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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第5-2節:晴れない容疑

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 ――ううん、今はそのことを考えている場合じゃない。なんとかしてジョセフさんの誤解を解かないと。

 でもどうしたらいいのか分からない。首に剣を突きつけられているこの状況では、下手に動くことも出来ないし。

「以前から不穏な気配を感じ、極秘に調査や警戒をしていたのだ。とうとう尻尾しっぽを出したな、この間者かんじゃめ」

「私は間者かんじゃではありません! 信じてください!」

「まぁ、間者かんじゃ間者かんじゃであると素直に認めるとは私も思っていない。ろうに入れ、拷問ごうもんしてでもかせるだけだ。リカルド様やシーファ様、フィルザードに危害を加えようとする者は何人なんぴとたりとも許さん」

「私は無実です! 私がリカルド様たちを裏切るわけがないじゃないですかっ!」

「ならば深夜にこんな場所で何をしようとしていた? 知り得た情報を仲間に渡そうとしていたのではないか?」

「違います! 私は――っ!」

 そこまで叫んだところで、私は思わず言葉をんだ。

 なぜなら真実を話すということは、私の持つ力についてジョセフさんに明かすことにもなると気付いたから。現時点では彼が私をワナにめたわけではないと確信できない以上、それはリスクが高すぎる。

 ただ、その迷いがまたしても彼の疑念を深めてしまう結果となる。

「なぜ口ごもった? 否定するなら、ここにいた理由を話してみろ」

「そ、それは……」

「歯切れが悪いな。うそをついているか、あるいは何かを隠しているのが明白だぞ」

「わ、私は薬草のお世話をしようとしていただけです」

「苦しい説明だな。貴様には怪しい点がほかにもある。地図を持ち出そうとしたことはもちろん、その後に調べてみると戸棚の地図には動かした形跡があった。それに今日の昼間にはポプラを通じて商人ギルドとなにやらコソコソとしていたようだしな。そして今夜の怪しい行動。もはや疑いようがない」

 次々と突きつけられる事実――。

 こっそりと地図を見たこと以外、私にはやましいところなんてない。でも状況を客観的に考えれば、彼が私をいぶかしむのも理解できる。

 ――というか、ポプラが商人ギルドへ向かったことをジョセフさんが知っているのが気に掛かる。

 今回の私のように、たまたま目撃したということなのだろうか? なんにせよ私の旗色が悪すぎる。絶体絶命のピンチかもしれない。

「ち、地図の件も商人ギルドの件も、近いうちにジョセフさんへ詳細をお話するつもりでいたのです。後ろめたいことはありません」

「そこまでかたくななら、私もひとつだけ手の内を明かそう。私には直属の諜報ちょうほう部隊がいる。その者たちによってフィルザード内に間者かんじゃが送り込まれていることが判明しているのだ。その人数や目的、依頼主の正体などは調査中だがな。このことはリカルド様やシーファ様も当然ご存知だ」

「っ!?」

 直後、私の頭の中で過去の彼の言動が走馬燈そうまとうのようにいくつもよみがえった。

 確かに彼は私がリカルド様やお義姉様に近付くのを警戒していたし、公務への参加も渋っていた。地図の閲覧に関しても、そういう背景があったならあれだけ猛烈もうれつに反対したのもうなずける。

 きっと私やその専属メイドであるポプラの行動もこっそり監視していて、それで彼女が商人ギルドへ向かったことを知っていたに違いない。

 そんな中で深夜に私がひとりでコソコソと外出するのを目撃すれば、疑念が決定的に強まるのは当然。だとすると、彼を説得してこの状況をくつがえすのは至難しなんわざかもしれない……。

「素直に全てを白状するなら命だけは助けてやろう。拷問ごうもんも受けずに済むぞ?」

「わ、私は間者かんじゃではありません……。本当です……」

「あくまでもしらを切るか。こうなったら、ある程度は痛めつけるのもやむを得んな」

 足を踏みしめる小さな音が聞こえてくる。彼の両手はロングソードを握ることでふさがっているから、おそらく私の頭や体に蹴りでも入れようというのだろう。

 私は覚悟を決め、全身を強張こわばらせながら目を強くつむってその瞬間に備える。



 怖くて奥歯がガタガタと勝手に震える。

 でもどんなに痛くても苦しくても、この場で殺されるよりはマシだ。私はこんなところで死ぬわけにはいかないから。なんとしてでも耐え抜いて、誤解がかれるチャンスを待つんだ。

 私は絶対にあきらめない! 私たちの夢を実現するまで!

 背後でジョセフさんが動く気配を感じる。いよいよその瞬間が迫る。


(つづく……)
 
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