アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第三章 魔族と人間と

第167話

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 そして次の日……いよいよ人間の国へ赴くため国境に集まった。

「うわ~……こうしてこの線の前に立つとやっぱり緊張するなぁ~。」

 人間と魔族とを分けていた一本の国境という線の前に立ったアベルは言った。

「緊張……って私とアベルは一度この線を大きく踏み越えてるだろ?」

 以前ノアを助けに行った時にこの線を大きく踏み越えて、王都まで行ったというのにな。
 アベルにそう突っ込むと彼女は私に言った。

「いやさ、あの時はアレじゃん?ノアが危ない~ってなって、考える前に動いてたから……。こうして改めてここを踏み越えるって考えたら凄いことだな~って。」

 まぁ、アベルにとってはいろいろと感慨深いものなのは間違いない。
 生憎私はこんな一本の線に、何の感情も沸かないがな。

「さ、今日はたくさん村を回らないといけないんだ。こんなとこで足を止めてる暇はないぞ?」

 私は人間と魔族とを分け隔てていた線を踏み越えながら言った。

「あ!!ちょっと待ってよミノル~!!」

 私が国境を踏み越えると、慌ててアベルが後ろを着いてきた。

「ノア殿、我々も行きましょう。」

「はいっ!!」

 アベルの後ろからノアとゼバスもこちらに合流する。

「それじゃアベル、最初に向かう村はここだ。」

 私はインベントリから地図を取り出して、その地図上にある国境に一番近い村を指差した。

「えっ~と~?ここが王都で……ここが今ボクらがいるところだから…………この辺!!」

 地図で村の座標を確認しつつ、アベルは空間を切り裂いた。早速中に入ってみると、裂けた空間は目的の村の少し手前に繋がっていた。

「しばらく座標で飛んでなかったから……鈍ったか?」

「ぶ~っ!!失礼だなぁ~……いいじゃん目の前にあるんだからさっ?」

 軽く失敗したアベルを弄っていると、ノアがいち早く村の異変に気が付いた。

「建物が壊れてる…………っ!?まさかっ!!」

「ノアっ!?」

 何かを予感したノアは私達を置いて、先に村の中へと飛び込んで行った。

「私達も行くぞ。」

「うん!!」

 私達も急いで村の中へとノアのことを追いかけていくと……村の中はひどい有り様だった。
 建物は破壊され、あちこちに血のようなものが飛び散っている。

 アベルは飛び散った血を指で掬い、じっと眺めると口を開いた。

「……これ、魔物の血だ。まだ新しいね。」

「っ!!こうしてはれん!!」

 魔物の襲撃があったことを察したゼバスはいち早く村の中を駆けていく。

「あの様子を見るに……昨日まではここは何ともなかったみたいだな。」

「そうみたいだね。」

 冷静に状況を把握していると……。

「グルルルル…………。」

「お?」

 壊れた建物の中から見覚えのあるオオカミのような魔物が何匹も姿を現し、私とアベルの事を取り囲んできた。

「ウルフか~……この子達じゃあんな建物を壊したり出来ないと思うんだけどなぁ。」

 周りを取り囲まれながらも、冷静にアベルは分析する。すると、村の奥でドン……と何かが激しくぶつかり合う衝撃音が聞こえてきた。

「はっはぁ~……本命はあっちかぁ~。」

「アベル、冷静に分析してるとこ悪いんだが……。コイツらをまずどうにかしてくれないか?」

 今にも飛びかかってきそうなんだが……。

 アベルがウルフと呼んだ魔物は目が血走っていて、口元からは絶えず涎がポタポタと地面に垂れている。
 私達のことを食料としか認識していないらしい。

「え?ウルフぐらいミノルでも倒せるでしょ?」

 ぽかんとした表情でアベルは言った。

「いや、無理だろ!?こちとらそういう経験ゼロだぞ!?」

「大丈夫大丈夫~、少しとはいえカミルとヴェルの力を取り込んでるんだし~……ねっ?もちろん危なくなったら助けるからさっ。」

 さっき弄ったお返しとばかりにアベルは私に戦闘を強要してくる。

 すると、私の目の前でこちらを威嚇していた一匹が飛びかかってきた。

「ガルアァァァッ!!」

「~~~っ!!」

 飛びかかってきたウルフに私は、無我夢中で握った拳を振り抜いた。
 すると、手に硬い毛の感触とバキバキと何かが砕けたような感触が伝わってきた。

 恐る恐る眼を開けてみると、私に飛びかかってきたウルフは大きく吹き飛び、家の外壁に頭から突き刺さっていた。

「お~……派手に飛んだね!」

 パチパチと拍手する音が聞こえ後ろを振り返ると、にやにやと笑みを浮かべるアベルがそこにはいた。
 そして気が付けば……私達のことを取り囲んでいたウルフは一匹もいなくなっていた。

「ねっ?大丈夫だったでしょ?」

「次は勘弁願いたいな。この何かを殴る感触ってのはどうにも好きになれない。」

 未だに手に残る感触は、正直二度と味わいたくはないものだった。

「残りのウルフは?」

「ボクがやっといたよ~。」

 ケロリとした表情でアベルは言った。私が一匹倒したとはいえ、十匹以上いたと思ったんだが……。

 さすが魔王だな。

「辺りに後は魔物の気配はないし、ボクらもノア達のとこに行こ?」

「あぁ。」

 ウルフを片付けた私たちはノア達のもとへと急ぐのだった。
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