嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
152 / 178
第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)

第4-6節:海千山千の令嬢

しおりを挟む
 
 だって私は辺境伯へんきょうはく夫人という立場とはいえ、彼女から見れば子どもと言ってもいいくらいに年下。ポプラに至っては使用人だ。

 それに対してあくまでも少し接しただけの印象だけど、レイミ様はおそらく根っからの貴族でプライドも高いはず。そんな人が抵抗感もなくすんなりと、しかも彼女自身には無関係の件に関して私たちに頭を下げるなんて思わなかったから。

 慌てて私はレイミ様に身振り手振りを交え、頭を上げるよう促す。

「そ、そんな……何も非がないレイミ様にお詫びいただくなど――」

「シャロン様もメイドさんも、本人からの謝罪でなければ納得できないかもしれませんが、この場は私の顔を立てると思ってどうか矛をお納めください」

「は、はい……それはもちろん……」

 私が視線をチラリと横に向けると、目が合ったポプラも焦りつつ激しく首を上下に振っている。

「バンタン様――当家の旦那様には私からきちんと説明しておきます。アンヌがあらぬことを吹き込んで、ルティア家とフィルザード家の関係がギクシャクするのは困りますので。シャロン様もリカルド様にどうかうまくお取りなしください」

「か、かしこまりました」

「ただ、勘違いをなさらないでくださいね。私がこうして水面下で動くのは、単純な損得勘定です。有事が起きた時のことを考えれば、両家は良好な関係を築き続けておかねばなりませんから」

「……はい、おっしゃる通りだと私も思います。当地域はトレイル王国と国境を接する最前線ですものね。私たちフィルザードはもちろん、高い山を隔てているとはいえルティア子爵ししゃくの領地であるフォルティも」

「えぇ、私たちの足並みが乱れれば、両家どころかイリシオン王国全体の滅びに繋がりかねません。それだけは絶対に避けねばなりません。下らない感情でいざこざを起こすなど愚の骨頂です。アンヌはそれが理解できていない――と、少し愚痴ぐちが入ってしまいましたね」

「いえ……お気になさらずに……」

 私が苦笑するとレイミ様もフッと表情を緩め、穏やかな眼差しを向けてくる。

「それにフィルザードは今、大きな領地改革を進めているとか。もしそれが軌道に乗れば、人の往来や物流が活性化することにより近隣にある当地にも恩恵があるやもしれません。損得勘定というのは、そういうことも含みます」

「確かにフォルティは港のあるポラストンとフィルザードの中間に位置しますもんね。商業の活性化という波及効果はあり得ると思います。ちなみに私にはそもそも今回のことをこじらせる気はありませんので、その点はご心配なさいませんよう」

「そうですか、それを聞いて安心しました。まぁ、なんにせよ『損得勘定』という理由なら『義理立て』という理由よりも明快で分かりやすく、シャロン様も納得するでしょう? むしろ『義理立て』なんて言われたら、色々と考えてしまう」

「確かにここまでハッキリと損得勘定とおっしゃられたら、いぶかることなくうなずくしかありません。ただ、そうした対応を含めて、今回の件で私はレイミ様の言動に感服しております」

「……へぇ?」

 私の言葉を聞いてレイミ様は怪しく口元を緩め、興味深げな声を漏らした。

 もちろん、単純な相手なら上機嫌になって喜んでいるだけなんだろう。でも今までの会話で彼女はかなり頭脳明晰めいせきな人物だというのは理解したから、その可能性は低い。

 だとすれば、何か思うところがあって私を値踏みしているのではなかろうか? つまり私も彼女にあなどられないような応対を示さなければならない。


 要するにこの駆け引きも外交のひとつ――。


 当然、緊張やプレッシャーを感じずにはいられない。私はそうした想いを内面に隠しつつ、素知らぬ振りをしてニッコリと微笑みながら話を続ける。

「だってここまでされては、私はレイミ様に恩を感じずにはいられませんから。今後、何かあれば私はレイミ様やルティア子爵ししゃく家に『義理立て』せざるを得ない。自然な形で相手に恩を売るように事を運ぶとは、さすがです」

「私としてはそんな気はないのだけれど、確かにそういう見方も出来ますね」

「ただ、レイミ様がおっしゃったように『義理立て』という根拠で動くのは、端から見て分かりにくくて弱いのも事実。ですが、背後に『今回の件を穏便に収めるよう動いてもらった』という確固たる理由があればその点は補完されます。私の側にとっても動きやすい。よく計算されていると思います」

「……なるほど、私もシャロン様が想像以上に賢い御方だというのが分かりました。だって今の言葉は私にそう思わせることで、何かの交渉の際にあなどられないようにする牽制けんせいにもなりますものね」

「どうでしょうか? さすがに私をかぶり過ぎでは?」

「ふふっ、本当に面白い御方ね。そして純粋。非常に興味を持ちました。いずれにせよ、私のような狡猾こうかつな人間にはあまり気をお許しになりませんように。では、ご機嫌よう……」

 レイミ様は優雅ゆうがな仕草で私に挨拶あいさつをすると、アリアさんにも目顔や会釈えしゃくでその意を伝えてその場を去っていった。

 プレッシャーから解放され、私は思わず心の中で息をつく。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】 小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。 その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。 ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。 その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。 優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。 運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。 ※コミカライズ企画進行中 なろうさんにも同作品を投稿中です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

処理中です...