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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第3-1節:特別扱いの善し悪し
しおりを挟むカイン様たちの出迎えを受けたあと、私たちはアリアさんの案内でヴァーランド城の敷地内を進んでいった。
大門を通った先――城壁の内側には広い庭園があり、花壇や池のほか、倉庫、兵舎、官舎、馬小屋、工房など様々な建物も設置されている。
当然、道は敵に攻め込まれにくいよう細く入り組んでいる上、空堀や急階段が設置されるなど地形の起伏は激しい。さらにいくつもの中門で区切られた狭い空間では、左右の壁の穴や櫓の上から矢などで攻撃することが出来るような構造にもなっている。
まさに現役の軍事施設といったところ。フィルザードのように朽ちて有名無実化した防衛力ゼロのそれとは雲泥の差だ。フィルザードは他国と国境を接しているからこそ、領主の居所は本来こうであるべきなんだろうけどね……。
――うん、万が一に備え、しっかり見て勉強しておこう。そしてフィルザードもいつかはそれなりの防衛力を整えないと。
だって水路や風車が順調に稼働し、土地が豊かになるということは他所から見ても魅力的に映るということ。それだけ狙われる可能性も高くなる。将来を見据えて布石を打っておくのが大切だ。
そんなことを思いながら道を歩いていると、私たちを先導するアリアさんが顔だけをこちらに向けてリカルドに声をかける。
「リカルド様やフィルザードの皆様の宿所は、主城の隣に建てられている別宅となっております。城内のゲストルームより広々としていますし、ほかの貴族の皆様への気遣いも少なく済んで過ごしやすいのではないかと、父がノエル様に提案しまして」
「宿所に別宅が指定されているのは、僕たちだけか?」
「はい、ほかの貴族の皆様は城内のゲストルームに滞在していただきます。その側近の方々以外には、城塞都市内にある民間の最上級ホテルを確保しました」
「フィルザード家だけは側近も兵も同じ建物内に滞在することになるということか。確かに気心の知れた者たちがずっと一緒なら少しは息もつける、か……」
そう呟いたリカルドは何か思うところがあるような、どこか複雑そうな表情をしていた。
でもその気持ちはなんとなく私にも分かる。だってこの状況は気遣いによる特別扱いをしてもらっているとも捉えられるけど、宿所が別宅ということは隔離されているとも考えられるから。
何かがあってもほかの貴族には被害が及ばず、それどころか異変に気付かれることすらないという可能性もありうる。フィルザード家の関係者をまとめて葬り去るには都合が良い。
当然、リカルドだってそのことを理解しているはずだから、あんな表情をしているんだと思う。
でも次の瞬間、彼はそうした本心を隠すかのように眉を開いて小さく息をつく。
「なるほど、それならノエルも羽目を外して僕に甘えに来やすいしな。『ほかの貴族たちへの気遣い』というのは、僕たちがというよりノエルがという意味合いの方が大きいのではないか?」
「あはは、ご明察です」
「おおかたそんな話をラグナはノエルに持ちかけたんだろうな。ラグナらしい配慮だ」
リカルドのその言葉が、私には皮肉混じりのように感じた。
さすがにここは敵地の真っ只中。ある程度の不利があることは承知でいたけど、いざその現実を突きつけられるとやっぱり多少は気が重くなる。リカルドも頭が痛いことだろう……。
でもだからこそ私が彼を支えないと。私が気弱になってどうする。臍に力を入れて気を引き締めつつ、引き続き私はふたりの会話を見守る。
「なお、城内と同様に別宅にもしっかり警備の兵たちを配置しますのでご安心ください。もっとも、城塞都市内かつヴァーランド城と隣接して建てられていることを考えれば、余程のことがない限り安全のはずですが」
「まぁ、スティール家の嫡子であるノエルが僕たちと過ごす時間も長くなるだろうし、それは当然だろうな。ところで、アリアはヴァーランドへ戻って以来、どこで暮らしているんだ?」
「城内にある一室です。私もほかの役人たちと同様に、城の敷地内にある官舎に入居するつもりだったのですが、カイン様や父が勝手に決めてしまいまして……」
アリアさんは額にシワを寄せ、ため息とともに頭を抱えた。その雰囲気から察するに、彼女は自分の受けている特別な待遇を本気で迷惑がっているようだ。
それを見てリカルドは少し呆れたような苦笑いを浮かべる。
「キミはカイン殿にとって姪に当たるのだから、特別扱いするのも当然だろう。ありがたくその厚意に甘えておけばいい」
「しかしそれは公平性に欠く扱いですし、同僚たちに申し訳がない気がして。あくまでも私はスティール家に仕える役人のひとりという立場なのですから」
「……ふふ、相変わらず真面目だな。どうやらキミは昔と変わっていないようだな。僕は安心した。キミのそういう愚直なところ、好感が持てるぞ」
「っ!? ……あ……ありがとうございます……リカルド様」
頬を真っ赤に染め、軽く俯くアリアさん。垂れた前髪を手で掻き上げたその向こう側には、どことなく嬉しそうな表情がある。
やっぱりリカルドに対して、幼馴染み以上の感情がきっとあるよね……。
(つづく……)
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