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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第4-1節:ノエルの精神的な成長
しおりを挟む翌日の朝、私たち三人はジョセフやキールさんにノエルくんの視察について提案をした。当然、ジョセフとキールさんは急な予定変更の申し出に戸惑っていたけど、最終的には警備の調整や会議時間の組み替えなどをして視察の実施が決まったのだった。
リカルドが説得の中心に回ったということもあるけど、決め手となったのはやっぱりノエルくん自身の視察に対する熱意だったと思う。
まぁ、そもそもノエルくんのフィルザード滞在中の予定は『リカルドと一緒に過ごす』というのが主体で、警備の都合さえつけば容易に変更が可能という状態だったらしいけどね。
もちろん、それなりに色々な手配は必要だから、視察に出かけるのは三日後の午後。
私とノエルくんに同行するのはポプラとキールさん、警備を担当するスティール家の兵士さんが十数人で、全員が徒歩で水路の掘削現場へ移動することとなった。
ちなみに私たちが視察をしている間、リカルドとナイルさんは畑で農作業、ジョセフは屋敷で公務の処理をするらしい。どちらの仕事もノエルくんの滞在中には出来なかったはずだから、もしかしたら彼らにとってこの話は渡りに船だったのかもね……。
そして忙しく過ごしていると時間はあっという間に過ぎていき、視察の日を迎えた。
昼食後、私はいつものように樽や冷水などを用意して、それを載せた荷車を引いていく。ノエルくんとキールさん、ポプラは私の横で、後ろや左右では警備担当の兵士さんが運搬を手伝ってくれている。
荷車の車輪はガラガラと音を立て、それに混じって私たちの足音がリズムを奏でる。
見上げれば空は相変わらず一面の青色。岩や石だらけの赤茶けた大地には強い太陽の光が降り注ぎ、露出している肌は焼けるように熱い。吹いてくる風は涼しくて心地良いんだけどね……。
そんな中、ノエルくんが私に声をかけてくる。
「それにしても、シャロン姉さんは毎日のようにこの大変な仕事をなさっているのですよね? 尊敬します」
「水路の計画は私が提案したことですし、視察も自分が好きで始めたことですから。それに今は皆さんのお役に立ちたいという想いが強いので、大変さはほとんど気になりません」
「でもシャロン姉さんは辺境伯夫人という立場。こんなことをしなくても……」
「貴族でも領民でも一人ひとりがやれることを精一杯やる。時にはお互いに助け合う。それが本来の姿なのではないかと私は思います。リカルド様だって農作業や農具の修理など、公務以外の様々な仕事をなさっていることをノエル様もご存知でしょう?」
「は、はい……」
「貴族だからといって楽な暮らしをするというのも、そもそも変な話です。むしろみんなの手本になるよう、貴族が率先して汗をかかねば。フィルザードの場合、そうしないと生きていけないという事情もありますけどね」
私の言葉を聞き、ノエルくんは軽く俯きながら深刻そうに何かを考え込んでいた。
しばらくして彼は意を決したような顔をして、キールさんの方を向く。
「キール、俺も領地へ戻ったら公務をしてみたい。最初は俺にでも出来る小さなことで構わない。だから一緒に父上に進言してくれないか?」
「っ!? し、承知しました、ノエル様! ……ご立派ですッ! このキール、ノエル様のご成長が嬉しゅうございますっ」
「もっともっと努力して、俺もリカルド兄様やシーファ姉様、そしてシャロン姉さんのような誇り高き貴族になりたい。領民やキールたち家臣たちのためにも」
そう力強く言い放ったノエルくんは精悍な顔立ちをしていて、いつになく大人びていた。そこに頼もしさを感じて、私は思わずドキッとしてしまう。
それに一瞬だけど、彼にリカルドの姿が重なって見えたような気がした。
実際には血の繋がりがないはずだし外見も全く違うけど、ふたりは本当によく似ていると思う時がある。魂の根本にある波長に親和性があるというか。
見えないところで何かが繋がっているのかもしれないな……。
(つづく……)
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