嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
49 / 178
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第4-5節:気付けば宝物はすぐそばに

しおりを挟む
 
 もっとも、公務によって様々な事業の知識や経験のある彼はすぐに何か思い当たったようで、ハッと小さく息をみながら顔を上げる。

「そうか、水路を掘るための人員や資金の手配かっ?」

「えっと……それはもう少しあとでも問題ないかと。まずは水をみ上げるための装置が必要です。その後、水路を引く場所の選定と平行して各手配を進めればよろしいように思います」

「なるほど、地下に水があってもみ上げられなければ確かに意味はないな。それで水をみ上げるための装置というのは、魔法力によって動く魔法装置マジックシステムということか?」

「それもひとつの手ですが、どんな道具も使っているうちにいつかはガタが来ます。長い目で見れば、修理や交換が容易なものの方が良いでしょう。そもそも魔法装置マジックシステム魔法道具マジックアイテムの類は価格が高いですし……」

「うむ、いずれ水路を掘る際には雇った労働者たちへ賃金を支払わなければならないわけだからな。なるべく出費を抑えたいというのは分かる」

「あっ、水路の掘削に関してはあまり心配がいらないと思います」

 すでにそれを解決するアイデアが頭にある私は、反射的に返答をした。当然、何も分かっていないリカルド様はいぶかしげな顔をする。


 …………。


 ……っ! しまった!

 彼の反応を見てようやく私は自分の失言に気付き、心の中で舌打ちをする。

 なぜなら、があってそのアイデアをリカルド様に話すわけにはいかないから。もしそのことについて追求されたら、私には隠し通せる自信がない。そしてそれを知った彼は必ず私を止めようとする。

 ――ダメだ、それだけは絶対に避けなければならない!

 もしそんなことになれば、私たちの夢の実現が大きく遅れてしまう。ゆえに私は咄嗟とっさに頭を働かせて仮初かりそめの説明を構築し、平静を装って言葉を付け加える。

「あのっ、きっと領民の皆さんは安い賃金でも協力してくれますよ!」

「……ん、そういう意味か。そうだな、皆がこの事業に賛同してくれればその可能性は充分にあるな」

「はいっ、そうですとも!」

 私は必死に作り笑いを浮かべながらリカルド様に同意した。

 するとどうやら彼は私の説明に納得してくれた様子で、何度も大きくうなずいている。それを見る限り、なんとかうまく誤魔化せたらしい。掘削の話を賃金の話へらすことが出来たのが、こうそうしたんだと思う。


 ……ホッとしたけど冷や汗がなかなか止まらない。

 誤魔化そうとするのは慣れていないから、どうしてもあせってしまう。今後はこういう失敗をしないように気を付けよう……。

「それならシャロン、魔法装置マジックシステムでないなら何を使おうというのだ?」

「えっと、私が考えているのは風車です。フィルザードは山に囲まれていて、常に一定以上の強さの風が吹き抜けています。その風の力を充分に利用できるかと」

「おぉっ、風車か! 確かに風車なら魔法装置マジックシステムと比べてメンテナンスも容易だ。もっとも、整備が出来る技術者の招聘しょうへいや育成は必要になるが」

「はい、風車は魔法装置マジックシステムより構造が簡単とはいえ、整備するためにはやはり技術がいりますので」

 リカルド様がおっしゃるように、技術者の確保は風車の導入と併せて乗り越えなければならない課題だ。

 ただ、これは商人ギルドに協力を求めれば解決できると考えている。なぜなら風車を導入する際には彼らに建設や資材の購入を依頼するわけだし、それゆえに整備が出来る人材とも繋がりがあるはずだから。

 クレストさんにご挨拶あいさつした時、彼の心象を悪くしないようにしておいて良かったとあらためて感じる。

「それに風車は魔法装置マジックシステムと比べると確かに揚水能力は劣りますが、み上げられる水量は大型の風車を導入することでカバーできます。水路網が限定的なうちはそれで充分です」

「そうか、初期から過剰な揚水能力は必要ないものな。いずれ水路が拡張して水量が不足したなら、その時に追加で新たな風車を導入すれば問題ない」

「はい、そうすることでコストを負担する時期が分散できるのもメリットです」

「フィルザードは何も手が加わらなければ貧しい土地だが、工夫をすれば水や風といった資源に満ちた場所だったのだな……」

 しみじみとつぶやくリカルド様。そんな彼に対して私は静かに首を横に振る。

「いえ、水や風だけではありません。岩塩に温泉、アブラズナもあるではありませんか。そしてなによりの財産は、リカルド様を含めたフィルザードの領民の皆様。みんな優しくて勤勉で忍耐強い」

「ふふっ、今やシャロンもその一員だ」

「はいっ!」

「気付いていないだけで、宝物は身近なところにたくさんある――ということか。日々の生活を送るのに精一杯で、今まではそうしたことに意識が向かなかった。だが、やっと長い冬を越え、新しく吹いた春風が運命を動かしつつある。そんな気がする」

 悟ったような顔をしている彼は、その視線をなぜか私に向けている。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...