嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第2-2節:老人とトリ

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 やがて道から少し外れた前方にこぢんまりとした畑が広がり、その先に石造りの家と小屋がひとつずつ隣り合って建っているのが見えてきた。おそらくそこがモーリスさんの暮らしている場所なのだろう。

 手前にある小屋では何かの動物でも飼っているかのようで、その奥に家があるという位置関係。どちらも古ぼけていて小さな建物だけど、周囲はきれいに整備されている。

 私たちはそこへ歩み寄り、まずはずと小屋の中を眺めてみることにする。

 すると中でたたずんでいたのは、何羽かのニワトリのような動物。途端に獣や土埃つちぼこりの臭いが鼻に広がり、私は思わず顔をしかめる。ただ、それは耐えられないほどではなく、むしろ同様の鶏小屋にしては臭いが抑えられているような気がする。

 よく見ると内部は掃除が行き届き、エサ箱や飲み水の入った器も整然と並べられている。

「ここは……鶏小屋……かな? 中にいるのは大型のニワトリみたいだけど、見たことがない種類だな……」

「シャロン様、これはニワトリではありません。モンスターの一種であるバトルバードですよ。翼の先端にカギ爪がありますでしょう? そこが見分ける際の一番のポイントです」

 横に立ったナイルさんがすかさず説明をしてくれた。

 それを聞いて私の脳内にある記憶の辞書は瞬時に該当項目を引き当て、過去に書物で学んだことがあったのをハッと思い出す。

「あっ、バトルバードですか! 彼らがそうなんなんですね? 実物を見るのは初めてです。野生種は数が減っているらしいですし、飼育種であっても手懐てなずけるにはかなりの知識や経験が必要だとか」

「さすがシャロン様、よくご存知で。私もそんなに詳しくはないのですが、使役には飼い主自身のカリスマ性や戦闘能力も重要だと聞きます。彼らにとって飼い主は群れのボスといった位置づけなのでしょう。だから飼育が難しいのも無理はありません」

「つまりモーリスさんはある程度の実力があるということなんですね?」

「屋敷内の警備を任せられているわけですから、それなりに戦えるはずです。私はあの方の戦っている姿を見たことがないので、実際のところはどうなのかは存じ上げませんけどね」

 そういえば、私はモーリスさんどころかナイルさん自身の戦闘能力を知らない。剣の手合わせをお願いしたいなとずっと前から思いつつ、現在に至るまでその機会がないままだし。

 リカルドの親衛隊長として警護を担当している彼の立場、それと普段の身のこなしから相当な実力者であろうことは想像がつくけど、やっぱり見てみないと分からない面は多々ある。

 というのも、実戦では剣術に加えて様々な魔法、駆け引き、相性、経験、周囲の状況、そのほかにも様々な要素が絡んできて、戦ってみないと『強さ』を判断するのは難しいから。

 もちろん、戦いなんてない方が良いに決まっているから、彼が実力を発揮しなければならないようなことが起きないのがベストだけど。

 …………。

 ……本当に何もなければ良いんだけど、状況を考えるとあまり楽観的にはなれない。どうしてもゴーレムによる襲撃事件が頭から離れないし、暗躍あんやくしている何者かがいる以上はあれだけで終わるとは思えない。

 そんな感じで私が重く考え込んでいると、またしてもポプラがそれを吹き飛ばすかのような無邪気な笑顔で言い放つ。

「おそらくモーリスさんはかなり強いのです。人は見かけによらないとか、能ある鷹は爪を隠すとも言うのです」

「なるほど、それは一理あるかもね」

「ただ、年寄りの冷や水ということもあり得そうなのです! だって屋敷内で会うたびに腰が痛いとか足が痛いとか言ってますので! ギックリ腰になって、真っ青な顔のまま脂汗を噴き出させてたこともあったのです! あははははっ!」

「こ、声が大きいよ、ポプラ……」

 私は周囲を見回し、ビクビクしながら額に冷や汗をにじませた。

 だってすぐ隣の家にはモーリスさん本人がいるはずなんだから。あんなに大きな声で話していたら、彼に聞こえてしまってもおかしくない。

 年寄りの冷や水なんて言ったら絶対に不機嫌になっちゃうよ……。

 そんな私たちを見て、ナイルさんは苦笑を浮かべるのだった。


(つづく……)
 
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