嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第2-3節:挑発ポプラと激怒モーリス

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 その後、私たちはモーリスさんが住んでいるであろう家へと移動した。そしてドアを強く叩いてから私は『こんにちはー!』と声を張り上げる。

 するとわずかな間が開いてから彼の返事が聞こえてくる。

「奥方様たちかっ? 今は手が離せん! ドアの鍵は開いとるから勝手に入ってくれ!」

 どうやら彼は何かの作業をしているらしい。耳を澄ませてみると、確かに奥の方からかすかに何かの物音が聞こえる。もちろん、それだけでは何をしているのか見当もつかないけど。

 私たちは顔を見合わせてうなずくと、まずはナイルさんがドアを開けて中に入り、それに続いて私、最後にポプラという順番で歩を進めた。



 ――そこは薄暗い空間だった。

 窓のカーテンが全て閉められているということもあり、ランプの淡くも温かな黄色の光が周囲を照らしている。また、若草のような鮮烈で心の落ち着く香りが周囲の空気を満たしている。

「はわぁ……いい香りなのです。それに室内は意外に綺麗きれいなのです」

「こらっ、ポプラ! 『意外に』は余計じゃわい。ワシは気付いた時に少しずつコツコツと整理整頓や掃除をしておるからな。大ごとになる前に手を打っておく――そういう性格なんじゃよ」

 ポプラのつぶやきに対し、奥の作業台で手を動かしていたモーリスさんが強い口調で不満を漏らした。

 よく見ると彼はすり鉢で何かの葉を磨り潰しているようだ。また、それとは別にキッチンの炉には鉄瓶が載せられ、何かを煎じている様子もうかがえる。室内に広がる香りの元はそれらなのだろう。

「モーリスさんは何をなさっていたんですか? 見た感じ、調薬のようですが」

「その通り。ワシは回復薬を作っていたんじゃ」

「えっ? どこか怪我けがでもなさったんですかッ?」

 私が目を丸くしながらモーリスさんに問いかけると、彼は大笑いしてから首を横に振る。

「いやいや、ワシはどこも怪我けがをしておらんよ。これはバトルバードに使う薬じゃ。奥方様たちは家の外にある小屋にバトルバードがいるのを見たじゃろう?」

「あ、はい。確かに見ましたが……」

「今朝、エサと水をやった時にあちこち擦り傷や切り傷があるのに気付いてな。それで薬を作ってやっていたワケじゃ」

「あぁ、なるほど。そういうことだったんですね」

「……ちなみに奥方様たちの会話は全て聞こえておったぞ。特に誰かさんはワシに対して『年寄りの冷や水』などと失礼なことを言っていたようだな。のぉ、ポプラ?」

 モーリスさんは声にトゲを含ませ、鋭い眼光をチラリとポプラに向けた。

 それに対してポプラは体をビクッと震わせると、素早く私の後ろに半身を隠してヘラヘラと薄笑いを浮かべる。

「き、聞き間違いではないのですかぁ? モモモ、モーリスさんっ、きっと耳までおかしくなったのです!」

「……ほぉ? この期に及んで挑発してくるとは、いい度胸をしておるのぉ? ますますワシを怒らせたいようじゃな? よしよし、年長者に対する気遣きづかいを知らぬそのオツムにゲンコツをくれてやる。こっちに来い」

「行くわけがないのですぅっ!」

「では、特別にワシから歩み寄ってやろう。奥方様とナイルはポプラの腕を掴んで抑えておいてくれんか。――決して逃がさんようになッ!」

「ごめんなさいなのですーっ!」

 ポプラは身を縮めて豆粒のように小さくなり、私の背中に完全に隠れてプルプルと震えていた。

 そんな彼女のところへ、頭から湯気を立てつつ目を三角にしてにじり寄ってくるモーリスさん。その迫力と威圧感は凄まじく、周囲の空気はその激しい怒りによって『ゴゴゴゴゴッ!!』と振動しているかのような錯覚さえ覚える。

 確かにモーリスさんが怒るのは分かるし、今回はポプラが悪いと思う。ただ、反応を見る限り、彼女もわざとやったわけではないはず。

 だから私はすかさず両手を前に突き出し、冷静になるよう促しながら仲裁に入る。

「ま、まぁまぁ、モーリスさん! ポプラも反省しているようですし、どうか許してあげてください。お願いします。私からも謝りますので。――ごめんなさい!」

「……う、うぬぅ。奥方様に頭まで下げられては、矛を納めんわけにはいかんではないか。仕方ない、今回は奥方様の顔を立てて勘弁してやろう」

「ありがとうございます、モーリスさん。ところでバトルバードですけど、怪我けがをしたなんて仲間同士でケンカでもしたんでしょうか?」

「その可能性もあるだろうが、傷を見た感じでは別の生物と一悶着ひともんちゃくでもあったんじゃろう。バトルバードはモンスターの中でも中位レベルの強さはあるが、それでも外へ出る以上は何者かに襲われるリスクはある」

「ということは、彼らはずっと小屋の中にいるというわけではないんですね?」

 その私の問いかけに、モーリスさんは静かにうなずく。

「小屋の出入りは自由になっておる。だからヤツらは気晴らしに出かけたり、空を飛び回りに行ったりしておるよ。ワシは基本的に自身の意思に任せる主義だからの」

「へぇ、そうなんですね。でも外へ行ってもきちんと小屋に戻ってくるんですね?」

「たまに出かけたまま行方不明になるヤツもいるがな。天敵に捕食されたか、あるいは戻れなくなるようなアクシデントがあったか。気ままな旅に出たのかもしれん。でも忘れた頃にしれっと戻ってきていて、目を丸くすることもある」

「ふふっ、興味深い行動をする個体もいるんですね」

 バトルバードの意外な生態を知り、私はなんだか面白いなぁと感じた。書物で読んだ限りだと、もっと凶暴で手に余るモンスターかと思っていたのに。実際、彼らと対峙して大怪我おおけがをした人もたくさんいるのは事実みたいだし。

 もちろん個体差もあるんだろうけど、気まぐれで人間臭い部分もあるのだなぁと私の中で彼らに対する認識が大きく変わった瞬間だった。


(つづく……)
 
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