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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第1-6節:ジョセフの反発、再び!

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 だけどそんな尻込みする私を見て、なぜかリカルド様は満足げな顔をする。

「よし、ならば決定だ! 僕は安心したぞ。キミがお気楽に同意するようなら、このことを再考せねばならなくなったかもしれないからな」

「えっ?」

「公務の重要性と難しさ、責任――そういったことが頭にあれば、重く受け止めて複雑な反応をするのが当然だ。一方で公務にのぞむ意欲や覚悟も必要になる。そのバランス感覚を持ち合わせていることが大切なのだ」

「っ……!」

「シャロン、期待しているぞ。とはいえ、過度にプレッシャーを感じなくても良いがな。キミはひとりじゃないのだから。ともに荷を背負っていこう」

「は、はいっ!」

 今度こそ私は力強く同意することが出来た。

 なぜならリカルド様の考え方を聞いて、彼に思慮深さと頼りがいを感じたから。不思議と不安が薄れ、やっていけそうな気分になってくる。なによりそこまで私に期待してくれるなら、その想いに応えたい。心の底から気力がみなぎってくる。

「ポプラ、お前はシャロンが公務に参加している時、手が空くことになる。その間はスピーナの手伝いをしてやってくれ」

「は、はいなのですっ、ご領主様っ!」

 リカルド様から指示を受け、ポプラはあわてふためきつつ首を縦に振っていた。

 普段は何か仕事を任されることがあってもスピーナさんを介してという場合が多いから、いつも以上に緊張しているのかもしれない。

「スピーナもそういうことでよろしく頼む」

「……かしこまりました、リカルド様」

「本当はメイドの人数を増やすことでお前の負担を減らしてやりたいところだが、それが出来ずに申し訳ない」

「私のことはお気になさらないでくださいませ。むしろこの機会を活用してポプラをみっちりと教育しておけば、将来的に私自身が楽になります」

「ははは、お手柔らかにな。厳しくしすぎて辞められたら、元も子もないからな」

「心得ております」

 スピーナさんはリカルド様に向かって丁寧ていねいにお辞儀じぎをすると、鋭い視線をポプラに向けた。静かな中にもピリピリとした空気と迫力がにじみ出し、妥協だきょうも甘えも決して許さないと宣言しているかのようにも感じられる。

 それを目の当たりにしたポプラはピクッと体を震わせ、ヘラヘラと苦笑いを浮かべる。まさにヘビににらまれたカエルといった心境だろうか。やむを得ない流れとはいえ、私のとばっちりを受けたような形になって申し訳ないような気もする。

 ――と、そんな感じでこの話が全て収まりかけたところで、猛然とジョセフさんが声を上げる。

「お待ちください、リカルド様! 宰相さいしょうである私に事前の相談もなく、そんな重要なことをお決めになられては困ります!」

「許せ、ジョセフ。今朝、急いでまとめ上げた考えだったのでな」

「公務の場では領内の重大事項を話し合ったり、決定したりするのですぞ? 失礼ながら現時点でのシャロン様では力不足かと」

「誰でもどんなことでも最初は素人だ。天才でもない限りはな。だからこそ、まずは同席して勉強してもらおうというわけだ。外すことならいつでも出来るし、何事も試してみないことには分からないのではないか?」

「そ、それはそうですが……」

「ジョセフ、お前のはよく分かっている。だが、今は僕のことを信じて従ってもらえないだろうか?」

「…………。承知しました。リカルド様がそこまでおっしゃるのなら」

「ありがとう、ジョセフ」

 最終的にはジョセフさんが矛を納め、事態は収束した。もちろん、苦々しくしている表情を見る限り、彼は完全に納得しているわけではないみたいだけど。あくまでも今回はリカルド様の顔を立てて退いた感じだ。



 …………。


 ……それにしてもジョセフさんは私に対して当たりが強くなったような気がする。その傾向が顕著けんちょになったのは、私とお義姉様の関係を知ってから。彼とお義姉様の立場を考えれば、私を快く思わなくなったとしても不思議じゃないのは分かるけど。

 一方、お義姉様のことにしても公務のことにしてもフィルザード家にとって重大な事項だから、彼の意識が過敏になるのもうなずける。

 ――ただ、どこかしっくりと来ないのはなぜだろう。

 あくまでも私の勘だけど、ほかにも何か裏にありそうな感じがする。彼がそれだけの反応をしうるべき深刻な何かが……。


(つづく……)
 
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