136 / 178
第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第2-2節:心と体の成長
しおりを挟むそれはノエルくんにとって嬉しいことのはずなんだけど、彼ははにかみつつも少し複雑そうな顔をしている。
「ん? どうした、ノエル? 何か言いたそうだな?」
「リカルド兄様から堅苦しい挨拶をされるのは、まだ慣れなくて変な気分がするんです……。それにひとりの貴族として扱っていただいたということで嬉しい反面、寂しくも感じます。俺たちだけの時は今まで通りにしましょう」
「そうだな。その方が僕も気が楽だしな」
ふたりは顔を見合わせると、ともに満面の笑みを見せた。息もピッタリで、本当に仲の良い兄弟という印象を受ける。
――と、そんな感じで温かな瞳でふたりの様子を眺めていると、ノエルくんがその視線に気付いたのか、こちらを振り向いた。そして真顔になって背筋を伸ばすと、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。
まさか初めて出会った時みたいに拒絶され、トゲのある言葉を投げかけられるってことはないよね……?
まぁ、それはあり得ないことだと頭では分かっていても、私は自然と緊張して表情が強張ってしまう。
程なくノエルくんは私の目の前に立つと、頬を優しく緩めて私を見上げてくる。
……あれ? なんだか彼は最後に会った時と比べて、ほんの少し身長が伸びたかも。心だけじゃなくて体もしっかり成長してるんだなとあらためて実感する。
「シャロン姉さん、ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました」
「こちらこそ。本当に大人びたね、ノエルくん。カッコイイよ」
「か、からかわないでください。照れくさいです。でもシャロン姉さんにそう言っていただいて嬉しく思います」
「からかってなんかいないよ。私の本心だよ」
私はクスクスと微笑みながら、顔も耳も真っ赤にして照れているノエルくんを見下ろした。可愛らしくて思わず目の前にある彼の頭を撫でてあげたくなるけど、それはなんとか踏み留まる。
それこそ大人びてきている彼を子ども扱いするのは良くないし、失礼だもんね。
周りにいるスティール家に仕える人たちだって、その馴れ馴れしさを不快に感じるかもしれない。
「シャロン姉さんも……その……相変わらずお美しいです! お世辞ではなくて、俺も本心でそう思っています!」
「っ……そ、そうなんだ? 照れちゃうな……」
「フィルザードを離れて以降、何度もシャロン姉さんとの思い出を懐かしんで過ごしてきました。そしてこうしてまたお会いできて、なんだか胸が一杯です。熱い感情が今にも爆発しそうになっています」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってくれて光栄だな」
「……っ……えっと……その……もしシャロン姉さんさえ良ければ……」
俯いたままモジモジして、何かを言おうとしているノエルくん。
もしかして私に甘えたいのだろうか? でもそういうところがあったとしても、まだまだ年相応という気がして私は微笑ましく思う。
と、心の中で春風のような温かさを感じていると、苛立った空気を纏わせた大きな咳払いがすぐ横から聞こえてくる。
「――おい、ノエル。どさくさに紛れて『シャロン姉さーん!』とか叫びながら、彼女に抱きつこうなどと考えていないだろうな? いくらお前でも、シャロンへの過度なスキンシップは絶対に許さんぞ?」
そう言い放ったリカルドは、険しい目つきでノエルくんを睨み付けていた。
ピリピリとした一触即発の緊張感と得も言われぬ威圧感が漂い、明らかな敵意を滲ませている。不機嫌度は最高潮。ほんの少し前までふたりの間に流れていた和やかな雰囲気は嘘のようだ。
それに対してノエルくんは血相を変え、怯えながら首を何度も激しく横に振る。
「そ、そんなことしませんよ! リカルド兄様の逆鱗に触れたくありませんので!」
「……ならばいい。釘を刺しておくが、シャロンは僕の大切な妻だということを決して忘れるな」
「も、もちろんです……」
「まぁ、彼女と握手くらいならしても問題ない。挨拶の範疇だからな。そしてその言葉の意味、僕と付き合いの長いお前なら分かるな?」
「は、はい……。そこがボーダーラインということですよね?」
恐る恐る発したノエルくんの返答に、リカルドはニッコリと微笑みながら満足げに頷いた。無言でのその反応だからこそ、ノエルくんはより寒気や恐怖を感じているかも……。
(つづく……)
20
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる