101 / 178
第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第2-1節:南西地域は子や孫の代へ
しおりを挟む数日後の午後、私はナイルさんやポプラとともに屋敷の南西方面へ向かって歩いていた。この道の先にモーリスさんの家があるらしく、そこが今回の目的地となっている。
ただ、その場所で何をするのかまでは知らされていない。一昨日にリカルドからそこへ行くように指示されただけで、訊ねてもニヤニヤしながら『さてな?』と恍けられてしまうばかり。ちょっと意地悪だ……。
でもそういう時は年相応の男子という感じで、実はちょっとだけ安心する。領主様としての普段の顔はもちろんカッコイイとは思うけど、少し無理している部分もあるような気がするから。
しかもその心を砕いた姿を私だけに見せてくれていると思うと嬉しさもある。
なお、こちらの地域はリカルドたちが耕している畑や工事中の水路、商人ギルドなどがある繁華街とは屋敷を挟んで反対側に当たり、山の麓まで荒野が続いているだけの未開発地同然の状態となっている。
一応、山と山のわずかな隙間を切り拓いた道がトレス伯爵領のリトラーデンに繋がっているけど、狭く険しいということでそこを通行する者は滅多にいない。
そもそもリトラーデンもフィルザードと同じくエリシオン王国に属しているので国境はないし、東側へ迂回した方が安全かつ早く移動できるみたいだから、必然的にそうなるよね。
そのため、屋敷を出るとその先はどこまでも寂れた雰囲気となっている。
そうした状況を考えると、南西部を整備するとしても現時点では優先度はかなり低いと思う。もしかしたら私が生きている間には無理かもしれない。まぁ、そこは私とリカルドの子どもや孫たちにお任せということで。
…………。
……私とリカルドの子ども……か……。
そのことも忘れちゃいけない。私はリカルドの妻であり、いつかは跡継ぎを生まなければならない。時代や国が変われば、必ずしもその役割を背負わなくてもいいかもしれないけど……。
もちろん、相手がリカルドだったら私はいつでも受け入れる覚悟があるというか、とっくに心の整理は付いている。
ううん、むしろ今は彼との赤ちゃんが……ほしい……。
それは私の正直な想い。まだどうなるかよく分からないし、不安な面だってたくさんある。でももっと彼のことを知りたい。もっと近付きたい。もっと想いを重ね合いたい。そしてもっと一緒に未来を紡いでいきたい。
それがきっと私たちや領民、たくさんの存在の幸せに繋がると思うんだ。
私に出来ることなんてちっぽけで限られているけど、その積み重ねが素敵な未来を創る。そう信じている。
……あはは、まだまだ先は長いし、相変わらずやることがいっぱいだ。でも大変だけど、これはこれで毎日が充実していて『よしっ、やるぞぉっ!』って感じで気合いが入ってくる。
少し前までは何の変哲もない平民の娘で、死ぬまで平凡な人生を送るんだろうなって思ってたのに。運命って本当に面白い。
「それにしても、モーリスさんの自宅で何があるのかな……。そうだ、ナイルさんはリカルド様から何か詳細を聞いていますか?」
隣を歩くナイルさんに私が声をかけると、彼はあくまでも自分の任務である私の護衛の意識をほぼ緩めず、周囲の警戒を続けながら口を開く。
「いえ、何も。シャロン様に同行して警護を頼むとしか言われておりません」
「そうですか……」
「ですがリカルド様に話が通っているのですから、モーリスさんは今回の件でリカルド様からの承諾も受けているということ。単なる世間話などではなく、きちんと何か用事があるはずですよ」
「それはそうなんでしょうけど、やっぱり気になります」
私は口に指を当て、軽く俯いて低く唸った。
するとすかさずポプラがサッと私の何歩か前に駆け出てこちらを向き、屈託なく笑う。
「色々と考えても仕方ないのです。行けば分かるのです、きっと」
「あはは、そうだよね。モーリスさんと私たちは知らない仲じゃないんだし。ポプラくらいに気軽な感じでいる方がいいのかもね」
「そうなのですっ!」
太陽のような彼女の明るさに、私は思わず心が癒された。
本当にかけがえのない相手だ。私たちには立場として明確な主従関係があるけど、プライベートでは何でも話し合える友達。これからもずっとそばにいてほしいし、もし彼女に何かあれば力を尽くしてあげたい。
たまに瞳に陰が灯っているような時があるような気がするけど、誰にでもほかの人に言えないことってあるものだもんね。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる