74 / 178
第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第1-6節:精霊の力を借りて
しおりを挟むその後、私はポプラとともに水と揚げ花を配っていき、全員に行き渡ったのを確認してから荷車の荷台に腰を掛けた。
直後、おのずとみんなの注目が私に集まり、今までザワザワとしていたその場が静まり返っていく。緊張感に包まれる中、私は深呼吸をして心をより鎮めると、ポケットからオカリナを取り出して構える。
――これは表向きにはみんなに対するオカリナの演奏。
でも実際にはそれだけじゃなくて、大地の精霊を使役するためのものでもある。
もちろん、精霊の力を借りる目的は地面を柔らかい状態にして、水路を掘りやすくすること。トミーさんは私の演奏を聴くと作業がスムーズに進む気がすると言っていたけど、それは彼自身のやる気というほかにそういう理由があるわけだ。
当然、本当は大地の精霊の力を使ってそのまま水路を造ってしまう方が、手っ取り早くて効率的なのは言うまでもない。ただ、それだと周りから見たら短期間で勝手に大規模な施設が完成してしまうことになるわけで、明らかに不自然な現象となる。
そうなれば誰かに私の能力を悟られる危険性があるし、なにより全てを精霊に任せてしまうと私自身の体に掛かる負担も大きくなる。
水路の規模や範囲を考えれば対価として消費する魔法力や体力の総量は莫大となり、おそらく私の持つそれらの容量では足りない。結果、確実に寿命を大きく削ることになるだろう。
個人的には私自身の体がどんな状態になっても構わないという覚悟はあるけど、無理をしないというリカルドとの約束があるから、それは奥の手として取っておきたい。
「ふぅ……」
私はあらためて大きく息をついた。そして精神の波長が整ったところで『大地の精霊よ、我が願いに応じたまえ……』と念じてから吹き口を唇に添える。
これから演奏するのは『愉快な旅芸人』。タイトル通り、楽しい雰囲気と旅情を感じさせる旋律の曲だ。気分が落ち込んでいても、聴いているうちに不思議と元気が出てくる。もちろん、それは演奏している側も同じだけど。
しばらくするとオカリナから音とともに銀色の光が流れ出し、どこからかドワーフのような姿をした大地の精霊が現れる。最近は最もお世話になっている精霊だからか、お互いにすっかり顔なじみといった空気感だ。
私は目の前でフワフワと浮かんでいる彼に視線を合わせ、願いを念じる。
『大地の精霊さん、水路を掘る場所の地面を柔らかくしてください。すでに掘り終えたところは壊れにくいよう堅牢にしてください』
その想いを受け、大地の精霊は得意気な顔をしながら大きく頷いた。そして水路に近付いて、舞いのようなものを踊り始める。
するとそれに合わせて彼の体から緑色の光が放たれ、これから掘削する場所などへと染みこんでいく。傍目には変化が分からないけど、きっと私の願い通りに大地が改良されているのだろう。
それは一般的な工事の進捗状況よりも早く作業が進んでいることやトミーさんの証言などから推測できる。私自身も精霊の力を行使している手応えがあるし。
やがて演奏が終わり、大地の精霊は私に向かって大きく手を振るとその場から去っていった。一方、周囲は作業員さんたちからの盛大な拍手に包まれている。
それを目の当たりにした私は達成感と満足感に心を躍らせつつ、小さく息をついたのだった。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる