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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第1-5節:水とお菓子と演奏と
しおりを挟むそんなことを考えながら道を進んでいくと、やがて水路の工事現場が見えてくる。
現場監督として作業員さんたちに睨みを利かせているのが親方のグランさん。オーガーのようにがっしりとした体格と威厳を感じる鋭い眼光をしている。
でもその怖い見た目に反して、すごく紳士的で優しい性格だ。現場を指揮する立場ということもあって理知的で頭の回転も速い。まぁ、作業員さんたちにとっては見た目通りに怖い存在なのかもしれないけど。
また、ここではそのほかに十人程度の男性が地面の掘削をしている。年齢は最年少のトミーさんが二十代前半で、あとは三十代から五十代くらいまでと幅広い。
みんな元々はクレストさんが管理している岩塩鉱山で働いているだけあって、腕や足はもちろん、全身の筋肉は隆々。肌にはハリとツヤがあって、思わず指でツンツンと触ってみたくなるような衝動に駆られることもある。
「みんなっ、奥方様がいらっしゃったぞ! キリの良いところで休憩だ!」
私たちの存在に気付いたグランさんがそう声を張り上げると、現場のあちこちから『へーい!』という返事が聞こえた。
なんだか私の現れるタイミングが休憩する時間の目安になってるような感じがする。まるで鳩時計の鳩みたいだ。もっとも、どんな形であれみんなのお役に立っているのなら、私としては構わないけどね。
「皆さん、お疲れ様でーす! 一列になって水を受け取っていってくださーい! たっぷり持ってきてますのでっ、慌てなくても大丈夫ですよーっ!」
工事現場の横に辿り着いた私は荷車を止め、お腹の底から声を出してみんなに呼びかけた。
すると自分の仕事に区切りを付けた作業員さんから荷車の前に並び始める。
その際、ツルハシやスコップをその場に放って一目散にやってくる人やある程度は道具を片付けてから並ぶ人など、個人の性格が表れるのが面白い。
特にいつも真っ先に並ぶのがトミーさん。こちらの準備が整う前に駆け寄ってきて、水が配られるのを瞳を輝かせながら待っている。
あまり待たせては悪いので、私も急いでカップを用意して水を柄杓で汲んで渡す。
「はい、トミーさん。お疲れ様。ポプラから揚げ花も受け取ってくださいね。水分だけでなく塩分もきちんと補給しないとダメですよ」
「分かってます! 奥方様の持ってきてくれる水は冷たくてうまいんだよなぁ! 飲み終えたらまたお代わりをもらえますか?」
「もちろんです。でもあまり飲み過ぎないように気を付けてくださいね。体が冷えすぎるのは良くないですし、お腹が下ってしまうこともありえますので」
「そうだぞ、トミー。作業に支障が出たら、それこそ奥方様に申し訳が立たない。程々にしておけ」
続いてやってきたグランさんが呆れたような顔をしながらトミーさんの頭を拳で小突いた。彼は軽く叩いたつもりなのかもしれないけど、筋力があるから傍目にはかなり痛そうな印象を受ける。
事実、トミーさんは瞳に涙を浮かべながら頭を手で擦っているし……。
そんなふたりの様子を見て、ほかの作業員さんたちはお腹を抱えて笑っている。
「イテテテ……。親方は力が強すぎっスよ……。ところで奥方様、今日もアレをお願いできますか? 俺、いつも楽しみにしてるんですよ。元気が出てきて、休憩後の作業もスムーズに進む気がしますし」
「あっ、はい。皆さんに水を配り終えたら演奏しますね」
「やったー!」
トミーさんは跳び上がってはしゃいでいた。それに対して彼は再びグランさんから注意を受けている。
ただ、私としてはそんなにも楽しみにしていてくれるのだと思うと嬉しい。
(つづく……)
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