77 / 178
第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第2-3節:やりたいこと、やらなければならないこと
しおりを挟むそれから数日が経過し、いよいよノエル様が屋敷へやってくる日となった。
受け入れの準備を担当するスピーナさんやその手伝いに入っているポプラは大忙しだけど、ほかのみんなは普段とあまり変わりない様子のまま落ち着いている。来賓とはいえ、特にリカルドにとっては気心の知れた相手だからなのかな?
また、彼らが到着するのは夕方の予定ということで、午前中はいつもと変わらずに時間が過ぎていったのだった。これには肩すかしを食ったみたいで、少し拍子抜けした感じがする。
一方、午後になるとさすがにそうもいかなくなる。
昼食後にリカルドたちは農作業へ出かけたけど、今日は早々に切り上げて屋敷へ戻るらしい。正装をして、ノエル様たちの出迎えをするのだそうだ。
それって私がこのお屋敷に来た時の冷遇振りとは天と地ほどの差がある丁重な扱いで、状況も親密度も違うとはいえちょっぴり不満が残る。
…………。
この気持ちって、嫉妬……なのかな……?
でも過ぎたことだし、今はみんなと打ち解けているから私は別に構わない。大切なのは今、そして未来なんだから。
ちなみに当然ながら、私も出迎えの場に同席するようにと言い渡されている。それゆえに午後は視察に行くのを控え、その代わりにドレスに着替えたあとは執務室で公務の処理をして過ごしている。
デザイン重視でブカブカとした袖が邪魔で、全体的に動きづらいけどこればかりは仕方がない。それとインクやホコリなどで汚れないよう注意もしないといけない……。
なお、ジョセフの疑いが晴れたあとに私も執務室の鍵を持つことを許され、だからこそ今はこうしてひとりで執務室にいる。ポプラはそもそも入室が許可されていないし、そうでなくとも今日の彼女はスピーナさんの手伝いで大忙しだしね。
「――さて、この件は完了っと」
私は処理の終わった書類の束を緩く握り、縦にしてトントンと叩いて揃えた。そしてその隅に千枚通しで穴を開け、そこに紐を通して縛っておく。
こうしてまとめた書類の束は、机の端に置いてある『処理済み』用の箱へ入れる。
「ふぅ……」
私は大きく息をつくと、椅子の背もたれに寄りかかってボーッと天井を眺めた。
室内には柱時計の時を刻む音だけが響いている。普段なら全く気にならないような小さい音のはずなのに、それがこんなにもハッキリと聞こえる。まるで嵐の前の静けさのようだ。
窓を開ければ外の音が聞こえてくるかもしれないけど、吹いてきた風で書類やホコリが舞ってしまうからそれは出来ない。
だからこそ執務室内はいつもインクや紙などの臭いに包まれているわけで……。
これでも気付いた時に少しずつ掃除はしているんだけどね。やはり徹底的に綺麗にするためには、古くなったり使わなくなったりした書類整理をしないといけないだろうな。
もちろん、まずは溜まっている公務を片付けなければその時間すら作れない。
「やりたいこと、やらなければならないことはたくさん……か……」
いずれ作物がたくさん採れるようになってフィルザード家の予算に余裕が出来れば、公務に専従する文官だって雇えるようになるはず。それまではなんとか私が頑張らないと。優先順位を付けて、ひとつずつ少しずつ確実に前進していこう。
――と、そんなことを考えていると、執務室のドアがノックされてジョセフが室内に入ってくる。
彼はいつもの平服と違い、清潔感のある黒色の軍服を身に付けていた。腰にはサーベルを差し、胸にはいくつもの勲章、軍帽には金細工の紋章が付いている。革の軍靴もピカピカに磨かれていて一点の汚れもない。
その姿に格好良さを感じつつ、私は思わず緊張してしまう。
「シャロン様、もうすぐノエル様のご一行が当屋敷に到着するとの報告が入りました。そろそろ玄関ホールで待機をお願いいたします。すでにリカルド様は準備を終えてお待ちになっております」
「承知しました。すぐに参ります」
返事をした私は道具や書類をすばやく片付けると、執務室のドアに鍵で施錠して廊下へと出た。そして階段を下りていくと、玄関ホールには正装をしたみんながすでに集まっているのが見えるようになってくる。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉
狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。
「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。
フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。
対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。
「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」
聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。
「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」
そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。
イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。
ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼
そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ!
イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。
しかし……。
「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」
そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる