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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第2-2節:心と体の成長
しおりを挟むそれはノエルくんにとって嬉しいことのはずなんだけど、彼ははにかみつつも少し複雑そうな顔をしている。
「ん? どうした、ノエル? 何か言いたそうだな?」
「リカルド兄様から堅苦しい挨拶をされるのは、まだ慣れなくて変な気分がするんです……。それにひとりの貴族として扱っていただいたということで嬉しい反面、寂しくも感じます。俺たちだけの時は今まで通りにしましょう」
「そうだな。その方が僕も気が楽だしな」
ふたりは顔を見合わせると、ともに満面の笑みを見せた。息もピッタリで、本当に仲の良い兄弟という印象を受ける。
――と、そんな感じで温かな瞳でふたりの様子を眺めていると、ノエルくんがその視線に気付いたのか、こちらを振り向いた。そして真顔になって背筋を伸ばすと、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。
まさか初めて出会った時みたいに拒絶され、トゲのある言葉を投げかけられるってことはないよね……?
まぁ、それはあり得ないことだと頭では分かっていても、私は自然と緊張して表情が強張ってしまう。
程なくノエルくんは私の目の前に立つと、頬を優しく緩めて私を見上げてくる。
……あれ? なんだか彼は最後に会った時と比べて、ほんの少し身長が伸びたかも。心だけじゃなくて体もしっかり成長してるんだなとあらためて実感する。
「シャロン姉さん、ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました」
「こちらこそ。本当に大人びたね、ノエルくん。カッコイイよ」
「か、からかわないでください。照れくさいです。でもシャロン姉さんにそう言っていただいて嬉しく思います」
「からかってなんかいないよ。私の本心だよ」
私はクスクスと微笑みながら、顔も耳も真っ赤にして照れているノエルくんを見下ろした。可愛らしくて思わず目の前にある彼の頭を撫でてあげたくなるけど、それはなんとか踏み留まる。
それこそ大人びてきている彼を子ども扱いするのは良くないし、失礼だもんね。
周りにいるスティール家に仕える人たちだって、その馴れ馴れしさを不快に感じるかもしれない。
「シャロン姉さんも……その……相変わらずお美しいです! お世辞ではなくて、俺も本心でそう思っています!」
「っ……そ、そうなんだ? 照れちゃうな……」
「フィルザードを離れて以降、何度もシャロン姉さんとの思い出を懐かしんで過ごしてきました。そしてこうしてまたお会いできて、なんだか胸が一杯です。熱い感情が今にも爆発しそうになっています」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってくれて光栄だな」
「……っ……えっと……その……もしシャロン姉さんさえ良ければ……」
俯いたままモジモジして、何かを言おうとしているノエルくん。
もしかして私に甘えたいのだろうか? でもそういうところがあったとしても、まだまだ年相応という気がして私は微笑ましく思う。
と、心の中で春風のような温かさを感じていると、苛立った空気を纏わせた大きな咳払いがすぐ横から聞こえてくる。
「――おい、ノエル。どさくさに紛れて『シャロン姉さーん!』とか叫びながら、彼女に抱きつこうなどと考えていないだろうな? いくらお前でも、シャロンへの過度なスキンシップは絶対に許さんぞ?」
そう言い放ったリカルドは、険しい目つきでノエルくんを睨み付けていた。
ピリピリとした一触即発の緊張感と得も言われぬ威圧感が漂い、明らかな敵意を滲ませている。不機嫌度は最高潮。ほんの少し前までふたりの間に流れていた和やかな雰囲気は嘘のようだ。
それに対してノエルくんは血相を変え、怯えながら首を何度も激しく横に振る。
「そ、そんなことしませんよ! リカルド兄様の逆鱗に触れたくありませんので!」
「……ならばいい。釘を刺しておくが、シャロンは僕の大切な妻だということを決して忘れるな」
「も、もちろんです……」
「まぁ、彼女と握手くらいならしても問題ない。挨拶の範疇だからな。そしてその言葉の意味、僕と付き合いの長いお前なら分かるな?」
「は、はい……。そこがボーダーラインということですよね?」
恐る恐る発したノエルくんの返答に、リカルドはニッコリと微笑みながら満足げに頷いた。無言でのその反応だからこそ、ノエルくんはより寒気や恐怖を感じているかも……。
(つづく……)
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