嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第1-3節:期待されてる?

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 堅苦しい雰囲気がほんのちょっぴり緩んで、私は必要以上に入った肩の力が適度に抜けていくような気がした。

 リカルドはいつも私を見ていて配慮してくれる。嬉しいな……。

「僕たちが留守の間、フィルザードはジョセフに任せる。これは例年と同様だ。頼んだぞ、ジョセフ」

「御意」

「スピーナもジョセフを補佐してやってくれ」

「承知しました、リカルド様。シーファ様についてもいつも以上に気にかけておきますので、ご安心ください。また、これらの事柄はルーシーにも私から伝達しておきます」

「さすがはスピーナ、気が利くな。僕は本当に心強く思うぞ」

 ジョセフとスピーナさんのすっかり慣れた感じの応対に、リカルドは満足げにうなずいた。

 確かにふたりともベテランというだけあって、抜群の安定感と信頼感がある。これならリカルドも後顧こうこうれいなく会議に出かけられるというものだ。フィルザード家は財政面では厳しいけど、人材面では恵まれていると心の底から思う。

 もちろんそれは偶然じゃなくて、リカルドを筆頭に当家に関わる一人ひとりの日々の努力や人徳が良い空気を引き寄せているのではないだろうか。

「モーリス、お前はいつも通りでいいぞ。をしっかりな」

「分かっておりますぞ、リカルド様。いつでもどんな場面でも、ワシはマイペースでやらせてもらうだけじゃて」

「はっはっは、それでいい。無理はしないようにな。僕からの話は以上だ」

 こうしてリカルドからの伝達が終わると、スピーナさんとポプラはすかさず立ち上がって食器の片付けを始めた。ほかのみんなも一斉に動き始め、静かだった食堂内には彩りのある音が戻ってくる。

 緩やかに融け出していく時間。私も立ち上がって自室に戻ろうとする。

 でもその時、静かに歩み寄ってきたジョセフが話しかけてくる。

「シャロン様、会議に関する詳細については明日から少しずつ説明をさせていただきます。また、今回の外交に関する様々な手配は私が進めておきます」

「……あ、はい! よろしくお願いします、ジョセフ」

「なお、来年の会議ではそうした仕事をシャロン様にお任せしますので、そのつもりでのぞんでいただければ。もちろん、ご不明な点があればその都度、私におたずねいただいて構いませんが――」

 そこまで言うと、彼はわざとらしい咳払いをした。そのあとは無言のまま、チラチラと私の様子をうかがっている。

 そこには明らかに何か含みがある感じ。まぁ、話の内容からなんとなくその真意を察することは出来るけどね……。

 それゆえに私は思わず小さなため息をつく。

「やれやれ……。『なるべくその手間の掛からぬよう、実務を通してしっかり学び取ってください』ということですか。プレッシャーを掛けてくれますね?」

「ふふ、シャロン様の内政力と成長を信じてのことでございます。もし私がシャロン様の能力に期待していないのなら、自分のペースで全てやってしまった方が早くスムーズですので」

「……分かりました。しっかり勉強させてもらいます」

 どうやら私のメモ帳とペンのインクはますます消費が進みそうだ。

 やっぱりメモを取るのって大事。脳内の記憶領域と動かした体がある程度のことを覚えてくれるとは思うけど、会議が年に一度という頻度ひんどならば忘れてしまったり記憶違いをしていたりということもあり得る。

 それを補完するためにも紙などに記した記録は必須となる。一度経験したら忘れないといった特殊能力でもあれば別だけどね。残念ながら私は凡人だから、コツコツと積み重ねるしかない。


 …………。

 きっとリカルドもこんな感じでジョセフの思惑に乗せられ、実務を通して能力を磨いていったんだろうな。それにしっかりと応えて、乗り越えていったリカルド自身もすごいけど。

 だってこのやり方は人によっては身も心も潰れてしまうことがあるから。

 もちろん、ジョセフもそのことは分かっていて、だからこそ相手によって教え方を変えているはず。個々の性格や潜在能力を加味した上で、適した対応を取っているに違いない。

 つまり彼が言った『私に期待している』というのはきっと嘘じゃない。その『期待』がどの程度なのかは分からないけどね……。

 ――うん、いずれにしても頑張らなきゃ!


(つづく……)
 
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