42 / 178
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第3-5節:フィルザードの隠された資源
しおりを挟むそこは街道に面した場所で、赤茶けた土地ではあるものの耕されて何かの作物が植えられている。もちろん、地表に顔を出している茎や葉は一様に元気がなく、一部は枯れている部分も見られる。
そして当然ながらこの周辺の畑にもたくさんのアブラズナ。しかも区画によっては黄色い花が咲いていたり収穫済みだったり、あるいは芽が出たばかりだったり、時差を付ける形で栽培されている。
こうすることで常に土地のどこかに収穫期を迎えるアブラズナが存在するようにしてあるのだろう。生長が早くて季節をあまり問わずに育てられるというアブラズナの特性を活かした、生活の知恵と言えるかもしれない。
そうした農地の光景が地平線近くまで続き、その合間にぽつんぽつんと建っているのが農業に従事する領民の皆さんの家。やがてそれらを見ていて私はあることに気が付き、それをナイルさんに問いかけてみることにする。
「ナイルさん、家や農地を見ていて気付いたんですけど……」
「はい、何でしょうか?」
「どの家や畑にも必ずひとつは井戸がありますよね? どれも使われているものなのでしょうか?」
そうなのだ、私が気付いたのは領内にある井戸の多さだった。大抵の地域では村にひとつかふたつだったり、川や湖などの水が利用できる場所ならそもそも井戸がないことだってある。
でもフィルザードはひとつの家や畑にひとつ以上の井戸が存在している。もちろんその中には涸れ井戸が含まれているとも限らないから、私はナイルさんに今も使われているものかどうかを訊ねたわけだ。
そして私が想像した通りの答えが返ってくれば、ふと頭に浮かんだ仮説を裏付けるものになる可能性がある。
――程なく彼は静かに口を開く。
「そうですね、おそらく全て現役だと思います。そうでないならフタで上部を塞ぐなり、掘った場所を埋めるなりしているはずですし。そのままだと誤って転落する危険性がありますからね」
「もちろん、井戸の水は地下水ということですよね? 地下水路でどこかから水を引こうにも、そんな大規模な工事をフィルザード全域に施せるとは思えませんから。水源だってなさそうですし」
「シャロン様がおっしゃるように、どれも地下水です。掘れば綺麗な水が湧いてきますので。だから雨が降らなくても領民は飲み水に困らないんですよ。畑に撒く水も確保できています」
「ちなみに飲み水として利用する時に煮沸は?」
「少なくとも当家ではしていないですね。その必要がないほど澄んでいますので。もちろん、水あたりをより確実に回避しようとするなら、煮沸した方が良いのでしょうけど」
どの事項もなんとなく想像がついていた返答だった。ただ、ナイルさんからその確認が取れたことにより、私の頭に浮かんだ仮説は確信へとさらに近付く。
――おそらくフィルザードは地下の水資源に恵まれている。
例えば、ポプラは私の部屋にある飲用の水瓶の水を毎日交換してくれているけど、それを煮沸をしている様子は感じられなかった。ゆえに井戸から汲んだ水をそのまま運んでいるんだろうなと思っていたのだ。
でも水は澄んでいるし、飲んでいても今のところ体調を崩すような気配はない。なにより屋敷の誰もが井戸水をそのまま飲むことに抵抗も疑問も感じていない。
そもそも井戸水だからといって湧いている水がそのまま飲めるほど綺麗とは限らない。中には体に良くない不純物が混じっていたり、お腹を壊す細菌が含まれていたりすることもある。
だから場合によっては濾過や煮沸をして飲むか、飲用以外のみの利用に限られることだってある。それらが不要で飲用にも向いているということは、フィルザードの地下水は少なくとも水質においては恵まれていると言える。
だとすれば、次に確認すべきは水量だ。続けてそのことをナイルさんに問いかける。
「そんなに汲み上げて、井戸が涸れることはないのですか?」
「うーん、私はそういう話を聞いたことがありませんね。そもそも汲み上げられる水量も微々たるものでしょうし。それに地下水の量なんて地上から目に見えるわけではありませんから、実際にどうなっているのかは分からないのが現実です」
「そう……ですよね……」
確かにナイルさんの返答は的を射ている。状況から判断するなら地下水はそれなりに豊富にあるのかもしれないけど、確実とまでは言えない。やはり決定打に欠ける。
そっか、念のためにそこはあの方法で確認する必要があるだろうな……。
(つづく……)
12
あなたにおすすめの小説
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※コミカライズ企画進行中
なろうさんにも同作品を投稿中です。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる