嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第2-2節:フィルザードの歴史と熱々なふたり

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 イリシオン王国では領地を持つ各貴族がそれぞれいずれかの地方に所属し、有事の際は基本的にその地方単位で軍が組織されて動くことになっている。

 フィルザード家はイリシオン王国の建国以前から現在の王家となる家に代々仕えてきた古参の家柄であり、初代領主――つまりリカルドのご先祖様はその忠誠心と統治力を買われ、辺境伯へんきょうはくとしてフィルザードの地を賜った。

 敵国と国境を接する軍事上の要となる地域だから、内政力と外政力はもちろん、絶対的な信頼がなければ任せられないもんね。

 そういった歴史から、フィルザード家は現在もこの地方の総司令という格式を有し続けている。そしてそうした名家だからこそ、現在の王様は王家との結びつきを維持しておくために私をリカルドと政略結婚させたわけで……。


 …………。

 そっか、よく考えてみれば私もイリシオン王家の血筋なんだよね。ずっと平民として暮らしてきたから未だにその実感はないし、他人事ひとごとのように思っていたけど……。

「さすがよく勉強しているな、シャロン。そう、だからこそスティール家と当家が普段から密に連絡を取り合っておくのは悪いことではないのだ。むしろ丁重ていちょうに扱っておかねばな。もし彼らに裏切られた場合、当家は挟み撃ちにあって瞬時に終わりだ」

「そ、そんなまさか裏切りなんて……」

「ああ、ノエルに限ってそれはないと思う。だが、世の中は何が起きるか分からないし、ノエルの代は良くても未来永劫えいごうとは限らん。常に最悪の事態を想定し、危機感を持っておかねばならない。そうだろう、シャロン?」

「はい、肝に銘じておきます」

 私は神妙な面持ちで返事をした。それに対してリカルドは満足げにうなずく。

「そういうわけで、そのノエルが近日中にこの屋敷へやってくるとの連絡があった。数日ほど滞在する予定だ。シャロンもそのつもりでいてくれ」

「承知しました」

「――とはいえ、おそらく滞在中のアイツはずっと僕にベタベタしているだろうからな。キミが何かをするということはないと思うがな……」

 リカルドはなぜか苦笑しなから小さく溜息ためいきをついた。

 その様子を見る限り、なんとなくだけど彼はノエル様の行動を『ありがた迷惑』のように感じている面もありそうな気がする。それほどまでに過剰なスキンシップを求めてくるのだろうか?

 でも懐いている弟のような子が甘えてきたとしても特に不自然じゃないというか、むしろ微笑ましい光景だと思うんだけどな……。

「もしかしてノエル様は甘えん坊さんということですか。こんなことを言ったら本人に怒られてしまうかもしれませんが」

「そうだな、あれは甘えん坊の中でも最高レベルだな。だからといって、慕ってくれている以上は無下むげには出来ん」

「ふふっ、仲がよろしいんですね?」

「ノエルは僕と違ってひとりっ子だ。さびしさや嫡子ちゃくしとしてのプレッシャーは僕よりも大きいことだろう。僕も姉上のお体が弱い関係でひとりでいる時が良くあるから、少しはアイツの気持ちが分かる。せめて当家に滞在中は羽を伸ばさせてやりたい」

 そう述べた時のリカルドは、間違いなく弟を思いやる兄の顔をしていた。柔らかくて穏やかな瞳で、ノエル様を想う気持ちが声や表情ににじみ出ている。

 それをこうしてそばで目の当たりにしていると、私まで温かな心になってくる。

「優しいですね、リカルド様は」

「なんだ、嫉妬しっとしたか?」

「べ、別にそういうわけでは……」

「安心しろ、僕の一番はシャロンだからなっ♪」

 リカルドはニタニタしながらささやくと、私に向かってウインクをした。



 …………。

 ……っ!? ななななななっ!

 小恥ずかしくなるような言動の不意打ちに、私は瞬時に顔が熱くなった。しかも風邪でもひいたかのように頭がボーッとしてきて、目が回りそう。心臓も痛いくらいに大きく高鳴っている。

 彼の気持ちが嬉しいのは確かだけど、こういう時はどう反応すればいいのか分からなくて動揺どうようを隠しきれない。冷静に考えたくても頭の中は混乱状態だし。

 結局、私はほほを膨らませて不満をあらわにするしか出来ない。

「こ、こここ、公務中にそういう照れくさくなるような言動をするなんてっ、ふ、不謹慎ふきんしんだよっ! リカルドのバカっ!」

「はっはっは! それはすまなかったな! というか、シャロン。キミこそ公務中なのに話し方が素になってるぞ? 公私混同はしないのではなかったのか?」

 うらみがましくにらみ付ける私など意にも介さず、執務室の外まで聞こえるような大声でリカルドは笑っていた。


 ――と、その直後に横からわざとらしい咳払いが聞こえてくる。

 私とリカルドが同じタイミングでその方向へ顔を向けると、そこではジョセフが冷めたような瞳でこちらの様子を眺めている。

「……私はこの場からおいとました方がよろしいでしょうか?」

「ジョセフ、ヘソを曲げるな。シャロンは僕の妻なのだから、少しくらいは冗談を言い合っても構わんだろう」

「私はヘソを曲げているわけではありません。空気を読んで申し上げたまでです。むしろお二方にはもっと親密に過ごしていただきたいと考えておりますので」

「ふふんっ♪ 見くびるなよ、ジョセフ。すでに僕とシャロンはお前の想像している以上に甘々な関係なのだぞ? 本当だぞ?」

「左様ですか……。それは失礼いたしました」

 ジョセフはリカルドの言葉をどうとらえたのかは分からないけど、やけに淡泊な感じに言い放った。冗談として受け取ってあきれているのか、それとも自分が野暮なことを言ったと感じて恐縮しているのか。

 いずれにしても、私としては気まずさしかないんだけど……。

「さて、ふたりともそろそろ公務を再開しよう。それこそスティール家とのやり取りや各種の手配で、いつも以上にたくさんの書類を作らなければならないしな」

「っ!? は、はいっ!」

「御意」

 こうしてノエル様の来訪に関する話を終えた私たちは、いつものように公務へと移ったのだった。


(つづく……)
 
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