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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第4-7節:心からの雪融け
しおりを挟むそれにしても、彼女の残していった言葉は当たっているような外れているような、複雑で答えの出ないものだったような気がする。でもそこに凄みがある。
だって本当に狡猾な人物なら自分で自分を狡猾だなんて言わないところ、あえてそれをすることによって『狡猾ではない』と思わせるのが狡猾というか……。
どこまで裏を読めばいいのか分からないし、だからこそ身動きが取りづらくなる。
当然、私がそうした思考に至る相手だと分かって、彼女はその選択をした。誰に対しても同じことを言うとは思えない。
いずれにしても、一筋縄ではいかない御方だというのは確かだ。味方にいれば頼もしいけど、だからこそ敵には回したくない。
やれやれ、貴族の中にはああいう一癖も二癖もあるような御方がたくさんいるんだろうな。私なんてまだまだヒヨッコなんだと痛感させられる。うまく立ち回っていけるか、不安になる。
あはは……今になって少し体が震えてきた……。
社交界って思っていた以上に精神がゴリゴリに削られて疲弊する。むしろアンヌ様のように分かりやすいタイプの方が気が楽だ。
私はそんなことを感じながら気を取り直し、今回の件で動いてくれたアリアさんに感謝を述べる。
「アリアさん、お手数をおかけしました。色々とご配慮いただき、ありがとうございます」
「いえ、私は大したことをしていません。それにシャロン様のことはリカルド様から頼まれていましたので……。ただ、シャロン様の心が少しでも晴れたり、不安を取り除いたり出来たなら私も嬉しいです。幼馴染みの大切な人は、私にとっても大切な人ですからねっ♪」
アリアさんは気さくな感じでそう言って、照れくさそうに微笑んだ。その雰囲気はあの純真なお義姉様ともどこか似ているような気がする。
そしてその屈託のない姿を見て、今の言葉は彼女の本心なのだと私は感じた。裏があるとか、社交辞令だとはどうしても思えない。もちろん、あくまでも私の勘に過ぎないけど……。
だとすると、私はアリアさんのことを誤解していたかもしれない。
自分の心の稚拙さと勝手な思い込みで真意が見えていなかったことが恥ずかしくなってくる。途端に彼女に対して申し訳ない気持ちが湧き上がる。
「あの……ごめんなさい……」
「っ? どういうことですか? なぜ謝るのです?」
「実は私、アリアさんにあまり良い印象を持っていなかったんです。だからそういう雰囲気がきっと知らず知らずのうちに出ていて、嫌な想いをさせてしまったんじゃないかと思いまして……」
私は唇を強く噛んでいた。それに対してアリアさんはポカンとしていたけど、やがて不意に小さく息を呑んでからクスクスと笑い出す。
「あはは、なるほどそういうことですか……。もしかして私がリカルド様と仲良くしているのを見て、嫉妬していたんですか?」
「かも……しれません……」
「ご安心ください。仲が良いのは確かですが、それは幼馴染みとしてのことですよ」
「はい、本当にアリアさんはリカルドや私のことを想って、見守ってくれていたんだなって気がしています。ただ、お会いしてすぐの頃はそうは考えが至らなくて……」
アリアさんは真剣な表情をして、私の呟きに耳を傾けていた。
そして全て聞き終えたあと、どこか思い巡らせるような納得しているかのような、穏やかな表情で優しい瞳を私に向けてくる。
「……ん……まぁ……正直なところ、関所でリカルド様に再会した時点では私もシャロン様に対しての嫉妬心が全くなかったわけではありません。彼をお慕いする気持ちはありましたよ」
「えっ!?」
「あ、誤解しないでくださいね! あの時はということです。今はもうそんな気はなくなりました。だってシャロン様と一緒にいる時のリカルド様を見ていたら、絶対に壊しちゃいけないなって。あんなにも幸せそうで屈託のない彼の笑顔、私の記憶の中にもありませんから」
「アリアさん……」
「それにシャロン様も素敵な方です。レイミ様もおっしゃっていたように、本当に純粋だなと感じました。私にこうして正直に気持ちを打ち明けてくれたのですから。リカルド様の幼馴染みとして、シャロン様になら安心して彼をお任せできます」
「アリアさんこそ強くて気高い、素晴らしい女性です!」
晴れやかで澄み切った空気が私とアリアさんの心を包みこんでいる。
自然と私たちはお互いに顔を見つめ、和やかに微笑み合った。もはや完全に打ち解け、心のささくれは消え去ったような気がする。
(つづく……)
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