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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第1-1節:リカルドの洞察力
しおりを挟むノエルくんたちがヴァーランドへ帰郷してから一か月が経過した。
何者かが私とリカルドの夢の妨害をしようとしていることが明らかとなり、あれから不安な日々を過ごさざるを得ない状況となっている。もっとも、こちらがいつも以上に警戒しているからか、しばらく目立ったアクシデントは起きていないけど……。
ちなみに私としてもあまりリカルドやナイルさんへの負担を掛けたくないので、水路の工事現場への視察回数を週一回にまで減らしている。
作業員さんたちはその措置を残念がっていたけど、みんなゴーレムの脅威を間近で体感していることもあって、それも仕方がないといった感じで最後には受け入れてくれている。
一方、幸いにも怪我をした人たちはすでにほぼ回復していて、壊された水路の修復も順調に進んでいる。それに関してはなによりだと思う。
というわけで、結果として私は今まで視察に使っていた時間を公務の処理に向けるという状態になっているのだった。
…………。
それにしても、誰が暗躍しているのだろう?
依然として事件の真相だって掴めないまま。ゴーレムを使役した犯人も、みんなが眠りに落ちた原因も、なぜ私たちの邪魔をするのかも、何もかも分からない。
捜査はジョセフが指揮を執ってやってくれているはずだけど、未だに私には何の報告もない。おそらく捜査が難航しているんだろうなとは思う。あるいは何か理由があるとか、状況的にまだ私に話せる段階ではないとか。
私は思わず額を手で軽く押さえて思い悩み、小さなため息を漏らす。
「シャロン、だいぶ疲れている様子だな。無理をしすぎなのではないか?」
「リカルド……」
視線を向けると、声をかけてきたのは隣の席に座っているリカルドだった。
ちなみに今は食堂で夕食の最中。彼は身を乗り出して片肘をつき、クスッと微苦笑を浮かべながらこちらを覗き込むように見つめてきている。
力のある澄んだ黒い瞳。それは神秘的で宝石のように美しい。そしてそこに私だけが映っていると思うと、幸せな気分が湧き上がってくる。
――なんだろう、意識したら胸がドキドキして体が熱くなってきた。
何気ない当たり前の日常が、実はなによりも素晴らしいものなのだとあらためて感じる。
「頑張るキミの姿は素敵だが、倒れてしまったら僕は不安で胸が破裂しそうになるに違いない。大丈夫、僕もみんなもシャロンの努力を知っている。少しくらい休んだって誰も何も言わないさ。いや、もし何か言うヤツがいたら僕が代わりに叱ってやる」
「ありがとう……リカルド……。でも本当に大丈夫だから。ちょっと考え事をしてただけ」
「それなら構わないが、何かあったらすぐにきちんと僕に言うのだぞ?」
「ふふっ、なんだか過保護すぎない?」
肩をすくめながら、少し呆れた感じで問いかける私。するとなぜかリカルドは眉を曇らせて深いため息をつく。
「以前にも言ったが、キミはなんでもひとりで抱え込みすぎる。だからそれくらい気にかけてちょうど良いのだ。違うか?」
「う……痛いところを衝かれたなぁ……。何も反論できない……」
「ははは、活動的なのは良いことではあるがな。何度でも言うが、僕やみんなをもっと頼れ。その代わり、僕たちが苦しい時はシャロンが僕たちを助けてくれ」
「う、うんっ!」
ガシッと力強く肩を叩かれ、私は思わず恐縮してしまった。
私を見つめる彼の眼差しは優しさに満ちていて、春の陽だまりのように温かく柔らかい。
――そうだね、今は私の出来ることをやっていこう。気になる様々な出来事は、頭の隅で意識しておくくらいが良いのかもしれない。リカルドだって領内のことをひとりで動かしているワケじゃないんだし。
確かに彼は指揮をしたり決断をしたり、責任を負ったりしているけど、実務はジョセフや私、ほかにもたくさんの人たちに任せている。だからこそ領地を治めることが出来ているんだ。
時と場合によってはそうしたマクロ的な視野と対応もきっと必要。ひとりで抱え込みすぎると手が回らなくなって、最終的には身動きが取れなくなる。フットワークの軽さという私の長所が活かしきれなくなる。
そっか、リカルドはそのことを理解していて指摘してくれたのかもなぁ……。
やっぱりすごいな、彼は。私と同い年なのに、すでに領主様としての考え方や行動が身に付いているんだもん。旦那様という立場を抜きにして、人間として尊敬できる。
もちろん、たまに少年のような面も見せることがあるけど、そのギャップも愛しく感じる。
(つづく……)
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