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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第4-8節:水の精霊
しおりを挟む「何度も言うが、キミには代わりがいないのだ。もっと自分の体を大切にしてくれ。無理はしないでほしい」
今にも泣き出しそうな声で、私はリカルド様に叱られてしまった。
でも今回は全面的に私が悪い。心配してくれる彼の想いにまで意識が向かないまま、軽い気持ちで『これくらいなら問題ない』なんて返答してしまったのだから。
心の中で反省した私は、リカルド様に向かって素直に想いを口にする。
「……はい、分かっています。お気遣い嬉しいです。ありがとうございます。そして心配をかけさせてしまって、ごめんなさい」
「よし、薬草に力を使うのは今回が最後だ。次に弱ったら見切りを付けて、収穫してしまうことにする。わずかな量の薬草のためにこんなことを続けて、キミの体に万が一のことがあったら悔やんでも悔やみきれない」
私の肩を両手で掴んだまま体を離したリカルド様は、真顔でこちらを見つめつつ言った。
それに対して私も小さく首を縦に振る。
「承知しました。それでは明日の夜は力を使って薬草を元気にします」
「もちろん、その時も僕はシャロンに付き添うからな」
「フフッ、過保護すぎませんか? 束縛しすぎるのは、嫌われる原因になることもありますよ?」
「う……。束縛しすぎに感じているのか?」
「いえ、むしろ一緒にいられて嬉しいです。明日も深夜のデートをしましょう!」
「ありがとう! ただ、以後はそのことを頭に置いて、気を付けることにするよ」
「では、今夜はこれから水の声を聞き、地下水の状況を調べてみます」
リカルド様が守る中、私は深呼吸をして心をより鎮めると、ポケットからオカリナを取り出して構えた。そして『水の精霊よ、我が願いに応じたまえ……』と念じてから吹き口を唇に添える。
今回、演奏をするのは『せせらぎの子守歌』。高音を中心とした旋律とテンポの速さが特徴で、里山を流れる小川をイメージさせる曲だ。精神に癒しと安寧を与えてくれる曲でもある。
やがて私のオカリナから音とともに銀色の光が流れ出し、はるかな天空へと舞い上がっていく。そして空間の狭間から、羽衣を纏った天女のような姿をした水の精霊が現れる。
彼女はフワフワと綿毛のように舞いつつ、私のところへ近寄ってくる。
『水の精霊さん、教えてほしいことがあります。このフィルザードの地下には綺麗な水が豊富に存在していますか?』
私の問いかけに水の精霊はニコニコしながら頷く。やはり私の予想した通りの答えだ。ただ、そこに不安が全くなかったわけではないので、水の存在が明らかになって安堵している面もある。
続けて私は彼女に質問をする。
『フィルザード全域に水路を張り巡らせるとして、クラウド池から水を汲み上げるだけで充分な水量を確保できますか?』
この質問にも彼女の答えは『イエス』。となると、クラウド池で湧き出している水量は想像以上に豊富だということになる。
場合によっては池の底を深く掘ったり、広さを拡張したりしなければならないかもしれないと考えていたんだけど、その必要はなさそうだ。現状のまま汲み上げるだけで済むなら、こんなにありがたいことはない。
次がとりあえず最後の質問になる。
『もしそれを実現させた場合、領内の井戸水や温泉が涸れるなどの影響は出ますか?』
池から水を汲み上げたとして、そのせいで領内の井戸水が涸れてしまったら領民の皆さんの命に関わる。飲み水が失われたら、水路や畑どころではない。
この問いに水の精霊はフルフルと何度も首を横に振る。つまり池から水を汲み上げても問題がないということ――。
いずれの質問も私が望んでいた通りの良い答えが返ってきた。これなら風車や水路を造って水を領内に行き渡らせても大丈夫。私たちの夢は実現へとまた一歩近付いたことになる。
こうして知りたいことが全て分かった私はオカリナの演奏を止め、彼女に向かって微笑みながら会釈する。
『教えてくれてありがとう、水の精霊さん』
私が心の中で声をかけると、彼女はこちらに向かってペコリとお辞儀をして空の彼方へと消えていった。
辺りには静寂が戻り、その直後には固唾を呑んで見守っていたリカルド様が興奮を抑えつつ私の顔を覗き込んでくる。
「シャロン、どうだった?」
「やはり地下には水が豊富にあるそうです。それと水路を造ってそこにクラウド池から汲み上げた水を流し込んでも問題はなさそうです」
「そうか、ならば風車の建設や水路の掘削を進めても良いということか」
「はい、分担して事業を少しずつ進めていきましょう」
私は瞳を輝かせながら、リカルド様の手を取った。
いよいよ私たちは具体的に大きな事業を動かし始めることになる。なんとしてでもフィルザードの農業改革を実現させて、みんなのお腹を満たすんだ。そしていずれはパンを作って食べるんだ!
(つづく……)
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