嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第5-3節:駆けつけた救世主

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「――やめろ、ジョセフ。そして剣から手を離せ」

 その時、聞き覚えのあるりんとした声がその場に響いた。

 声の主が誰なのかを認識した途端、私の胸の中は感激と安堵あんどの気持ちがあふれてくる。絶望なんか瞬時に消え失せて、希望の光が満ちてくる。


 格好良すぎるよ、リカルド様……。


 ――そう、まさしく私の危機に駆けつけてくれたのはリカルド様だった。この体勢ではまだお顔が拝見できていないけど、その声を間違うわけがない。どうやらジョセフさんもこの状況を把握し、驚いている様子なのが空気を通じて伝わってくる。

「っ!? その声はリカルド様っ? いつの間に私の背後にっ?」

「相手に気配を悟られずに接近する方法、それはお前が僕に教えてくれた戦闘術のひとつだろう。今さら何を驚くことがある?」

「……ふふっ、そうでした。しっかり身に付けられましたな、リカルド様。これも幼い頃から積み重ねてきた努力の賜物たまものです」

 ふたりの会話から察するに、背後を取られたようなのに嬉しそうに語るジョセフさん。それに対してリカルド様は深い溜息ためいきき、疲れたような声をらす。

めても何も出んぞ。というか、僕の妻に剣を突きつけるなどもってのほかだ。バカモノが。その物騒なものをさっさと下ろせ。そうすれば僕もお前の首に当てているこの剣を収めてやる」

「承知しました」

 そう言うと、ジョセフさんは私の首に当てていたロングソードを素直に退かした。こうしてようやく自由を取り戻した私は、ホッとしながら立ち上がって振り向く。

「……ぁ……っ」

 目の前に立っているのは穏やかに微笑んでいるリカルド様。ほどけた緊張と嬉しさで思わず唇が震え、感極かんきわまって私の瞳は潤んでいく。


 怖かった……本当に怖かった……。どれだけ気を張っていても……やっぱり心の奥底では怖かったんだ……。


 程なくほほに一筋の涙がこぼれ落ちる。

「シャロン、怪我けがはないか?」

「……はい……はいっ!」

 私がそう答えるとリカルド様は手を伸ばし、指で私の目元やほほを優しくぬぐってくれた。

 その後、彼はジョセフさんの方を向き、やれやれと肩を落とす。

「ジョセフ、見えない敵の存在に過敏になり過ぎだ。そのせいで感覚が鈍り、冷静さも失っているぞ。シャロンは間者かんじゃではない。彼女は無実だ」

「……そう……でしょうか? お言葉ながら、私にはそうは思えませんが……」

「まぁ、間者かんじゃの正体については、あとでお前にだけ話したいことがある。それよりも今はシャロンに対するお前の疑念を晴らしておかねばな」

 そう言うとリカルド様は私が地図を見たがっていた理由やフィルザードに水路を作ろうとしていること、風車の件で商人ギルドへ相談を持ちかけていることなどを事細かにジョセフさんに説明した。

 当然、そんな突拍子とっぴょうしもない壮大な計画を突然に聞かされ、ジョセフさんは驚きを隠せないでいる。

 ただ、根拠を示しながら順序立てて話をしているので、きちんと受け止めてくれてはいるみたい。また、間者かんじゃであるという私への疑いももはや晴れている様子だ。

「で、では、シャロンはなぜ深夜におひとりで畑に?」

「本当は僕と一緒にここへ来る予定だったんだ。だが、入浴後に僕が部屋に戻ってみると、ドアの下に怪しいメモが差し込まれていてな。僕にその場で待っているようにと書かれていた」

 その話を聞き、私は目を丸くしながらつばみ込んだ。だってそれはメモの内容こそ違うものの、状況は私と同じだったから。

 やはりこれは誰かの悪戯いたずらなんかじゃない。私やリカルド様に対する明確な悪意や何かの目的があってされたものだ。ただ、だからこそ私は動揺し、末恐ろしさも感じてしまう。

「あり得んだろ? 通常ならあとは寝るだけという時間帯に、僕との約束以上に優先することなどあるか? もし何かあったらシャロンならその理由を書くはずだし、あるいはデートを中止したいと言ってくるはず。それがないのは明らかにおかしい」

「確かにその通りですな。しかしまさか深夜にデートとは……。っ!? なるほど、思い返してみれば先日も執務室におふたりが……」

「なっ! そ、そのことはっ、今は関係ないッ!!」

 ジョセフさんの指摘を聞いた途端、リカルド様のほほは朱に染まった。瞳はウロウロと落ち着きなく動き、唇がワナワナと震えている。傍目はためにも動揺しているのが明らかだ。

 私もあの時のことを思い出し、顔が熱くなってくる。

「と、とにかくそういうわけで僕は嫌な予感がしてシャロンの部屋に駆けつけたのだが、すでに彼女の姿はなかった。それであわてて畑へ向かってみたら、こういうことになっていたわけだ」

「そういえば、シャロン様もメモがどうとかとおっしゃっていたような……」

「屋敷内の警備が手薄なのをかれたな。敵は調査の中でその情報をつかみ、利用したということだろう。今後は恒常的こうじょうてきに兵を配置して監視を強化せねばな。その兵への給金は財政的には痛いが、こうなったからには仕方あるまい」

「はい、おっしゃる通りです。すぐに対策を立てることとしましょう」

「それで僕とシャロンが畑に来ようとしていた理由なのだが――」

 そこまで言うとリカルド様は口をつぐみ、真剣な眼差しで私の方を向いた。おそらくその先を話しても良いか、私の意思を推し測っているのだろう。

 なぜならそれは私の力をジョセフさんに明かすことになるから。


(つづく……)
 
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