嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
52 / 178
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第4-8節:水の精霊

しおりを挟む
 
「何度も言うが、キミには代わりがいないのだ。もっと自分の体を大切にしてくれ。無理はしないでほしい」

 今にも泣き出しそうな声で、私はリカルド様に叱られてしまった。

 でも今回は全面的に私が悪い。心配してくれる彼の想いにまで意識が向かないまま、軽い気持ちで『これくらいなら問題ない』なんて返答してしまったのだから。

 心の中で反省した私は、リカルド様に向かって素直に想いを口にする。

「……はい、分かっています。お気遣きづかい嬉しいです。ありがとうございます。そして心配をかけさせてしまって、ごめんなさい」

「よし、薬草に力を使うのは今回が最後だ。次に弱ったら見切りを付けて、収穫してしまうことにする。わずかな量の薬草のためにこんなことを続けて、キミの体に万が一のことがあったら悔やんでも悔やみきれない」

 私の肩を両手でつかんだまま体を離したリカルド様は、真顔でこちらを見つめつつ言った。

 それに対して私も小さく首を縦に振る。

「承知しました。それでは明日の夜は力を使って薬草を元気にします」

「もちろん、その時も僕はシャロンに付き添うからな」

「フフッ、過保護すぎませんか? 束縛そくばくしすぎるのは、嫌われる原因になることもありますよ?」

「う……。束縛そくばくしすぎに感じているのか?」

「いえ、むしろ一緒にいられて嬉しいです。明日も深夜のデートをしましょう!」

「ありがとう! ただ、以後はそのことを頭に置いて、気を付けることにするよ」

「では、今夜はこれからを聞き、地下水の状況を調べてみます」

 リカルド様が守る中、私は深呼吸をして心をよりしずめると、ポケットからオカリナを取り出して構えた。そして『水の精霊よ、我が願いに応じたまえ……』と念じてから吹き口を唇に添える。


 今回、演奏をするのは『せせらぎの子守歌』。高音を中心とした旋律せんりつとテンポの速さが特徴で、里山を流れる小川をイメージさせる曲だ。精神にいやしと安寧あんねいを与えてくれる曲でもある。


 やがて私のオカリナから音とともに銀色の光が流れ出し、はるかな天空へと舞い上がっていく。そして空間の狭間から、羽衣はごろもまとった天女のような姿をした水の精霊が現れる。

 彼女はフワフワと綿毛のように舞いつつ、私のところへ近寄ってくる。

『水の精霊さん、教えてほしいことがあります。このフィルザードの地下には綺麗きれいな水が豊富に存在していますか?』

 私の問いかけに水の精霊はニコニコしながらうなずく。やはり私の予想した通りの答えだ。ただ、そこに不安が全くなかったわけではないので、水の存在が明らかになって安堵あんどしている面もある。

 続けて私は彼女に質問をする。

『フィルザード全域に水路を張り巡らせるとして、クラウド池から水をみ上げるだけで充分な水量を確保できますか?』

 この質問にも彼女の答えは『イエス』。となると、クラウド池で湧き出している水量は想像以上に豊富だということになる。

 場合によっては池の底を深く掘ったり、広さを拡張したりしなければならないかもしれないと考えていたんだけど、その必要はなさそうだ。現状のままみ上げるだけで済むなら、こんなにありがたいことはない。

 次がとりあえず最後の質問になる。

『もしそれを実現させた場合、領内の井戸水や温泉がれるなどの影響は出ますか?』

 池から水をみ上げたとして、そのせいで領内の井戸水がれてしまったら領民の皆さんの命に関わる。飲み水が失われたら、水路や畑どころではない。

 この問いに水の精霊はフルフルと何度も首を横に振る。つまり池から水をみ上げても問題がないということ――。

 いずれの質問も私が望んでいた通りの良い答えが返ってきた。これなら風車や水路を造って水を領内に行き渡らせても大丈夫。私たちの夢は実現へとまた一歩近付いたことになる。

 こうして知りたいことが全て分かった私はオカリナの演奏を止め、彼女に向かって微笑みながら会釈えしゃくする。

『教えてくれてありがとう、水の精霊さん』

 私が心の中で声をかけると、彼女はこちらに向かってペコリとお辞儀じぎをして空の彼方かなたへと消えていった。

 辺りには静寂せいじゃくが戻り、その直後には固唾かたずんで見守っていたリカルド様が興奮を抑えつつ私の顔をのぞき込んでくる。

「シャロン、どうだった?」

「やはり地下には水が豊富にあるそうです。それと水路を造ってそこにクラウド池からみ上げた水を流し込んでも問題はなさそうです」

「そうか、ならば風車の建設や水路の掘削を進めても良いということか」

「はい、分担して事業を少しずつ進めていきましょう」

 私は瞳を輝かせながら、リカルド様の手を取った。

 いよいよ私たちは具体的に大きな事業を動かし始めることになる。なんとしてでもフィルザードの農業改革を実現させて、みんなのお腹を満たすんだ。そしていずれはパンを作って食べるんだ!


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...