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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第3-5節:フィルザードの隠された資源
しおりを挟むそこは街道に面した場所で、赤茶けた土地ではあるものの耕されて何かの作物が植えられている。もちろん、地表に顔を出している茎や葉は一様に元気がなく、一部は枯れている部分も見られる。
そして当然ながらこの周辺の畑にもたくさんのアブラズナ。しかも区画によっては黄色い花が咲いていたり収穫済みだったり、あるいは芽が出たばかりだったり、時差を付ける形で栽培されている。
こうすることで常に土地のどこかに収穫期を迎えるアブラズナが存在するようにしてあるのだろう。生長が早くて季節をあまり問わずに育てられるというアブラズナの特性を活かした、生活の知恵と言えるかもしれない。
そうした農地の光景が地平線近くまで続き、その合間にぽつんぽつんと建っているのが農業に従事する領民の皆さんの家。やがてそれらを見ていて私はあることに気が付き、それをナイルさんに問いかけてみることにする。
「ナイルさん、家や農地を見ていて気付いたんですけど……」
「はい、何でしょうか?」
「どの家や畑にも必ずひとつは井戸がありますよね? どれも使われているものなのでしょうか?」
そうなのだ、私が気付いたのは領内にある井戸の多さだった。大抵の地域では村にひとつかふたつだったり、川や湖などの水が利用できる場所ならそもそも井戸がないことだってある。
でもフィルザードはひとつの家や畑にひとつ以上の井戸が存在している。もちろんその中には涸れ井戸が含まれているとも限らないから、私はナイルさんに今も使われているものかどうかを訊ねたわけだ。
そして私が想像した通りの答えが返ってくれば、ふと頭に浮かんだ仮説を裏付けるものになる可能性がある。
――程なく彼は静かに口を開く。
「そうですね、おそらく全て現役だと思います。そうでないならフタで上部を塞ぐなり、掘った場所を埋めるなりしているはずですし。そのままだと誤って転落する危険性がありますからね」
「もちろん、井戸の水は地下水ということですよね? 地下水路でどこかから水を引こうにも、そんな大規模な工事をフィルザード全域に施せるとは思えませんから。水源だってなさそうですし」
「シャロン様がおっしゃるように、どれも地下水です。掘れば綺麗な水が湧いてきますので。だから雨が降らなくても領民は飲み水に困らないんですよ。畑に撒く水も確保できています」
「ちなみに飲み水として利用する時に煮沸は?」
「少なくとも当家ではしていないですね。その必要がないほど澄んでいますので。もちろん、水あたりをより確実に回避しようとするなら、煮沸した方が良いのでしょうけど」
どの事項もなんとなく想像がついていた返答だった。ただ、ナイルさんからその確認が取れたことにより、私の頭に浮かんだ仮説は確信へとさらに近付く。
――おそらくフィルザードは地下の水資源に恵まれている。
例えば、ポプラは私の部屋にある飲用の水瓶の水を毎日交換してくれているけど、それを煮沸をしている様子は感じられなかった。ゆえに井戸から汲んだ水をそのまま運んでいるんだろうなと思っていたのだ。
でも水は澄んでいるし、飲んでいても今のところ体調を崩すような気配はない。なにより屋敷の誰もが井戸水をそのまま飲むことに抵抗も疑問も感じていない。
そもそも井戸水だからといって湧いている水がそのまま飲めるほど綺麗とは限らない。中には体に良くない不純物が混じっていたり、お腹を壊す細菌が含まれていたりすることもある。
だから場合によっては濾過や煮沸をして飲むか、飲用以外のみの利用に限られることだってある。それらが不要で飲用にも向いているということは、フィルザードの地下水は少なくとも水質においては恵まれていると言える。
だとすれば、次に確認すべきは水量だ。続けてそのことをナイルさんに問いかける。
「そんなに汲み上げて、井戸が涸れることはないのですか?」
「うーん、私はそういう話を聞いたことがありませんね。そもそも汲み上げられる水量も微々たるものでしょうし。それに地下水の量なんて地上から目に見えるわけではありませんから、実際にどうなっているのかは分からないのが現実です」
「そう……ですよね……」
確かにナイルさんの返答は的を射ている。状況から判断するなら地下水はそれなりに豊富にあるのかもしれないけど、確実とまでは言えない。やはり決定打に欠ける。
そっか、念のためにそこはあの方法で確認する必要があるだろうな……。
(つづく……)
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