、私をかばうような立ち位置に割って入ってくるリカルド様。その凛々しい横顔と力強い背中に私はドキッとしつつ、胸の中には安心感が広がってくる。
「シャロンに指1本でも手出しをしたら、ジョセフといえども許さんぞ。いや、僕だけでなく姉上もおそらく激昂することだろう。少し頭を冷せ」
「…………」
「姉上を説得したいならお前自身がやってみるがいい。止めはせん」
「……説得は無理……でしょうな……。私では力不足です。シーファ様の交渉術は、外交を最も得意とした先代も舌を巻くほどですから」
「そうだな、それは守役としてずっと姉上を傍で見守ってきたお前が誰よりも理解しているはずだな」
その言葉を聞き、私はようやく得心がいった。なぜジョセフさんがお義姉様のことで、あんなにも人が変わったように反応したのかを。
そうか、彼はお義姉様の守役だったのか……。
となれば、彼にとってお義姉様は直属の主君のような立場であると同時に、きっと娘のようにも想ってきた存在。その身に懸念が生じる事態となれば度を失うのも無理はない。なんだか私と私の父に似た関係だから、気持ちがすごくよく分かる。
お義姉様が成人した今でこそ身の回りの世話はルーシーさんが担っているけど、もし同性であれば引き続きお付きとして仕えることになっていたんだろうな……。
胸が詰まるような想いでジョセフさんを見ていると、彼はリカルド様に向かって深々と頭を下げる。続いて私に対しても同じように対応する。
その態度はすっかり落ち着いていて、いつものように敬意も感じられる。
「……申し訳がありませんでした。確かに私は少し熱くなり過ぎていたようです。シャロン様、どうか私の無礼をお許しください。もし処罰をお望みとあらば、素直に受け入れます」
「ジョセフさん、頭を上げてください。全てはお義姉様を案じてのこと。全て水に流します」
「ありがとうございます。以後、このようなことがないよう気を付けます」
「私もお義姉様の体調については認識しています。ですからお義姉様からのご要望がない限り、お部屋へお伺いすることはありません。面会の回数も多くなり過ぎないよう、ルーシーさんが管理してくれることでしょう。ご安心ください」
「はい、もはや私からは何も申し上げることはありません」
「――よしっ! 話にケリがついたわけだし、そろそろ食堂へ行こう! しっかりと朝食をとって、今日も元気に過ごそうじゃないか!」
リカルド様は晴れやかな声を張り上げ、ジョセフさんやナイルさんの肩をポンと軽く叩いた。そして彼はゆっくりとこちらに歩み寄ったかと思うと、すかさず私の手を握って優しく引っ張りながら食堂へ向かって進み始める。
昨夜も感じた、温かくて大きくて力強いその手――。
あの時のことを思い出して、私の胸は大きく高鳴ってくる。照れくさくて頬が熱くなる。
出来ることなら、ずっとこうしていてほしいな……。
(つづく……)
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