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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第1-5節:抜擢と当惑
しおりを挟む朝食が終わり、私たちはテーブルの席に着いたまま休憩をしていた。
目の前にあるのは空になったお皿や使用したスプーン、フォーク、カップなど。ちなみにどの料理の味も相変わらず最高だったけど、量はいずれも少なめで、満腹になるには程遠い感じだ。
でも食べ過ぎないこれくらいの方が、却って健康のためには良いのかもしれない。限られた分量の中でも、必要な栄養素はしっかりとバランスよく採れているみたいだし。
これも全てはスピーナさんの調理スキルの賜物だと思う。性格はきつくて厳しい人だけど、そういうところは素直に尊敬する。
そして頃合いを見計らい、そろそろ片付けを始めるべくスピーナさんとポプラが動き出そうとした時、リカルド様がそれを手振りで制止させる。
するとふたりは訝しげな顔をしつつも、当然ながらそれに従って椅子に座り直す。
「さて、シャロン。そろそろ『頼みたいこと』について話をしたい」
「先ほど玄関ホールでお話しされていたことですね?」
「うむ、そうだ。スピーナとポプラにも関わりのあることだから、お前たちもしばらく静かに聞いていてくれ」
その言葉に対して、スピーナさんとポプラは神妙な面持ちで小さく頷く。
「まず訊きたいのだが、シャロンは今日の午前中に何か予定は入っているか?」
「いえ、特に急を要するものは何もありませんが」
「それならキミも公務に同席してくれ。可能な限り、今後もずっとだ」
「えっ!? 私が公務にっ?」
思いも寄らなかった申し出に私は戸惑いを隠せなかった。
だって公務の場では税金・財政や法律、外交、軍事・防衛、貿易、事業・産業、福祉――ほかにも領地に関する様々な重要事項を取り扱っている。そこへ同席するということは、領地や領民の行く末に直接関わると言っても過言ではないから。
当然ながら機密事項だってたくさんある。それゆえにフィルザードに来たばかりの私がその場へ呼ばれるなんて、通常ではあり得ない異例の事態。事実、その場にいるリカルド様以外の全員が当惑した表情を見せている。
もちろん、周囲のその反応も想定内なのか、落ち着いたままでいるリカルド様。
その雰囲気から察するにこれは戯れや気まぐれで言っているのではなく、やはり何か考えがあってのことなんだとは思う。ただ、そもそも私は公務に関しては未経験の素人であって、何をすればいいのか見当もつかない。
そんな私の不安を感じ取ってか、リカルド様は安心を促すように頬を緩めてこちらを見つめてくる。
「当面は見学してくれていればいい。ただ、その中で何か気付いたことがあれば、それについて忌憚なく意見を聞かせてくれ。いわゆるキミはお目付役だな」
「リカルド様は私のことを買い被りすぎです! 私にそんな難しい役割など出来るわけがありません!」
「確かシャロンの育てのお父上は先代の王様の親衛隊長だったそうだな? その御方はかなりの切れ者だという噂だ。そしてキミは幼い頃よりずっとその御方から、様々な教育を受けてきたと聞き及んでいる」
「え、えぇ、まぁ……」
「僕はキミと話してみて、その秘めた才能の片鱗を感じた。ぜひその知識や経験を活かし、僕の力になってくれ」
「も、もちろん、リカルド様のためなら何でもする覚悟はあります。そしてやるからには全力を尽くさせていただく所存です。領地や領民の未来を左右する責任も負うわけですから。ただ、私は公務の経験がない素人。果たしてお役に立てるかどうか……」
私は期待と不安が半々で、自信を持って『お任せください!』とは言えなかった。
もちろんやりがいがある仕事だし、リカルド様のお力になりたい気持ちはある。その一方で、私は確かに父から様々な教育を受けてきたけど、それが活かせるかどうかは実際にやってみるまで自分でも分からない。
特に今回は学んだことをそのまま使うのではなく、それを基礎として『応用』しなければならないのだ。つまり難しさのレベルは格段に跳ね上がる。しかも答えはきっとひとつじゃないだろうし、そもそも正解がない可能性だってある。
(つづく……)
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