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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第2-1節:ノエルとの再会
しおりを挟むその後、私たちはアリアさんの先導のおかげで何事もなくスムーズにヴァーランド領内を進むことが出来た。そして最初の関所を通過してから二日後、ようやく城塞都市・ヴァーランドへ到着となったのだった。
その町の中心部に大きくそびえ、圧倒的な存在感を放っているのがヴァーランド城。そこは地理的に小高い丘の上となっていることもあり、街中であればどこからでも眺めることが出来る。
今、私たちが進んでいるメインストリートも例外ではなく、常に視界の隅に捉えている状態となっている。もちろん、遠くの位置ではこうして小さく見えていても、すぐそばまで近寄れば巨大で堅牢な建物群であろうことは想像に難くない。
そのヴァーランド城こそ今回の地方会議の会場であり、スティール伯爵が居住して公務を行っている場所でもある。
「わぁ……すごいな……」
私は街の賑やかさと活気に圧倒され、思わず驚嘆の声を漏らしていた。
行き交う人々の多さだけでなく、店や市場には生鮮食品や加工食品、生活用品、衣服、武具、魔法道具、宝石や貴金属、薬品などのほか、家畜や家禽といった動物まで揃っている。これならおカネさえあれば大抵の物が手に入ることだろう。
さらに娯楽施設や飲食店、宿泊所、両替商、奴隷商、遊郭、ギルドといったものも所狭しと林立し、傍目にも物的に豊かなのが明確に分かる。
フィルザードで最も大きな市街地のエンシル地区だけど、まさかそれすらも霞んでしまうほどの規模だとは想像だにしていなかった……。
そして私たちはそれらがあるメインストリートを進んでいき、やがて緩やかな坂道に差し掛かる。
そこを上った先にあるのが、目的地であるヴァーランド城。巨大な主城に加え、いくつもの建物や櫓、それらを取り囲む城壁が有無を言わさぬ軍事力や権力を誇示している。
なお、山のように巨大な門の左右には多くの兵士さんたちが微動だにせず、整然と並んで佇んでいる。私たちが町に到着したとの報告がどこからか伝わり、出迎えのために待機しているのだろう。
彼らの中心には礼服やドレスなどを身に付けた人たち数人が立っていて、こちらの様子を窺っている。彼らだけは周囲と明らかに違う高貴な身なりと雰囲気。その中に唯一、私の知っている人物がいる。
もちろんそれはノエルくん――。
ただ、最後に会った時と比べると精悍な顔つきをしていて落ち着きもある。また少し成長して、大人びたという感じだろうか。本当に男子はちょっと見ない間に大きく成長するものなんだなと感心する。
そういえば、彼の親衛隊長を務めているキールさんの姿が見えないけど、どうしたのだろう? 怪我の治癒具合が良くないのか、それとも別の場所の警備任務に当たっているということなのか。まぁ、あとで訊いてみることにしよう。
こうして私たちは門の前に到着し、リカルドと私が先頭に出て前へと進んでいく。
「リカルド兄様ぁーっ!」
私たちが歩み寄っていく最中、ノエルくんが屈託のない笑みを浮かべながら駆け寄った勢いのままにリカルドへ抱きついた。まるで堪えていた喜びの感情が爆発したかのようだ。
さらにその後は愛しそうに彼の胸に顔を擦りつけて喜んでいる。
それに対してリカルドは苦笑しながらノエルくんの後頭部を優しく撫でる。
……あはは、この光景には既視感があるなぁ。
ただ、私たちは旅をしてきたままの格好だから、あんなに強くリカルドに抱きついたらノエルくんの服が汚れてしまうんじゃないかと心配になる。まぁ、リカルドと再会できた嬉しさの方が勝っていて、本人は気にしていないだろうけど。
「相変わらずだな、ノエル。だが、元気そうでなによりだ」
「リカルド兄様こそ、お変わりないようで。ようこそ、我がヴァーランドへ! 歓迎します!」
「うむ、しばらく世話になる。よろしく頼むぞ。もっとも、今回は会議で忙しいし、ほかの貴族たちもいるから、あまり相手をしてやれないかもな。その点は許せ」
「はいっ、分かっています」
「ほぉ? 随分と聞き分けが良くなったじゃないか」
「俺も伯爵家の嫡子ですから。公私の区別を付けねばなりません」
凛とした表情でリカルドを見つめ、ハッキリと言い放つノエルくん。その瞳には光と力強さがあって、成人男性のような雰囲気が感じられる。
横に立って様子を見ている私も、それには思わず少しドキッとしてしまう。
リカルドもそんな成長したノエルくんに間近で接して、目を丸くしている。
「……お前、本当にノエルか? ちょっと見ない間に大人になったな。正直、驚いたぞ」
「うぅ、その言い方は酷いですよ、リカルド兄様……」
「いや、褒めているんだ。――ノエル殿、これは失礼した。貴殿のお気遣い、フィルザード辺境伯として御礼申し上げる」
リカルドは一歩下がって軽く頭を下げ、畏まって御礼を述べた。それは彼がノエルくんをひとりの貴族としてあらためて認め、敬意を表したということなのかもしれない。
(つづく……)
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