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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第1-2節:食後の伝達事項
しおりを挟むその後、夕食の時間は過ぎていき、テーブルの上に置かれた皿はどれも空っぽという状態になった。相変わらずスピーナさんの料理は美味しくて、今や私を含めたみんなのお腹の中にそれらが収まっている。
気持ちもエネルギーも満たされ、溢れてくる活力。やはり食は全ての力の根源だと強く感じる。だからこそ、領内に住む人の多くが食べ物の心配をしなくて済むようにしたいな。
私は食後のアブラズナ茶を啜りながらそんなことを思っていると、リカルドがその場にいる全員に対して声をかける。
「さて、食事も済んだことだし僕から皆に伝達事項がある。少しの時間、静かに聞いていてほしい」
その求めに応じ、私たちは一斉に動きを止めて体をリカルドの方へ向けた。そして神妙な面持ちで彼の言葉を待つ。
ザワザワとしていた物音が収まり、食堂内は静寂と厳粛な空気に包まれる。
「来月末に地方会議が開催される。毎年恒例のことゆえシャロンとポプラ以外は分かっていると思うが、これはイリシオン王国に所属する東部地域の領主たちが一堂に会する年に一度の会議だ。開催地は持ち回り制になっていて、今年はヴァーランドの担当となっている」
「つまりリカルド様はその会議に出席するため、フィルザードを留守にするということですね?」
私が問いかけると、リカルドは小さく頷く。
「うむ、そういうことだ。当家から参加するメンバーは僕とシャロン、僕たちの警護と世話役としてナイルとポプラ、ほかに選抜された兵が十人程度。さらに護衛として手練れの冒険者たち三人が加わる予定だ。クレストが自費での手配を申し出てくれてな」
「クレストさんが? お金の勘定に厳しい彼が、どういう風の吹き回しなのでしょうか。タダより高いものはないと言いますし、裏に何か思惑がありそうな気がしますが……」
「はっはっは! さすが察しが良いな、シャロン。風車や水路工事に関することで、彼から当家に何か要望があるらしい。そうであれば僕たちの夢の実現にも関わりがあることだろうし、近いうちに商人ギルドへ行って話を聞いてきてくれないか?」
「承知しました。もしかしたら、同行する冒険者たちもその時に紹介してくれるかもしれませんしね。日程の調整をして出向くことにします」
「もちろん、外出の際はナイルと一緒にな。決してキミとポプラだけで動かないでくれ。――というわけでナイル、シャロンの護衛を頼むぞ」
「かしこまりました」
そう返事をしたナイルさんに私が視線を向けると、彼は精悍な顔つきで静かに頷いた。つくづく本当にリカルドの信頼が厚い人だと思う。
「なお、今回の会議でシャロンはフィルザード辺境伯夫人として、ほかの領主たちへ初めて顔見せをすることにもなる。正式に社交界デビューというわけだ。過度なプレッシャーを感じる必要はないが、それなりの緊張感を持って臨んでほしい」
「リカルド様やフィルザード家に恥をかかせないよう善処します」
「今回のシャロンの役割はパーティに出席して、他の領主やその夫人たちと交流をすることぐらいだ。会議へ出席するのは領主やそれに準ずる立場の者だけだからな。活動的なキミにとっては退屈に感じるかもしれないが、これも仕事だと思って取り組んでほしい」
「退屈だなんて……。私は辺境伯夫人という立場なのですから、外交も大切な仕事です。全力で頑張ります」
期待と不安が入り混じり、否が応にも私の中で緊張感が高まる。自然と表情も硬くなってしまっていたかもしれない。
するとそれを察してか、リカルドは空気を和ませるかのように戯けた感じで言葉を続ける。
「まっ、キミならパーティの場でも上手く立ち回れると僕は信じているよ。むしろ他家の女性たちに妬まれたり、手の早い男性貴族どもに口説かれたりしないかの方が僕は心配だ」
「ふふっ、その時はリカルド様が私を守ってくださるのでしょう?」
「もちろんだ。権力や暴力、そのほかのあらゆる力を使って守ることを誓おう。……おっと、貧乏な当家では財力だけは使えないんだったな」
そんな私たちのやり取りを見て、食堂内は温かな笑いに包まれた。
(つづく……)
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