アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第三章 魔族と人間と

第174話

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「ん~~~っ!!はぁ~~~……終わった。」

 明日使う予定の問診票を全て書き終えた私は椅子の背もたれに寄り掛かりながら、大きく背伸びをした。
 すると、バキバキと背骨が鳴る音がシン……した書庫に響き渡った。

 座り続けて凝り固まった体をほぐしていると、突然書庫の扉が開いた。

 そして……

「お疲れ様です。お師様。」

「ん?ノノか……。」

 扉を開けて入ってきたのはノノだった。いつもならこの時間にはベッドに潜り込んでいるはずなんだが……。

 と、不思議に思っていると。

「お師様、お風呂……まだですよね?」

「ん、あぁ今から入るところだ。」

「じゃあノノと一緒に入ってください!!」

 唐突にそうお願いされ、困惑したが……ひとまず理由を問いかけてみることにした。

「な、なんでまた……。前にも言ったろ?お風呂は普通は同じ性別の人と入るんだぞっ……って…………。」

 そう口にしていた私の目に、瞳の縁に涙を浮かべ、うるうるとしているノノの表情がハッキリと写ってしまった。
 どうやら今日はどうしても……ということらしい。

 …………はぁ、私もまだまだ子供には甘いな。そういう目を向けられると断るに断れなくなる。

「わかった、でも今日だけだぞ?」

 自分の甘さに心のなかで大きくため息を吐き出しながら、私はノノのお願いを承諾した。

「えへへ……ありがとうございます!!」

 そう言って満面の笑みを浮かべるノノ。こういう純粋な笑顔を見てると疲れが癒えるな。
 ノノの笑顔に癒されながら私とノノは浴室へと向かうのだった。











 そして二人で温かいお湯に浸かっていると、不意にノノが口を開いた。

「お師様は……初めて一緒に入ったときのこと、覚えてますか?」

「初めて一緒に入ったとき?もちろん覚えてるぞ。」

 ノノが言うそれは、多分彼女が口がきけなかったときに入ったあの時のことだろう。

「あの時……すっごく嬉しかったんです。幸せで……今も、お師様とこうやって一緒にいれるだけで、すごくノノは幸せなんです。」

 それからノノはポツポツと話し始める。

「前にカミル様達と話してるのを聞きました……。お師様はこの世界の人じゃないんですよね?」

「あぁ。」

「その……前にいた世界に戻りたいって思いますか?」

 ノノの問いかけに、今まで考えていなかったことを私は思い出すことになった。いや、正確には……考えないようにしていたことを思い出すことになったのだ。

 それは元の世界への帰還方法。

 この世界に来てまもなくの頃読んだあの本には、元の世界への帰還方法は未だとだけしか書かれていなかった。

 つまり、可能性はまだあるかもしれないということだ。仮にもし……本当に帰る方法が無いのであれば、と書くはずだ。
 それをわざわざ見つからなかった……と置き換えて書いていたということはつまりそう言うことなのだろう。

 改めてその問題に向き合っていると、ノノが不安そうな表情を浮かべながら言った。

「や、やっぱりお師様は元の世界の方がいいですか?」

 そう問いかけてきたノノの頭に私は手を置いて微笑みながら言った。

「そう不安がるな。私は元の世界に戻りたい……とは思っていないさ。」

「で、でもっ……その世界にはお師様の家族とか……友達とか……。」

「いないよ。家族もいないし、友人と呼べるほど仲がいいやつもいなかった。……それに、あっちは確かにいい世界だったけど何かと不自由だったからな。」

「じゃ……じゃあ!!ずっとノノと一緒にいてくれますか!?」

 私の言葉にノノの表情が一気に明るくなった。

「あぁ、約束する。」

 あっちよりも、こっちの世界の方が楽しいからな。

「えへっ……えへへ♪嬉しいです……。」

 嬉し涙を流しながらノノは私にぎゅっとしがみついてくる。お互い裸だから肌の感触がダイレクトに伝わってくる。

「あの……お師様、ノノの夢を聞いてもらえますか?」

「夢?」

「はいっ!!」

 いったいどんな夢なのだろうな?私と同じ料理人になることだろうか。それともパティシエ?
 ノノならばどっちでも活躍できるだろうな。そう予想しながらノノに夢は何かと問いかけてみると……思いもよらない返事が帰って来た。

「ノノの夢は?」

「えへへ、ノノの夢はです!!」

 満面の笑みでそう答えたノノに、思わず私は固まってしまう。

 ……そうきたかぁ~……。いったいなんと答えるべきなんだ?いや、子供の夢だ。きっとすぐに変わるだろう。となれば、今答えるべき最善の答えは……。

「ノノが大人になったらな。」

「はいっ!!」

 そう答えてお風呂を上がった私達は、体が冷えないうちにベッドに潜り込んだ。
 その時、異様にノノが体を密着させてきたが……嬉しさ故だろうと、特に気にしていなかった。

 しかし後々、私のこの発言が波乱を巻き起こすことになるとは、このときの私は思ってもみなかった。
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