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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第3-6節:嬉しい誤算
しおりを挟むただ、ナイルさんとの話で明確になったのは、フィルザードには井戸を掘れるだけの土木技術があるということだ。それは岩塩の採掘が滞りなく行えている点を考えても納得がいく。
もっとも、井戸を掘る土木技術があるから岩塩の採掘が容易なのか、それとも岩塩の採掘が出来る土木技術があるから井戸が掘れるのか、どちらが先かは分からないけど。
いずれにしても一定水準以上の土木技術があるというのは、フィルザードの発展にとって大きなアドバンテージになる。これは思った以上にこの地は可能性を秘めているのかもしれない。
――なんだかリカルド様と私の夢を叶えるための道筋が、少し見えたような気がする。
欲を言えば、これで川や湖のような水源さえあれば最高なんだけどな……。
まぁ、それがあるならすでに活用されているだろうし、今までに見た範囲には荒野が広がっているだけでその気配は全くなかった。ゆえに望みは薄いと理解しつつも、一応はそのことをナイルさんに確認してみることにする。
「そういえば、水といえばフィルザードでは川を見かけませんね。やはり雨が少ないからなんでしょうね……」
「いえ、川ならありますよ」
「…………。……えっ? えぇえええええええええぇーっ!? フィ、フィルザードに川があるのですかっ?」
「は、はい……もちろん規模は小さいですが。それと領地の隅ですし、流れている場所も丘の陰に隠れて目立っていませんけど。シエル川といいます」
「へ……へぇ……」
私は目を丸くしたまま、しばらく放心状態になってしまった。幻聴だったのではないかと耳を疑うほど、全く頭になかった事実をナイルさんから知らされたから。彼がさも当然といった感じで即答したことも、私の驚きに拍車を掛けたのかもしれない。
ただ、これは嬉しい誤算だ。実際にこの目で見てみたい!
「ナイルさんっ! それなら明日はその川に案内してもらえませんかっ?」
「しょ……承知しました……」
瞳を輝かせながら興奮している私に対し、ナイルさんは戸惑いを隠せない様子だった。彼は何も事情が分かっていないから、その反応も当然だけど。
ちなみにポプラはそんな私たちをキョトンとしながら黙って眺めているのだった。
◆
翌日、私とポプラはナイルさんとともに領地の外れへやってきていた。目的はもちろんシエル川を視察するためだ。
そこはフィルザードの東部に当たり、屋敷のある方角から見て手前側には南北に丘が続いている。それゆえに遠くから川の存在を確認することは出来ず、地理を熟知している者でなければそこに川があるとはおそらく気付かない。
ちなみに丘を越えた先は急激に土地が低くなっていて、川とそのわずかな川辺だけが緩やかな谷状の底となっている。
つまりこれは長い年月、川の流れによって大地が削られているということ。その証拠に河岸には大小の砂利が多く堆積していて、それゆえに植物も根を張れずに大繁栄までには至っていない。
また、この地形は見方によっては天然の堤防が築かれているような状態でもあるので、千年や万年に一度の大豪雨があったとしても氾濫することがなさそうな状態となっていた。
私たちはその河岸の上からシエル川を見下ろし、流れの様子を窺う。
「シャロン様、これがシエル川です。フィルザードにおける唯一の川です」
「川の水が澄んでいて綺麗ですね。水底に根付いている水草もハッキリと見えますし。それと水があるからか、領内の荒れ地と違ってこの川辺だけは様々な植物が生えているんですね」
「はい、ここだけは別世界のように感じられます。なお、あちらに見えるクラウド池がシエル川の水源です。あの池の底で地下水が自噴しているのです」
ナイルさんが指差す方へ視線を向けてみると、そこにはお屋敷の庭より少し狭いくらいの面積の池があって、満々と水を湛えていた。深さはそんなになさそうだけど、水の透明度を考えると意外に深い可能性もある。
いずれにしても思っていた以上に水量が豊富なのは間違いなさそうだ。
「ナイルさん、ここは随分と周囲の山々に近い場所なのですね。麓という感じでしょうか」
「そうですね、山の付け根と言ってもいい場所に当たります。この川沿いにある山々の稜線までがフィルザード領となります」
「ということは、その向こう側はどなたかの領地ということですよね?」
「そうなりますね。山の向こう側もフィルザードと同様にイリシオン王国領ですが、治めているのはスティール伯爵となります。いずれ機会を作り、リカルド様とともにご挨拶に向かわれるとよろしいでしょう」
ナイルさんの提案に私は静かに頷いた。お隣さんにご挨拶をして、友好なご近所関係を築いておいても損はないから。
もしかしたらその地への訪問が、私の外交デビューやリカルド様との初めての遠出になるかもしれない。今は公務でお忙しいようだから、機を見てリカルド様に都合を訊ねてみようと思う。
(つづく……)
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