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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第2-3節:やりたいこと、やらなければならないこと
しおりを挟むそれから数日が経過し、いよいよノエル様が屋敷へやってくる日となった。
受け入れの準備を担当するスピーナさんやその手伝いに入っているポプラは大忙しだけど、ほかのみんなは普段とあまり変わりない様子のまま落ち着いている。来賓とはいえ、特にリカルドにとっては気心の知れた相手だからなのかな?
また、彼らが到着するのは夕方の予定ということで、午前中はいつもと変わらずに時間が過ぎていったのだった。これには肩すかしを食ったみたいで、少し拍子抜けした感じがする。
一方、午後になるとさすがにそうもいかなくなる。
昼食後にリカルドたちは農作業へ出かけたけど、今日は早々に切り上げて屋敷へ戻るらしい。正装をして、ノエル様たちの出迎えをするのだそうだ。
それって私がこのお屋敷に来た時の冷遇振りとは天と地ほどの差がある丁重な扱いで、状況も親密度も違うとはいえちょっぴり不満が残る。
…………。
この気持ちって、嫉妬……なのかな……?
でも過ぎたことだし、今はみんなと打ち解けているから私は別に構わない。大切なのは今、そして未来なんだから。
ちなみに当然ながら、私も出迎えの場に同席するようにと言い渡されている。それゆえに午後は視察に行くのを控え、その代わりにドレスに着替えたあとは執務室で公務の処理をして過ごしている。
デザイン重視でブカブカとした袖が邪魔で、全体的に動きづらいけどこればかりは仕方がない。それとインクやホコリなどで汚れないよう注意もしないといけない……。
なお、ジョセフの疑いが晴れたあとに私も執務室の鍵を持つことを許され、だからこそ今はこうしてひとりで執務室にいる。ポプラはそもそも入室が許可されていないし、そうでなくとも今日の彼女はスピーナさんの手伝いで大忙しだしね。
「――さて、この件は完了っと」
私は処理の終わった書類の束を緩く握り、縦にしてトントンと叩いて揃えた。そしてその隅に千枚通しで穴を開け、そこに紐を通して縛っておく。
こうしてまとめた書類の束は、机の端に置いてある『処理済み』用の箱へ入れる。
「ふぅ……」
私は大きく息をつくと、椅子の背もたれに寄りかかってボーッと天井を眺めた。
室内には柱時計の時を刻む音だけが響いている。普段なら全く気にならないような小さい音のはずなのに、それがこんなにもハッキリと聞こえる。まるで嵐の前の静けさのようだ。
窓を開ければ外の音が聞こえてくるかもしれないけど、吹いてきた風で書類やホコリが舞ってしまうからそれは出来ない。
だからこそ執務室内はいつもインクや紙などの臭いに包まれているわけで……。
これでも気付いた時に少しずつ掃除はしているんだけどね。やはり徹底的に綺麗にするためには、古くなったり使わなくなったりした書類整理をしないといけないだろうな。
もちろん、まずは溜まっている公務を片付けなければその時間すら作れない。
「やりたいこと、やらなければならないことはたくさん……か……」
いずれ作物がたくさん採れるようになってフィルザード家の予算に余裕が出来れば、公務に専従する文官だって雇えるようになるはず。それまではなんとか私が頑張らないと。優先順位を付けて、ひとつずつ少しずつ確実に前進していこう。
――と、そんなことを考えていると、執務室のドアがノックされてジョセフが室内に入ってくる。
彼はいつもの平服と違い、清潔感のある黒色の軍服を身に付けていた。腰にはサーベルを差し、胸にはいくつもの勲章、軍帽には金細工の紋章が付いている。革の軍靴もピカピカに磨かれていて一点の汚れもない。
その姿に格好良さを感じつつ、私は思わず緊張してしまう。
「シャロン様、もうすぐノエル様のご一行が当屋敷に到着するとの報告が入りました。そろそろ玄関ホールで待機をお願いいたします。すでにリカルド様は準備を終えてお待ちになっております」
「承知しました。すぐに参ります」
返事をした私は道具や書類をすばやく片付けると、執務室のドアに鍵で施錠して廊下へと出た。そして階段を下りていくと、玄関ホールには正装をしたみんながすでに集まっているのが見えるようになってくる。
(つづく……)
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