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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第1-7節:執務室での初仕事
しおりを挟む食事が終わり、私はリカルド様やジョセフさんと一緒に執務室へ移動した。
この部屋は屋敷の最上階に位置し、同じフロアには応接室やリカルド様の控え室などが設けられている。要するにこの一帯は公務や外交など、外向きのことに対応するための中枢と言っていい。
執務室の広さは私の個室の4倍くらい。室内の最奥にはひときわ渋くて重厚感のある机があって、そこには積まれた書類の山がいくつも連なっている。おそらくその席にリカルド様が座って書類に目を通したりサインをしたり、あるいは判を押したりといった公務を行うのだろう。
さらに手前にはそれよりやや簡素な机がいくつかあるほか、中央には大きなテーブルと椅子が設置されていて会議も出来るようになっている。また、壁際には天井まで至る本棚がいくつも並んでいて、どの本も見るからに歴史を感じさせてくれる。
そのほか、ペンや紙など文房具類が置かれた戸棚や手を洗うための流し台、右奥にはどこかの部屋に通じているであろうドアがある。
早速、最奥の机の座席に着いたリカルド様は首を前後左右上下に動かしたり伸びをしたりしてから、大きく息をつく。
「さて、今日も公務を処理していくか。シャロンは僕の左横に立って、公務の内容ややり方を見聞きして学ぶといい。もちろん、疲れたら休んでいいし、気になることがあれば声をかけてくれ。この部屋での過ごし方はシャロンに任せる」
「承知しました。公務を拝見する際に、メモをとっても構いませんか?」
「この部屋から持ち出さないなら許可しよう。――そうだな、そういうことも考えるとシャロンにも専用の机が必要だな。あっちの机が空いているから、それを使うといい。ただ、そのためには机の上や引き出し内をなんとかしなければならないが」
「ありがとうございます。では、少しずつ片付けながら使わせていただきます」
私は指定された机のところへ行き、状況を確認することにした。そして実際にそれを目の当たりにしてみると、思った以上に混沌としていることを理解する。
まず机の上には書類や本が散乱し、場所によっては分厚く埃も被っている。少し触れただけでそれが舞い、たちまち鼻や喉を刺激してくる。さらにインクや紙の臭いも混ざって漂い、私は耐えられずにむせてしまう。
「ケホッ、ケホッ! う……っ……」
思わず顔をしかめ、服の袖で口元を覆う私。これでは確かに掃除をしなければ何も始まらない。もちろん、そのためにはバケツや雑巾などを用意する必要があるけど、部屋の中を見回してもそれらが置いてある様子はない。
こういう時、精霊の力を借りれば道具がなくても綺麗にすることが出来るんだけどな……。
ただ、この場には少なくともジョセフさんがいるし、リカルド様だけだったとしても私の身を案じて力を使うことを止められる可能性がある。となると、やっぱり自力でやるしかない。
「リカルド様、机の掃除をしたいので自分の部屋に道具を取りにいってもよろしいですか?」
「あぁ、問題ないぞ。水を汲んだり捨てたりするなら、そこの流し台を利用するといい。僕たちはほとんど使っていないが、今も蛇口からきちんと水が出る。手洗い専用で、飲用ではないがな」
「ありがとうございます」
リカルド様の許可も出たので、私は執務室を出て自室へ戻ろうとした。
でもドアノブに手をかけようとしたその時、公務の準備をしていたジョセフさんが私を呼び止めて話しかけてくる。
「シャロン様、念のために申し上げておきますが、執務室への立ち入りはリカルド様と私が揃っている時だけにするようお願いいたします。もちろん、普段はドアに鍵が掛かっていますので、勝手に入れるということでもありませんが」
「はい、分かりました」
「文房具類はそこの戸棚に入っている物をご自由にお使い下さい。ただし、無駄遣いをしないようコスト意識をしっかりとお考えの上でお願いいたします。スピーナからお小言を賜っても構わないというなら、その限りではありませんが」
「あはは……気を付けます……」
こうして私は自室に戻り、執務室にバケツや雑巾などを持ち込んだ。その後は机の掃除をするとともに書類や本などの整理、引き出し内の片付けなどを進める。
ちなみにそこに置いてある書類はどれも古くて重要性の低いものということで、それらは捨てても構わないらしい。ただ、万が一のことを考えて今は紐でまとめ、机の下や周りの空いているスペースに保管しておくことにする。
もちろん、いずれその内容が私にも理解できるようになったら、あらためて精査して処理方法を考えるつもりでいる。
また、本は本棚の空いている場所へ、まだ使える文房具類は戸棚へ、ゴミはゴミ箱へ、それ以外の物は箱の中にまとめて入れておくなど整理整頓を進めていく。
結果、この日の午前中は机の片付けでほとんどの時間を費やしてしまい、公務には参加できなかったのだった。
でもその公務に全力を傾けるためにも、まずは環境作りが必要だもんね。
(つづく……)
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