嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第2-4節:決定的な対立!

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 一方、そんなリカルド様の様子を見て少しだけホッと息をついたジョセフさんは、やれやれといった様子で肩を落とす。そのあと、彼は真顔に戻って私に話しかけてくる。

「シャロン様、我々が公務を行っている時間に視察なさってはいかがですか? 現在はまだ勉強中という立場なのですから、公務に必ず同席しなければならないというわけでもありませんし」

「……あっ、そうですね。それが最善かもしれません。その形ならリカルド様やジョセフさんにご迷惑をかけることもないでしょうから」

「恐れ入ります。警護にはナイルをお連れになれば安心でしょう。アイツなら領民に顔が利きますし、領内の案内もさせられます。公務の時間帯は明確な仕事もありません。シャロン様の視察に同行させるなら、最適の人間かと存じます」

 冷静かつかなったことを提案してくるジョセフさん。確かにナイルさんがいてくれたら、円滑に視察が出来るに違いない。

 もちろん、自分の身は自分で守れる自信があるから警護は必要ないようにも思えるけど、不測の事態が起きないとも限らない。危機管理という観点で考えれば、彼がいてくれた方が良いのは明らかだ。

「では、ナイルさんのご都合をたずねて、ポプラと3人で視察に行って参ります。それでその視察に関してリカルド様にお願いがあるのですが」

「うん? あぁ、遠慮なく言ってみろ。可能な範囲で協力しよう」

「領内の詳細な地図があれば助かるのですが、お貸しいただけませんか?」

「おぉ、地図か。それなら――」

 リカルド様は納得したようにポンと手を叩くと、執務室内のどこかを指差そうとした。ただ、その直前に再び室内に机を叩く大きな衝撃音が響き、有無を言わさずその動きは制止させられる。驚いた私も思わず体をビクッと震わせる。

 ちなみに今回も机を叩いたのはジョセフさん。もっとも、怒りの矛先はリカルド様ではなく私に向けられている。

「それは出来ませんっ! シャロン様、そのお言葉の意味を理解しておっしゃっているのですかっ?」

「えっ?」

「領内の地図は軍事上の重要な機密となっております。シャロン様といえど、屋敷外へ持ち出すことは許されません。盗難の危険性だってあるのですよ? もし悪用されれば大変なことになります。フィルザードを取り巻く環境について、先ほど私たちが話していたのをお忘れですか?」

「わ、忘れてはいませんが……地理情報を把握するには地図が……」

「それがよろしくないと申し上げています! 視察中の地理に関するメモもご遠慮いただきたい!」

 ジョセフさんは激しい剣幕で私に迫った。その苛烈かれつな威圧感と眼光に私の体は金縛りにあったかのように硬直し、心臓は手で強く握りしめられているかのような痛みと苦しさに包まれる。呼吸も苦しい。

 そんな私を見かねて、リカルド様が間に入ってくれようとするんだけど――。

「ジョ、ジョセフ……もうそれくらいで……」

「いけません、リカルド様! これは重大なことです! シャロン様ももっと想像力を働かせていただかなければ困ります!」

「それならこの場で見るくらいは許してやっても……」

「ダメです! リカルド様っ、いくらシャロン様がご正室であっても対応が甘すぎます! 限度というものをおわきまえください!」

 ジョセフさんの私やリカルド様に対する怒りは、つゆほども収まる気配がなかった。ただ、だからこそそれだけこれは重大なことなのだと理解させられる。

 さすがに私の認識が甘すぎた。素直に反省しなければならない。

 確かに地図を見れば攻める側にとっても守る側にとっても有利・不利な位置取りが一目瞭然いちもくりょうぜん。特に戦力にとぼしいフィルザードにとっては、それが致命的になる可能性もある。

 逆に言えば、ジョセフさんがこれだけ過敏に反応するということは、どこかに急所やかなめになり得る地点があるのかもしれない。そして地図を見れば、それが明らかに分かるということ――。

 万が一に備えて、このことはしっかり覚えておこう。もちろん、そんなことは起きない方がいいに決まっているけど。

「……す、すまない、シャロン。その願いは聞いてやれない」

「い、いえ、私こそ軽率でした。どうかお許しください」

 私とリカルド様はお互いに頭を下げつつ、チラチラとジョセフさんの様子をうかがった。

 彼は依然としてこちらをにらんでいるけど、私たちの反応を見て少しは落ち着いたというか、怒りの炎がわずかながら収まったような気がする。

 なんにせよ、領主であるリカルド様やその妻である私に臆することなく苦言をていしてくれる臣下がいるというのは、ありがたいことだと思う。主君を支えつつも、間違った方向へ進みそうになった時には留めてくれる――それは忠義の極みだ。

 彼の存在はフィルザードにとって大きいし、これからも必要な人だと強く感じる。


(つづく……)
 
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