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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第4-7節:想いは未来へ繋がっている
しおりを挟むこうして私たちはこっそりとお屋敷を抜け出し、畑へ向かって闇夜の中をゆっくりと歩んでいく。
私の手を引きつつ、ランプで辺りを照らして前を歩くリカルド様。見上げれば満天の星々が輝き、周囲にはひんやりとした空気と土の匂いが漂っている。このシチュエーションは彼と初めて深夜のデートをした時と同じだ。
図らずもまたこの印象的で素敵なデートをすることになるなんて……。
2度目なのにやっぱり最初の時と同じくらいにドキドキするし、胸の奥が熱い。ただ、今回はちょっとだけ積極的になって、私から手を強く握ってみる。
「っ!? っっっ……」
彼は驚いた様子でこちらを振り向き、私と目が合うと照れくさそうにしながら即座に前を向いてしまった。ただ、その直後に握っている手に少しだけ力を入れてくる。その反応が可愛らしく感じて、私は思わずほくそ笑む。
――やがて私たちは薬草が植えられている畑へと到着する。
これだけお屋敷から離れた場所なら、オカリナを演奏してもその音で眠っている人たちを起こしてしまうということはないだろう。一番近くにある民家はもっと離れているので、そちらも心配はない。
「こうしてキミとふたりっきりで真夜中の畑に来るのは、これで2度目だな。あの時は戸惑ったり驚愕したり、とにかく印象に残っているよ」
「リカルド様が色々と打ち明けてくれて、一緒に夢を実現する約束もしましたしね。そういえば、お義姉様のことですれ違いが起きて、仲違いをした直後でした」
「……あれは本当に申し訳がなかった。きちんと謝罪したわけだし、忘れてくれ」
ばつが悪そうにしながら頭を掻くリカルド様。そんな彼に対して、私は自分の想いをキッパリと言い放つ。
「いいえ、忘れません、一生!」
「お、おい……シャロン……まさかまだ根に持っているのか?」
「うふふっ、そうではありません。あなたとの大切な思い出のひとつですから、忘れたくないんです。それにあのことがきっかけで、今の私たちがあるような気もしますし」
「っ! …………。……うん、確かに良い思い出も悪い思い出も、全てが積み重なって現在や未来を紡いでいく。そうだな、僕も覚えていることにするよ」
「はいっ、約束ですっ!」
今後、私たちはきっとケンカをしたりツライ目に遭ったりすることもあるだろうけど、全てを受け止めて乗り越えていきたい。もちろん、良い思い出が多い方がいいに決まってるけど、そう都合良くはいかないものだから。
でもリカルド様と一緒なら大丈夫だと信じている!
「そういえば、畑の薬草はまた弱ってきている感じですね。どれも葉が萎れていますし」
視線を畑に向けると、あの夜に元気を取り戻させた薬草は再び命の灯火を失いかけていた。土の状態はそんなに悪化しているようには思えないから、やっぱり薬草自体の生命力がギリギリなのかもしれない。
事実、リカルド様は瞳に影を落としながら落胆したような声を漏らす。
「……うん、キミのおかげで一時的には元気を取り戻したが、生育環境が改善したわけではないからな」
「では、明日の夜にまた力を行使して薬草を元気にしましょう。今夜は水の声を聞いて、地下水の状況を確認することを優先したいので」
精霊の使役は精霊使いの意識が散漫だと失敗してしまうこともある。また、精霊を呼び出すことを試みたとして、それが成功でも失敗でも一定の時間が経過しないと同じ精霊を呼び出すことが出来ない。
そのインターバルは1日くらいであることが多いけど、全てはその精霊の機嫌によるから実際にどうなるのかはその時になってみないと分からない。
そして場合によってはそれが1か月以上になることもあるので、もしそうなったら水路に関する色々な予定が大幅に遅れることになる。だから今回は絶対に失敗したくない。
そうなると水の精霊と植物の精霊を呼び出す日を分けた方がより確実だ。ただ、私の提案を聞いたリカルド様は不安げな顔で私を見つめてくる。
「2日連続だなんて、そんなに頻繁に力を使って大丈夫なのか?」
「これくらいなら問題ないです。リカルド様は心配性ですよ」
「――心配して当然だろうッ!」
不意にリカルド様は私をガバッと抱き締めながら叫んだ。
その両腕にはジリジリと少しずつ力が入り、頬を私の側頭部へ寄せてくる。彼の体温や匂いを間近に感じる。速いテンポを刻む彼の心臓の音も耳に響いている。
最初は何が起きたのか分からずにいたけれど、それらを意識した瞬間に私の胸は大きく高鳴り出す。全身から力が抜け、顔も指先もなにもかも熱い。
でもなんだか心地良くて、ずっとこうされていたい気分になってくる。
(つづく……)
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